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月が綺麗でした。

初対面の人でも臆せず話せる。それが私の長所の一つです。

えっと。先日、ていうか昨日お客様を車でお迎えに伺いました。今の時期、お客様の送迎は多いんです。ほぼ毎日、どこかにお迎えに行ったり、送って行ったり。

送迎が多い理由は、学生さんの卒業旅行が多いから。免許は持ってるけど普段運転しないので、用心して公共の交通機関で行こうってパターンが多いように思います。

また当館には「旅を自由にカスタマイズ!食事無しの素泊まりプラン」ってプランもありまして卒業旅行のお客様はこのプランで御予約いただくことが多いです。

こちらの素泊まりプラン。食事無しなんでどっかお店で食べて来ていいですよー。って事でチェックインお時間も21時までと遅めに設定しています。

で。昨日のお客様ですね。

その素泊まりプランで御予約いただいてました。女性2名で。

年齢もお若いので卒業旅行かなーって。

ご予約の際の宿への要望欄で「19時40分にバス停に迎えをお願いします。」と書いてありましたので、お昼にお電話差し上げて改めてお時間等確認しましたら、「その時間に送迎をお願いします。」と電話確認もできました。

で。御指定通り、その時間に合わせてバス停に迎えに行きました。一応10分前に。

上りと下りの2か所あるバス停でどっちのバス停か分からないんですけど上りのバス停に着いたら二人組の女性がいらっしゃったので

「あ!この方達だ!ヤベ、待たせてしまってた!」

って、急いでその二人組の前に車を横付けして、後部座席の自動ドアを開けたんです。そして、急いで運転席から降りて二人組の前に走って行って

「すいません!お待たせしてしまいました!おおぎ荘と申します!お迎えに伺いました!」

って言ったら、その二人組が「えっ?何?何?」ってなってて。

いや俺も「えっ?何?何?」てなって。

いや。ほら、僕。迎え。何か不審な感じになってるけど。

おじさんお迎えにきたんだよー。怖がらなくていいよー。お願いだから間違っても「キャー!!!このおじさん変なんです!」とか志村けんテイスト出さないでよ。桑マンが「どーした、どーした?」って出て来ちゃうから。

私「おおぎ荘と申します。○○様ですか?」

二人組「…おおぎ荘?いえ違いますけど。」

って完全に人違いだった訳で。

まあ考えたら怖いよね。いきなり目の前にワゴン車現れて、何も言わずに後部座席のドア開いて、運転席からおっさんが飛び出してきて「お待たせしました!」とか。

ちょっとした工作員のやり方だもん。

申し訳無さと恥ずかしさで耳赤くしながら「人違いでした。すいませんでした!」って深々と頭下げてまた車に戻りました。

時計見たらまだ指定のお時間の5分前なので待っておこうと思ったら、また向こうから2人組の女性が歩いて来たんですね。

なので、間違い無いと思って目の前に行って「おおぎ荘と申します。○○様ですか?」って聞いたら

「…。違います。」

って。

はい。2連敗。


指定のお時間を過ぎてもそのバス停にそれらしい人は現れなかったんですね。

なので、もう一か所のバス停。200m程離れた下りのバス停。あっちかもしれないって考えて、そちらに移動しました。

そしたら、いるんです。2人組の女性が。

もう間違い無い!確信を持ってその2人組の前に車を止めて後部座席の自動ドアを開けて運転席から急いで降りて

「お待たせしました!バス停を間違えてました。おおぎ荘と申します!お迎えに伺いました!」

って言ったらその女性2人組が

「ハッ?」

ってなってて。

俺も「ハッ?」てなったけどもう慌てない。慌てない。

大丈夫だよ。

おじさん。さっきのでもう学習したから。そういう反応するって事は違うんでしょ。


えっ。あなた達も違うの?もうお客様のフリして乗ってってくれませんかね?ナンパ失敗し続けるおっさんみたいになっちゃってるから。

これで3連敗。

そっと後部座席のドアを閉めて深々と謝って、運転席に戻った。

運転席に座ったおじさんはふと考えました。

お客様はバス停を見つけられなくて迷ってるのかもしれない。

まずは旅館に電話して

「見つからないので、お客様にお電話してください。そこまで迎えに行くと伝えてください。」

と連絡して周囲を車に乗って、それらしい人を探しました。

温泉街がライトアップ期間中のため、けっこう若い2人組がいらっしゃるんです。

もうしらみつぶしに声をかけました。

絶対違うって分かったけど、気付いたら他の旅館さんの浴衣着て歩いてる人にも声かけてました。多分10組くらい声かけました。男性2人組にも声かけました。万が一があるって思って。

もう全然見つからない。

そのとき、旅館から電話が。連絡付いたかと期待して電話を取ったら

「お客様に何度かかけてますが電話に出ません。」


…ここに万策尽きる。

どうしよ。

「とりあえずバス停で待っておきます。」

って言って、もしかしたらお客様が時間を1時間間違えてるかと思ってバス停で待ってました。

スマホの充電も6%とかだったので連絡来たとき用に充電減らさないように触らずひたすら無人のバス停で待っていました。

待っていた時に考えたこと。

それは、これは何かのプレイなんじゃないかと。そう、一種の放置プレイなんじゃないかと。お客様では無く、女王様なんじゃないかと。何か試されてるんじゃないかと。

そんな考えを巡らせていたら、先ほどの「このおじさん変なんです!」って言うんじゃないかと思った2人組は私の本質を見抜いていたんじゃないかと。

あれこれ考えていたらあっという間に20時40分になっていました。

未だ現れぬお客様。

ワンチャン19時40分じゃなくて9時40分のつもりなんじゃないかとあと一時間バス停で待つ決意をしました。お客様に電話も繋がらず。

待っていたときに考えたこと。

それは、もうこれはこのお客様は来ない。分かってる。無断ドタキャンされている。ただ、もしかしたらこのバス停の近くのどこかにいいお宿を見つけて「もう今日はここに泊まっちゃおー!」ってなったんじゃないか。それは全然オッケー。しょうがない。それはご縁だ。

ただそこで「そういえばバス停に送迎頼んでたよね?もう1時間以上経ってるからいる訳無いと思うけど一応確認してみる?」てなって散歩がてらバス停に見に来たら、私が微動だにせず立ち構えている。

そこで「ウソ?ヤバッ!まだ待ってる!」となって恐怖感を与える。私はそれを見て微笑んで帰る。こんなホラーチックなサイコな事を考えていた。

やはり先ほどの「このおじさん変なんです!」って言うんじゃないかと思った2人組は私の本質を見抜いていたんじゃないかと。

22時を過ぎていよいよ真っ暗になって、もういいかと思って最後に電話をかけたら着拒ぽい感じになってた…。

月が輝くなか、いろんな一面を垣間見せた専務佐藤は、よーし明日は違う電話番号から無断キャンセル請求の電話かけてやるぜ!と思いながら旅館に帰りましたとさ。

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