〜4月24日

河口のように睡眠して、鼾は緩やかな抑揚を描いたが、寝言は立体だった。人でありたいならば、馬に内臓を蹴られる必要がある。死に、直結した意思が、言語の直訳しかゆるさない。隠語のような微笑みで、夜を膨らませたい。闇には結構、薄荷が混じっているから、拒食症の気配を、少量ずつ食う。

風が、不意に鹿だった。どの消去法で、現れたかわからない。目に少し、青空を溶かして、次は誰が、殺されるのを望むのか。静脈の続きから、夕方が生まれ続ける。新しい骨を、地面にくれる倒置法。群れのなかの鹿が、次々と裂け、一頭の脈動が油断して、森から抜け出てしまう物語に怯えている。

しずかな立ち話で、廃屋をつくる。古代の、辻褄を、原人は巻き貝へ仕舞い込んだ。貝の化石は、河川を含ませながら、誰かの空耳が、芽生えるのを待った。河口には、論理が堆積しつづけて、そこから過去が少量、産まれようとする。だから空耳は、時制の片隅で、誰もが聞いたことがある記憶と重なる。

生き過ぎてしまった鼠が、窒息を望んでいる。過去が生えて、いつまで県道にこびりついているのか。土踏まずのような人が、決まった時間を踏みながらその、一抹の不安から、新種の蛾が産まれようとする。播種のために土に触れ、爪の泥が取れない。異性のアトピーの皮膚から、夜気が群れはじめる。

気胸は、子音だけ響く痛みだった。菩提樹が、直感を聴かせてくれる。樹との距離が、異性の名前で、埋まっている。違う学校だから、クーピーの色もわずかに違う。陽射しに、疲れている庭。女の子の、髪の毛の一筋にも、虐待が絡まり、美しかった。樹が、鼓膜に沁み取られて、夜が終わるのかもしれない。

記憶の河を、無声映画が、流れている。そんなふうに疾病したい。カーディガンから、月が大量に生まれる。影が放埒な長さでのびきるとき、甥の恋人が、速記者だったらいいと思えた。詩が、空耳から生まれつづける。水面に、指紋を、溶かす。

火がほんの少し、未来の指先を灯すという今なら、自冒を美しいと、考えていい。昨日の、濡れた風のせいで、まばたきを忘れていた。蔓性の植物を、皮膚の下に、飼い慣らして、古い貨幣のように、微睡んでみる。手帳に、はさまれていた偏西風が、倒置法の予熱を、いくつも躱しながら、通り過ぎる。

歌のほうにこそ、自由があったと言う。父はつま先のほうに、河川を隠していた。息子の私は、夜にだけ使われる灯油だった。肉親の愛情を、季節が通り越す。父の過呼吸は、とても大きく、その戸惑いを立て掛けることで、本棚が満ちた。どこかで法律が改正される。地図から果物の、においが立ち込める夜、

土手の植物は、二人称で言い表す囮だった。精霊から、自由になれない植物の霊魂が過呼吸を、維管束の一筋に隠す。読書を近くにおき、葉脈に詰まる言葉を、加湿してやる。樹木の視線で、直線的に見上げる青空は、肉体に生臭く癒着し、身体ごと燃える石炭を未然形の血の中に放り込んでしまいそうになる。

異性と手をつないだ記憶を、たどる。自分ではない方の、手の人にかかる重力のかたちを想う。不必要に過度な、握力と腕力の、平均でないことのやさしさ。いつか磁石にこびりつく砂鉄のように、赦しを乞いたい。この手から、ひと続きにつながる異性にもある臓器のなかに、砂の粒にも内包する時間を隠す。

夜のほうが空気が多かった。夜気が結晶しはじめると骨は、井戸水のように少し眠り、肉体は植物の根に犯される。瞬きのたび、窓の指紋から落葉樹が、はみ出してくる。毒のように、やわらかく今、嘔吐したら自分は、述語そのものだ。自分を腐葉土の下に沈め、現れ出た架空の子宮に、帰ることができるか。

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