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きみどり〜新古今和歌集仮名序より

(だいぶ前にご依頼いただいて上演されたことばが出てきたので載せます。気に入っている作品です。)



人間が森の中で死んだ

うずくまり すべてに恥じ入るように身体を曲げて

森の中の死体はいずれ苔むし 無数の芽を吹く

心にあらかじめ植え付いた種が芽を吹く

種はしろい根を出し 筋肉の隙間に 爪の隙間に びっしりと すきまなく張り

内側に詰め込まれた親の世代のエネルギーを吸って

それを守っていた殻をずらし ずらし 

生きていた人間には大量の枝が繁っていたので

風が吹くたびに木の葉が鳴った

小鳥も両生類も

生きとし生けるもの

反応しないということは生きていないということ

世界を動かしている別の力

数億の細菌が人間を分解して力となし

かつて人間と他の人間とをわけていた要素はすべて 別の

個体と個体をくっつける のりとなる

全身がばらばらにすべて生命となるのなら 魂になんの意味があろうか

春の山、燃えるようなきみどり

それを鏡面にうつしているかがみのかたまり

ミラーリングせよ

かがみのゆがみにしたがって

まっすぐでもなく円でもなく

正確にがたがたした線をうつせ

添え 数え なぞらえ たとえ 写生し 祝え

うたには六通りしかない

愛によって人間の花は咲くから

効率的でない すぐ死ぬ木の葉ばかり生えてきて

しらないところで人間が枯れていたり

きれいなところはコンクリートだったりする

むかしからそうだったじゃない

どんなふうにだって変化した

喜ぶにはからだがたりなくて 楽しむにはこころがたりなくて

たとえの力をかりて やっと人間は感動してきた

ねえどんな気持ち?

なにを聞いてなにを見てきた?

人間はそろそろきみどり色の小山になる

すべてをつくってきたし いまからすべてがつくられる

森の中にはたくさん人間が死んでいたよ

きみどりの小山からは蔦が生え林になって

いまでは森 そこに人間が死んでいたなんてわからない

生まれてきて死んでよかった

人間はかたちがなくなったけれど 連続はした

永遠のような時間が過ぎて 喜びという概念がべつのものになっても

森になれるなんて

この技術を知った未来人はうらやましがるでしょう

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