見出し画像

【英国】単なる賃上げ要求ではない! 教員のストライキが長引くワケ

先日、年度末のテストが終わった大学1年生の息子に「テストの結果いつ出るの?」と、連絡しました。

すると……。「分からない。採点する先生がストライキ中」という返事が来ました。

「またストライキ! 今度は大学か……」。

今年は本当にストライキの多い年でした。特に小学校。娘の学級担任は、今年の2月からこれまで3回はストライキに参加したと思います(うち2回は学級閉鎖)。

インフレが凄まじく、「給料アップ!」と叫びたくなる気持ちも分かります。けれども、これほどねじれているって、どういうことでしょうか?
気になって調べてみると、教師たちは単に「賃金を上げてほしい」と主張しているわけではないことが分かりました。


イギリス全国で教員のストライキ発生! 

2023年最初の大規模なストライキが起きたのは、2月1日。英国政府とイギリス全国教員連盟(the National Education Union:NEU)との交渉が決裂したことがきっかけでした。

このストライキには、イングランドとウェールズの数十万人という教員が参加。中には人手が足りず学級閉鎖になった学校もあります(うちもそうでした)。

NEUの「合意に至らない限りストライキを続ける」という姿勢どおり、その後も大規模なストライキが発生。以下のように、2~3月だけでもイングランド各地でストライキが発生したのです。
・2月1日:イングランド全土
・2月28日:イングランド北部・北西部、ヨークシャー地方
・3月1日:ウエスト・ミッドランズ、イースト・ミッドランズ、イングランド東部
・3月2日:イングランド南西部・南東部、ロンドン
・3月15・16日:イングランド全土

・参考記事:


過熱する教員のストライキ。英国政府の提案は?

教師たちのストライキを受けて、英国政府は2023年3月に妥協案を提案しました。

その提案は
・教師全員に一時金1,000ポンド(約174,000万円)を支払う
・2023年から2024年にかけて教員の給与を平均4.5%引き上げる
・教員の初任給(年間)を30,000(約5,220,000)ポンドにする(7.1%アップ)
といった内容でした。

・参考記事:


英国教育省によりますと、この賃上げ案は、
・予算責任局(Office for Budget Responsibility:OBR)が予測している本年度末のインフレ率2.9%を上回る
・2023~2025年の2年間に予算を20億ポンド(約3,480億円)増やし、学校への助成金を増額する。これにより、学校は約4%の賃金アップが可能
という理由から、妥当だと主張しています。


NEUは提案を拒否! そこには妥当な理由が……

英国政府は一定の数字を基に提案したわけですが(おそらく、これ以上良い妥協案はないと思ったことでしょう)、労働組合側はこれを拒否。

労働組合は、
・政府が採用しているのは、イングランド全土の平均であり、個々の学校に対応していない
・政府の提案では、すべての学校活動を助成金でまかなうことは難しく、多くの学校は給与を支払うために他の経費を削減しなければならない
・イングランドの教員の給与は、2010年から2022年の間に平均して11%下がった。インフレを考慮したら、23%低下したことになる
との理由を挙げています。

・参考記事:


つまり、こういうことでしょう。
・政府が提案している賃金アップは、減額された給与分を満たすものではない
・助成金を増額しても、賃金アップも含めたすべての経費をまかないきれない(給与を支払う代わりに何かを切り詰める必要がある)

英国の公立学校は、毎年政府から支給される助成金で運営されています。ここには、教員に支払う給与から学校給食、建物の修繕、課外授業、光熱費、事務用品の購入など全ての支出が含まれています。

たまたま娘が通う学校の校長先生と話す機会があったのですが、インフレによって助成金でやりくりするのが難しくなっているということです。政府が試算する経費の額と、実際にかかる費用の間にギャップがあり、その差額分を学校が負担しているのが現状です。

学校では定期的にバザーを開くなどして、その収入を学校の運営費に充てています。これはインフレが起きるずっと前から始まっていたことですが、そうした“副収入”を得ることが、これからますます重要になっていきそうですね。

「学校によってそれぞれ事情が異なるから、必要経費も本当にバラバラなの」
「先生たちは単に『賃金アップ』と叫んでいるわけではないの」と、校長先生はお話しくださいました。

先生たちが繰り返しストライキを実施するのは、こういう理由からだったのですね。納得しました。

さいごに


「公平で合理的な提案」とする政府と、「全国平均とせずに、個々の学校レベルで現場を把握してほしい」とする労働組合側とのギャップが、ストライキを長引かせている原因ということになりそうです。トップダウン的なものの見方ではなく、ボトムアップ的なデータを含めた考察が、政府には必要なのではないでしょうか。

教員のストライキは、ただ賃金を上げればいいというほど単純ではないんですね。

「そういえば、長男の試験の採点どうなるんだろう」という思いが、ふと頭の中をよぎりました。
何はともあれ、問題が円満に解決してくれることを祈ります!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?