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年100件ほどプロポーザルを読んで作った伝わりやすいプロポーザルのチェックリスト

この記事について

この記事では、日本のスクラム系カンファレンスのプロポーザルを勝手に沢山読んできた筆者(さとりゅう)が考える「内容が伝わるプロポーザルの書き方」を提案します。筆者がこれまでに読んできた中で、講演内容がどのようなものなのかを伝える目的であるプロポーザルが、その役割を果たすのに不十分な記述のため、本当は素晴らしい講演内容が伝わらずに終わってしまっているのではないか、ということを危惧しています。そこで本記事では、講演内容がわかりやすいと読み手として感じたプロポーザルを思い出しながら、それがどのような構造であったのかをチェックリスト形式で提案します。このチェックリストを用いて、より多くの伝わるプロポーザルが生まれることを願っています。

動機

先日、 株式会社カケハシの小田中さんが素敵なスライドを公開していました。これによって、多くの人がカンファレンスのプロポーザルを書こうというモチベーションが高まったのではないでしょうか。

各自取り組んでいることを外に公開していくことで、たとえ採択されなかったとしても、フィードバックを得る機会が生み出され、学習が進むという素晴らしいプロセスの提案と思いました。このスライドにより、これからのスクラム界隈のカンファレンスでは、より多くのプロポーザルが作成されると期待しています。

しかし、その一方で残念な結果も多く生まれることを危惧しています。それは「プロポーザルを読んでも、講演内容が伝わらないで終わってしまう」という問題です。

この問題は書き手だけでなく、読み手も関係するものと思っています。そこで、読み手側が、「プロポーザルの読み手にとって、どのようにかかれているとわかりやすいのか」といった情報を出していくと良いと思いました。これが、この記事を書く動機です。

プロポーザルは誰が読むのか

先の小田中さんのスライド中で、プロポーザルの定義は以下のように書かれています:

勉強会・カンファレンスで登壇者を広く募る際に 登壇希望者が提出する、「何を話すか」「参加者 は何を得られるか」を言語化したもの

https://speakerdeck.com/kakehashi/techniques-for-getting-proposal-accepted?slide=5

何を伝えるために書くべきかということがこの定義に言及されています。

では、これらを誰に伝えるのでしょうか。それは、第一に勉強会・カンファレンスで登壇を採択する権利がある人たちです。その次に、勉強会・カンファレンスに関心があり公開されたプロポーザルを読む不特定多数の人たちです。これらの人たちに向けて、伝わるように書く必要があります。

昨今のカンファレンスではオープンプロポーザル方式が採られ、不特定多数の人たちの投票(Like)をカンファレンスの実行委員は採択の判断の材料としています。RSGTのプロポーザルの採択については、実行委員の川口さんが書いているので参考になると思います。おそらく他のカンファレンスにおいても似たような採択プロセスを持っているものと推測します。

さて、この時点で1つプロポーザルに求められることがわかります。それは、文章量が求められるということです。もしプロポーザルを書くあなたがカンファレンス・勉強会であつかう界隈で誰もが知っていて、水戸黄門のごとく名を出せば相手が態度を改めるような有名人であれば、短い文章のプロポーザルでも採択される確率は高いでしょう。ですが、そのような人はごく僅かだと思います。ですので、プロポーザルには「知らない誰かに向けて、その人が知らないあなたが何を話そうとしているのか」を伝えられることが求められます。よって、自然と文章量を多くすることが求められます。

プロポーザルの構造(日本のスクラム系カンファレンスの場合)

ただ文章量を多く書けばいいというわけではありません。日本のスクラム系カンファレンス(多くはRSGT、各地域で開催されるスクフェス)のプロポーザルには下記のような構造があります。

  • Abstract(概要)

  • Outline/Structure of the Talk(講演のアウトライン・構造)

  • Target Audience(講演の対象参加者)

  • Learning Outcome(対象参加者が講演によって得られること)

  • Prerequisite for Attendees(対象参加者に求める前提条件)

講演内容を整理する上で、この構造が明らかになっていることはとても便利です。これらを埋めていけば、基本的には良いでしょう。

「基本的には」と書いたのはには理由があります。構造のそれぞれの項目を読む限りでは理解できるものの、他の項目や全体との整合性が合わないことがあります。例えば、「Abstractには出てこな言葉がOutline/Structure of the Takに出てくる」といったことがあります。この言葉は「前提知識」なのか「単にAbstractに記載漏れ」なのか「あまり重要じゃない言葉」なのか、読み手にとっては混乱の元になります。

(筆者にとって)良いプロポーザルチェックリスト

このプロポーザルの構造とそれらが関連するということを踏まえ、自分がプロポーザルを読んでいく中で気にしていることをチェックリストにしました。なぜチェックリストにしたかと言うと、読む上での作業的な部分をChatGPTに任せようとしたことにあります。

  • Abstractから、筆者が取り上げている課題が特定できるか

  • Abstractから、上記で特定した課題に対して筆者がどのような行動をとったかが特定できるか

  • Abstractから、上記の課題に対して筆者が行動を行った結果について特定できるか

  • Abstractは、Outline/Structure of the Talkに書かれている内容すべてを含んでいるか

  • Abstractの内容から、Target Audienceで指定された人たちがLearning Outcomeで挙げられていることが獲得可能であることが推測できるか

  • Abstract の最初の段落に、講演内容全体の要約を含むか。

  • Outline/Structure of the Talkは、全てAbstractに書かれている内容すべてを含んでいるか

  • Learning Outcomeの内容は、「講演内容で定義される課題」を解決可能なアクションとして記述されているか

  • Prerequisites for Attendeesで指定されている前提知識は、その前提知識を持ったTarget Audience の人たちがOutline/Structure of the Talkで構成される講演の内容を理解するために十分か

  • Prerequisites for Attendeesで指定されている前提条件は、その前提条件を持ったTarget Audience の人たちがAbstractの内容を理解するために十分か

個別に見ていきます。特にConfengineにおいて、Abstractについては多くの場所で目に付く部分であり、それと比べて他の項目は詳細を見に行こうとしない限り手に入りません。ですので、Abstractに関することが多めになっています。

Abstractから、筆者が取り上げている課題が特定できるか

提案している講演内容が事例紹介であれ、複数の事例から導かれた提案であれ、そこには解決しようとする課題があると思います。それがAbstractからわかることを確認します。課題がわからないと、事例紹介で述べられる実施内容や提案される手法を聞いたとしても、それで何が得られるのがわかりません。

Abstractから、上記で特定した課題に対して筆者がどのような行動をとったかが特定できるか

上記と関連し、課題に対して何を行ったのかがわかることを確認します。これは後のLearning Outcomeにつながる部分でもあります。

Abstractから、上記の課題に対して筆者が行動を行った結果について特定できるか

上記2つをあわせて、その結果がどのようになったのかも求められます。得られた良い結果だけでなく、期待される効果が無かったことや逆効果だったことも得られる知見として重要です。講演内容のオチが伝わる内容になっているか、ということを確認します。

Abstractは、Outline/Structure of the Talkに書かれている内容すべてを含んでいるか

これは、先に挙げた「Abstractには出てこな言葉がOutline/Structure of the Takに出てくる」といったことが起きていないことをチェックするということです。

Abstractの内容から、Target Audienceで指定された人たちがLearning Outcomeで挙げられていることが獲得可能であることが推測できるか

小田中さんのプロポーザルの定義を再掲します。

勉強会・カンファレンスで登壇者を広く募る際に 登壇希望者が提出する、「何を話すか」「参加者 は何を得られるか」を言語化したもの

https://speakerdeck.com/kakehashi/techniques-for-getting-proposal-accepted?slide=5

Abstractは「何を話すか」、そしてそこからTarget Audienceである参加者がLearning Outcomeを得られるかを確認します。

Abstract の最初の段落に、講演内容全体の要約を含むか。

Abstractは多くの情報を含むため、文章量が必然と多くなります。ですので、この講演がどういったものなのかを最初に言及しておくと読みやすさに繋がります。

Outline/Structure of the Talkは、Abstractに書かれている内容すべてを含んでいるか

講演のアウトラインに無い言葉がAbstractに出てきていないか確認します。アウトラインと要約が必ずしも一致するとは限りませんが、なるべく同じことを述べているかを要約とアウトラインの相互に確認します。

Learning Outcomeの内容は、「講演内容で定義される課題」を解決可能なアクションとして記述されているか

講演を聞いたあとに参加者が課題解決のために実行に移せる行動として、Learning Outcomeが記述されているか確認します。悪い例として、「(講演内容で取り上げたこ)を知れる」といったものがあります。これは講演を聞いた直後の状態を言い換えたものです。それが講演で取り上げている課題の解決に直接つながるのであれば良いのですが、そうでないことがあります。

Prerequisites for Attendeesで指定されている前提条件は、その前提条件を満たしたTarget Audience の人たちがOutline/Structure of the Talkで構成される講演の内容を理解するために十分か

前提知識が参加者にとって十分か確認します。十分かどうかは、アウトラインからわかる講演内容を理解できるかどうかで決まります。

Prerequisites for Attendeesで指定されている前提条件は、その前提条件を持ったTarget Audience の人たちがAbstractの内容を理解するために十分か

上記と同等ですが、要約を参加者が読む上でも前提条件が十分であるか確認します。

このチェックリストをどう使うか

これからプロポーザルを書くとき、というよりも、ある程度書ききったときに項目それぞれがどのような関係になっているかを確認するときに使うことを想定しています。というのも、自分がすでに出来上がっているプロポーザルを読んだ上で挙げていったものだからです。ですので、プロポーザルを作成するためのプロセスを作るためには役に立たないと思っています。

自分で各項目をチェックしていくのも良いと思いますが、ChatGPTなどLLMを使って評価すると作業は楽になります。例えば下記のようなプロンプトみたいにしておくと、プロポーザルを評価してもらえます。

まず、プロポーザルを教えるプロンプト

下記のPROPOSALから以下の項目の内容を抽出し、それぞれの項目をタイトルとしたMarkdown形式で出力せよ。

- Abstract
- Outline/Structure of the Talk
- Leaning Outcome
- Target Audience
- Prerequisites for Attendees

=== PROPOSAL
## Abstract
(ここに書く)
## Outline/Structure of the Talk
(ここに書く)
## Learning Outcome
(ここに書く)
## Target Audience
(ここに書く)
## Prerequisites for Attendees
(ここに書く)

そのあとに評価するプロンプトを与えます

上で抽出された項目において、下記の評価基準を満たしているか確認せよ。もし満たしていないものがあれば、その理由を書け。

- Abstractから、筆者が取り上げている課題が特定できるか
- Abstractから、上記で特定した課題に対して筆者がどのような行動をとったかが特定できるか
- Abstractから、上記の課題に対して筆者が行動を行った結果について特定できるか
- Abstractは、Outline/Sctructure of the Talkに書かれている内容すべてを含んでいるか
- Abstractの内容から、Target Audienceで指定された人たちがLearning Outcomeで挙げられていることが獲得可能であることが推測できるか
- Abstract の最初の段落に、講演内容全体の要約を含むか。
- Outline/Structure of the Talkは、Abstractに書かれている内容すべてを含んでいるか
- Learning Outcomeの内容は、「講演内容で定義される課題」を解決可能なアクションとして記述されているか
- Prerequisites for Attendeesで指定されている前提条件は、その前提条件を持ったTarget Audience の人たちがOutline/Structure of the Talkで構成される講演の内容を理解するために十分か
- Prerequisites for Attendeesで指定されている前提条件は、その前提条件を持ったTarget Audience の人たちがAbstractの内容を理解するために十分か

どう書くと良いのか

あくまでもこのチェックリストはこの記事の筆者の個人の観点です。これが全てではありません。ですので、他の人の意見も取り入れながら書いていくことが大事です。小田中さんも提案しているように、早くプロポーザルを公開することで、多くの人の目に触れる機会を作るのも良い方法でしょう。

そもそも書き出すことが難しいという悩みもあると思います。プロポーザルを書き始める活動もコミュニティで行われていたりします。この通称プロポーザルYY会では、プロポーザルを書きたいという人が会話を通して書いていくというものです。予めある程度書いた人もいれば、これから書こうといって参加する人もいます。ですので、最初の一歩で悩んでいるという人はこういったコミュニティのイベントに参加すると良いと思います。

おわりに

これからもたくさんのプロポーザルが読めるのを楽しみにしています。

それと、この記事へのフィードバックもお待ちしております。他のひとたちの「良いプロポーザルにするにはもっとここを気をつけると良いぞ!」「私はこういうところを気にしてよんでいるよ!」といった話を聞いてみたいです。


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