中二病の宇宙論 第一章

第一章 宇宙人は地球に来られるのか?

「宇宙人は地球に来ていないのか?」という疑問と「現代宇宙論の謎の答が見つけられないか?」というもうひとつの疑問から、出版の予定のない原稿を書いてみました。とりあえずnoteにおいておきますのでぜひお読みください。


宇宙人が来ていない理由や証拠は?

王山覚です。中二病です。いいオトナなのですが、宇宙人が地球に来ているのかどうかが気になって仕方ありません。
20年くらい前はそうでもありませんでした。テレビで放送されるUFO映像はCGの嘘映像ばっかりでしたし、矢追純一UFO特集もそのネタバラシ情報がインターネットでたくさん入ってきましたし。宇宙人ってオワコンだと中二病の僕でも思っていたわけです。
でも科学の世界ではこの10年ぐらいで常識が結構変わってきたんです。
たとえば最近、地球外生命体について、細菌レベルの生命であれば太陽系内の他の天体にもかなりの確率で存在すると科学者が考えるようになりました。
太陽系を離れた別の恒星系についても同じです。太陽の近隣の恒星系にハビタブル(生命が生存可能)な系外惑星がつぎつぎと発見されていますよね。そして太陽に近い別の恒星系にはもっと複雑な生物が進化する星があってもおかしくないと、これもかなりの数の天文学者は考えるようになってきています。
で、思うんですけど「宇宙人は本当にまだ地球に来ていないんでしょうか?」。前提が変わった以上、それは中学二年生の脳を持つ人間としては真剣に考えるに足る重要な「問題」です。
科学者ではない一般人の世界で、意外と多くの人が信じている話に「古代宇宙飛行士説」があります。はるか昔に宇宙から何者かがやってきた。それで古代の文明に何らかの影響をあたえた。そして彼らは自分たちの惑星に戻ってしまった。そういう説です。
この古代宇宙飛行士説は、ロズウェルに堕ちた円盤に乗っていた宇宙人がアメリカ政府と秘密協定を結んでいるという説を信じている人よりも、ずっとたくさんの数の普通の人が信じています。
にもかかわらず過去も現在も含めて宇宙人が地球に来ているのかと偉い学者に聞くと、まず間違いなく「来ているわけがない」と言うのです。その理由は「確率がほとんどゼロに近いから」です。
銀河系には無数の星があって、その中には地球を越えた高度な文明が発達している星は必ずある。だけど光速が有限であることを考えるとその星までの距離はあまりに遠い。だからそのような銀河系内の進んだ別の文明が地球人にコンタクトをすることは確率的にありえない。
オトナになる過程でみんな、その説明に納得するものですが、僕は中二病なので、自分の頭でそれが本当なのかどうかから考えてみたいと思います。


ドレイク方程式はどうなの?

宇宙人が地球に来ていないというオトナの根拠はドレイク方程式にあります。1961年にアメリカの天文学者フランク・ドレイクが「銀河系に存在して、人類にコンタクトする可能性がある地球外生命体の数を推定する」ために提唱した方程式です。
その方程式を用いると銀河系内の知的文明の数Nが推定できるのですが、1961年にドレイクが設定したパラメータによると、そのNの数は10でした。
銀河系には諸説があるとはいえ、だいたい2000億個の恒星系があるとされています。ドレイクによれば、その中には偶然、地球のような生物が進化できる環境の星があり、その中に偶然、高度な文明をもつ生命が現れ、その中で偶然、その文明が栄えたタイミングが現在と一致している星があるはずなのですが、その確率が2000億分の10ということです。
このように科学者は銀河系のどこかに高度な文明を持つ星があると信じています。しかし直径10万光年の大きさの銀河系に10個ぐらいの文明しかないということは、確率的に言えば地球から一番近い文明の星は3万光年ぐらい離れていることになる。光速宇宙船でも地球まで来るのに3万年かかる。だから地球外の文明がわれわれとコンタクトをとりあうことはまずもって難しいだろうと考えたわけです。
その後、ドレイク方程式から推定されるNの数字はだんだん増えて「1万ぐらい」というのが科学者の予測の中央値になってきました。ドレイクが算出した10というのはあまりに保守的だということです。では銀河系に全部で1万の地球外文明があったとしたら、一番近い星はどれくらい離れているのでしょうか。
同じく直径10万光年の円盤に1万の点をばらまいたとしたら、平均すれば文明と文明の間の距離は1000光年ぐらい。やっぱり絶望的に遠い距離です。前提は変わっても結論は同じということで、科学者の考えは長年変わらずにきたわけです。
一応念のために補足しておくと、ワープはだめです。ちゃんとした物理学者の理論ではワープというのはありうる技術なのですが、実際にワープしようと思って計算するとワープに必要なエネルギーは全宇宙のエネルギーより大きくなるのです。
ワームホールも同様にNGです。ワームホールも理論上ありうるそうですが、たまたま太陽系の近くに巨大なブラックホールが作ったワームホールがあって、たまたまそのワームホールが別の恒星系の近くまでつながっていて、そしてたまたまその恒星系に知的文明が発達している確率を考えると、そっちのほうがゼロに近いと思いませんか。
ですから、宇宙人が地球を訪問する際のテクノロジーとしては光速に近い亜光速の宇宙船に乗ってやってくることを基本前提として考えるべきです。そうだとしたら一番近い文明が1000光年離れていて、そこから1000年かけて宇宙人が地球に来るという話は、中二病の僕が考えても荒唐無稽に感じられます。
ところが本当にここ10年ぐらいの話なのですが、その前提がまた変わりました。それまで想像の域を出なかった系外惑星、つまり太陽系の外にある別の恒星のまわりをまわる惑星がこの10年でつぎつぎと発見されるようになり、しかも生命が誕生する可能性がある系外惑星も実際に見つかりはじめたのです。
つまり銀河系の中の惑星の数は以前考えられていたのと違い、ずっと多いと認識されるようになった。これが変化のひとつめです。
さらに太陽系内でも前提条件が変化しました。数十億年前には火星に莫大な海が存在したことがわかり、その当時の生命の痕跡、これは主に微生物を意味するのですが、それをNASAの探査機が探し始めるようになったのです。
また木星のエウロパ、土星のエンケラドスというふたつの氷に覆われた衛星には、氷の下に巨大な海が広がっていることがわかり、かつどちらの星も潮汐運動で地熱が発生しています。
最近になって地球の深海の光が届かない海底でも、熱水噴出孔と呼ばれる地熱で暖められた領域に豊かな、そして大陸棚のような水面に近い場所とは違う生態系が広がっていることがわかりました。だとすればこのふたつの衛星にも生命が誕生する条件がそろっているわけです。
このような太陽系内の惑星や衛星に地球とは異なるタイプのDNA構造を持つ細菌のような生命が発見されれば、宇宙全体で見て生命というものはありふれた存在になると考えられます。つまり生命の誕生の確率についても、以前よりもずっと高いと考えるように考えられるようになってきたのです。
それで近年ではドレイク方程式から導かれる文明の数Nは100万ぐらいではないかという意見が科学者の中から現れ始めました。
そうなると最初の前提が変わるのです。
銀河系の中に文明の数が100万あるのであれば、確率的に見れば地球からみて100光年以内にひとつ、他の文明があってもおかしくはありません。しかもこういった分布は確率的にばらつくわけなので、一番近い文明が地球から数十光年というケースも十分にありうる。ということは、宇宙人が地球に来ている可能性は確率論では「ばかばかしい!」のひとことで否定できなくなったのです。


近くの恒星系を探査するって現実的なの?

太陽系の近くにどのような恒星があるかご存知ですか?一番近いのが4.2光年離れた赤色矮星のプロキシマケンタウリ。そのすぐ近くには連星のケンタウルス座のα星AとBがあります。ケンタウルス座α星Aは太陽と大きさや明るさがよく似たタイプの恒星です。
6光年ほど離れた場所にあるへびつかい座のバーナード星はその近さと太陽系から見た移動方向から、地球から観測すると少しずつ位置が移動する恒星として知られてきました。
全天で一番明るい恒星といわれるおおいぬ座のシリウスは太陽から8.6光年離れたところにあります。このように10光年前後の距離にある恒星を数えるとだいたい30個くらいの恒星が存在します。30光年以内だったら300個ぐらい。つまり近場にも結構恒星はたくさんあるのです。
そういった恒星系では最近、惑星がつぎつぎと発見されています。
地球から一番近い赤色矮星のプロキシマケンタウリにも、そのハビタブルゾーン、つまり恒星からの距離がちょうどよくて生命が誕生する可能性がある位置に惑星プロキシマケンタウリbが発見されています。
そこはどのような世界で、その星には本当に生命が存在するのか、科学者の関心が高まっています。そして実際にその状況を探査しようというブレークスルー・スターショットという探査計画が存在します。
簡単に説明するとスターチップと呼ばれるキャラメルぐらいの大きさの非常に小さい探査機を打ち上げる。そのチップの中にはカメラと通信機がコンパクトに収められています。
その探査機は宇宙空間で非常に軽量の4メートル四方の大きさの帆を張ります。いわゆるソーラーセイルと呼ばれる帆です。この帆に地球からレーザー光を発射することで、光子のエネルギーで探査機を光の速度の半分ぐらいまで加速します。
そうすることで打ち上げから20年ぐらいの時間をかければ探査機はプロキシマケンタウリに到達します。プロキシマケンタウリが近づいたら探査機はまた帆を張り、恒星からの光を使ってブレーキをかけます。そうやって減速してプロキシマケンタウリbというハビタブルゾーンの惑星に近づいたら、その星の様子を撮影して画像を地球に送り返そうという計画です。
これが意外と現実的な計画で、スターチップに必要なすべての新技術の開発には20年ぐらいかかるそうですが、それくらいの時間をかければ開発できないことはない。
そしてそれが完成したらプロキシマケンタウリまでの飛行に20年、そして地球にデータを送るのに4.2年(なにしろ4.2光年しか離れていないので)ということで合計すればだいたい45年後には実現しそうな話なのです。少なくとも今20歳の読者の方は65歳になる頃にはプロキシマケンタウリbの映像を目にすることができそうです。
そしてもし、そのような機材が完成したとしたらどうでしょう。プロキシマケンタウリbだけでなく太陽系から半径30光年の恒星系にはすべてその機材を送り込むことができますし、そうすべきです。
なにしろ開発コストがいくら莫大でも一度完成させれば量産可能な技術です。それを一旦宇宙ステーションミールの高度に打ち上げてしまえば、そこからの加速に必要なコストもレーザー光ですから高くはない(レーザー装置は地球上に設置しても大丈夫です。念のため)。本体が小さくて軽いのでミールまでの打ち上げコストも低いので、とにかく近隣の恒星系すべてに数打って調べることができる探査機になるわけです。
もしそうなったら21世紀終盤の天文学界は新発見の嵐になります。太陽系から近い恒星系すべての惑星の鮮明な画像が目で見られるようになる。すばらしい話です。
ただ大半の星の場合、がっかりしたことに火星のように荒れ果てた土が広がっていたり、冥王星のように氷の氷原だけが広がっていたり、ないしは金星のように分厚いスモッグの大気が広がる灼熱の死の惑星の映像ばかりかもしれません。
しかしもし、その中に水をたたえた惑星が見つかり、しかも宇宙から地球を眺めたときのようにそこには緑の森が広がっていて、さらには惑星の夜の側に広がる人工の都市の光など文明の証拠まで映っていたとしたら?人類はそこからどうすべきでしょうか?


近隣の恒星系まで調査船を送ることはできるの?

さて地球の文明ならばその次のステップは、無人探査船を作りその惑星に着陸させて惑星探査を行うということになるのですが、そこは今の僕たち地球の科学力では難しい。
もし夜の側の明かりからそれが「地球より進んだ文明を持つ星」である可能性が映像からわかった場合、その星に向けて強力な電磁波シグナルを送って「こちらに来て!」という意思を表示することは可能ですが、これは逆に一部の科学者が恐れるシナリオで、招かれざる客を引き寄せてしまう可能性が生まれます。
そのような侵略されるほどの文明ではなく、たとえば仮に30光年先の恒星系に緑をたたえた星がみつかったとします。
スターチップから送られてくる映像データは、品質的に言えば冥王星を探査したニュー・ホライズンズから送られてきたようなレベルでしょう。宇宙から撮影した地球の映像のような海が見え、陸地が見え、雲が見え、氷河が見え、そして陸地には緑に覆われた地域がある。そのような映像を目にした科学者はどう考えるでしょう。
異なる進化から生まれた異なる生命をはぐくむもうひとつの惑星。科学者の関心は高まるでしょうが、そこにたとえば火星に送った探査機キュリオシティのような装置を送るとなるとその重さでは2085年の未来でもそこから先はどうしていいかわからないでしょう。
だとしたらできることはスターチップの性能を上げて地球に送信できるデータをもっと増やすぐらいのことかもしれません。いや2100年頃の科学力ならスターチップに大気圏突入の耐熱性をもたせたうえで、地表近くでは昆虫のように動かすメカニズムも組み込めるかもしれませんね。
とにかく可能なことはごくごく小さな探査装置を送り込むことだけ。それがこの先100年ぐらいの地球の科学力でできる限界でしょう。
とはいえもっと進んだ未来だったらどうでしょう?われわれの科学力がもっとすぐれた未来だったら、地球人はそこに探査に行けるのかどうか。ないしはわれわれよりもずっと優れた科学力を持つ文明だったらどうなるのか、それを考えて見ましょう。


恒星間宇宙船が実現した未来に体験できること

ここは西暦5000年ぐらいの地球です。あなたは宇宙飛行士候補生で、目の前には光速で恒星間を行き来できる宇宙船があります。
おお、あっという間に科学力が進化しました。さすがは中二脳の世界です。
そしてあなたにはこの宇宙船に乗り込んでプロキシマケンタウリbを調査せよという命令が会社の上司から下りたとします。嫌ですか?まあサラリーマンとして上司の命令通りそれを引き受けたとして、あなたはいったいどんな体験をするでしょうか?
ミッションがすべてスムースに行われたと仮定すると、地球を離れてプロキシマケンタウリbに宇宙船が到着するのは4.2年後。そこで8ヶ月ほど探査行動を行って、地球に戻るにはさらに4.2年。結局、あなたが地球に戻るまでには9年間の年月が流れてしまいます。
いわゆるウラシマ効果というやつで、戻ってみるとすっかり世界は変わっているという話ですが、実はプロキシマケンタウリbの場合ならばこの前提のような活動をしたとしてもそれはたかだか9年間の話です。
仮に2011年に9年間地球を離れたとして、2020年にようやく戻ってきたとしたら、どんな変化が起きていたかというと、「え、笑っていいともって終わっちゃったの?」とか「ユニクロってもうダサくないんだ!」とかそれなりの驚きはあるでしょうが、時代の変化はその程度です。
スマホはあいかわらず便利ですし、JRにはまだSUICAで普通に乗れますし、町にはマクドナルドも吉野家もサイゼリヤもあります。『相棒』だってまだ普通にテレビでやってます。
友人や家族はみな、それなりに歳をとっていますがそれも許容できる範囲というか、海外でずっと仕事をしてきて10年ぶりに日本に戻ってきた人と感覚的には同じです。つまり近隣の恒星系を有人探査するというのは、人間の人生を考えてもそれほど非道なミッションではないということです。
でも他の惑星系まで行く間は長旅大変ですよね。
いや待ってください。本当にそうでしょうか。あなたがプロキシマケンタウリbまでの長旅をどう感じたかを相対性理論から計算してみましょう。
あなたが宇宙船に乗り込んで、光速で飛行して(ここではいったん加速の問題を脇においておきます。加速の問題を入れた詳細な計算は後ほど)プロキシマケンタウリbに到着します。地球から見れば4.2年かかる飛行ですが、あなたが体感する飛行時間はどれくらいになるでしょう。
特殊相対論では光の速度に近づくほどにあなたが感じる時間の進み方は遅くなります。そしてこの前提では宇宙船のスピードは光速なのですが、実は宇宙船が光速で進んでいる間、あなたの時間は相対論の結果「止まり」ます。
アインシュタインは特殊相対論を通じて時間と空間は同じものであることを発見しました。難しい数学ではミンコフスキー時空と言うのですが、その奥義をひとことで言えば、「光速で動いている光が一年間に一光年の距離を移動することと、静止している物体が一年間の間に一年の時間を移動することは実は等価である」という発見です。
つまり一年の時間と一光年の距離は時空の移動距離としては同じものなのです。だから静止している人が一年の時間がたつ間に、光速で一光年先の空間に移動する人がいたとしたら、その人が感じる時間の流れは正確に言えばゼロ、わかりやすく言えば一瞬なのです。
もちろんその中間には「光速の0.5倍で移動している宇宙船は一年間に0.5光年の距離を進むが、同時にその宇宙船の中では時間は0.87年しかたたない」というようなよくSF小説で描かれるような状態があります。
宇宙船の中で流れる時間は地球と宇宙船の相対的な速度によって違ってきて、光速に近い速度で運動すればするほど、その宇宙船の中で経過する時間は遅くなり、ついに光速になると理論上は時間は止まるのです(一応、光速の手前ぐらいまでしか現実にはいけないのですが、その効果についてはまた後で加速の影響も含めて検討します)。
つまりあなたが体験するのはこんな旅です。宇宙船のハッチを閉じ、シートベルトを着用して宇宙船の発射の加速に耐えます。そこで光速になって移動している間は時間が止まり、次にあなたの脳が知覚する瞬間はプロキシマケンタウリb近くで減速が始まった瞬間です。光速から減速した瞬間にあなたの時間が動き出します。
つまり光速で飛行する宇宙船での旅の体験とは、ドアを閉めて発射して、次の瞬間には到着してドアをあけることになる。するとそこはプロキシマケンタウリbだという体験なのです。
この前提で話すと、行き先が地球から254万光年離れたアンドロメダ銀河でも話は同じです。宇宙船に乗り込んで発進して光速になって、つぎの瞬間到着してドアをあけたらそこはすぐにアンドロメダ銀河だというのが、相対性理論の時間の進み方です。もちろんこの場合はプロキシマケンタウリとは違い、地球に戻ると500万年以上時間が過ぎているので、戻ったときにはとてもさびしい気持ちになるとは思いますが。
さてそう考えると、太陽系の近隣の恒星系に行くのは、宇宙船の性能次第ではありますが、宇宙飛行士にとってはそれほど苦痛な体験ではないことがわかります。少なくともそのような未来の地球の科学力を前提にすれば、現在計画されている火星への有人飛行と比べれば系外惑星探査は圧倒的に気楽なミッションだといえるのではないでしょうか。あくまで中二病の意見ではありますが。


厳密にいうと亜光速の移動ってどうよ?

さてここまで中二の頭脳でエラい科学者の常識に挑戦をしてみたところ、
① 系外惑星の発見度合から考えるに100光年以内の距離に地球を超える科学文明が存在する可能性は結構高い
② 光速で航行する宇宙船に乗れば、それくらいの距離の惑星系に行くのはたいして苦痛な仕事ではない
という主張ができるようになりました。なんとなく「宇宙人が地球に来ている可能性は高そうだ」という予定調和的な結論が予感できます。中二病としてはここまでのところグッジョブ!という感じです。
とはいえ中二病なのでさらに細部が気になってきます。ですからここからどんどん疑問を掘り下げていきたいと思います。
一番目の命題については、「最新の系外惑星の科学や宇宙生物論で考えた場合、その前提はどこまで確からしいのか?」が気になります。また二番目の命題については「実際は光速ではなく亜光速の宇宙船になるわけで、本当に人間を送り込むとしたらどのあたりまでの距離が現実的なのか?」も気になります。
もうひとつ言ってしまえば、「亜光速で宇宙船を飛ばせるのは今から何年先?」という問題もありますが、それはさすがに僕たちが生きている間には無理でしょう。とはいえ科学者たちはいつかそれが実現できるという点については異論はないようなので、ここでは中二病の僕と世の中の意見が割れる部分について検討していきたいと思います。
この章では二番目の問題、どこまでの距離なら現実的に行って帰ってこられそうかを先に片付けてしまいましょう(知的生命体の進化の可能性については第三章以降の章でいろいろな切り口で検討します)。
このような恒星間宇宙飛行を実現させるとして、その航行はオトナの科学者から見るとふたつの新たな問題が発生します。亜光速としてどこまでの速さの宇宙船を想定できるかという問題と、その速さまで加速するのにどれだけ時間がかかるのかという話です。
そこでまず、われわれの科学力で物体をどれくらいの速さまで加速できているのかをまず調べてみます。
世界最高のCERNのLHC加速器は陽子を7TeVまで加速しています。これがわれわれが物体を加速するいまのところの世界最高速度です。
そのとき加速された陽子の速度がどれくらいの速さかというと、これは光速の99.9999991%です。そのとき陽子の中の時間の進み方は私たちの時間の1万分の1になる。つまりこのスピードまで宇宙船を加速すれば体感時間としては1万光年先の星系に1年でたどり着くことができる。
ただこの程度のスピードの宇宙船だと、254万光年離れたアンドロメダ銀河に到着するまでに宇宙船の中ではその1万分の1の254年かかります。言い換えると人間の寿命の中での現実的な飛行距離としては無理だとわかります。
一方で100光年離れた恒星系ぐらいの距離なら体感時間3日で到着できます。意外と簡単に結論が出ました。近場なら大丈夫ということですね。
しかしもうひとつ大問題があります。Gの問題です。宇宙ロケットを打ち上げるときに宇宙飛行士にかかる加速度は6Gぐらい。普通の人なら失神してしまいます。しかも6Gといっても宇宙飛行士が体験するのは別に永遠ではなく打ち上げ時だけの加速度です。
そうではなく宇宙船が光速に達するまでずっと加速を続けるとしたら、たとえそれがジェット戦闘機の旋回ぐらいの2Gでも人間は耐え続けることが難しい。鍛え抜かれた米軍のパイロットでも無理でしょう。つまり簡単に言えば、地球を出発してから亜光速に至るまでずっと地球の重力と同じ1Gでの加速を続けるぐらいの体にやさしい加速度でないと、人間は快適に宇宙の旅をすることができません。
逆に1Gならば宇宙飛行士にとってはとても快適な加速で、簡単に言えば加速している間ずっと、地球の重力と同じ感覚ですごすことができます。この場合、地球から離れていく宇宙船の中では地球方向に足を向けて立つと、無重力ではなく地球のような重力を感じることになります。
一応言っておきますと、これは今から数百年後の科学力の話をしているので「じゃあどうやって1Gでずーっと加速するんだい?いえよ!いってみろよ!」という反論は無しです。そういう技術ができた未来の話として進めましょう。
それで亜光速に達して加速をとめたら、そこから先の飛行区間は宇宙船の中では無重力ということになります。この飛行部分は逆に宇宙船の中で体が浮いて気持ち悪いのでたとえば宇宙船を横向きに回転させることで擬似重力を発生させる必要があるかもしれません。とはいえ後述するようにこの亜光速運転期間は宇宙飛行士の体感時間はとても短いので、シートベルトをしたまま無重力に耐えてもそれほど嫌な体験にはならない可能性はあります。
では1G、つまり毎秒9.8m/sずつ宇宙船を加速していくと亜光速に達するまでにどれくらい時間がかかるでしょうか。
加速が始まって1秒後には時速35キロ。これはビルから飛び降りた人が4.9mほど降下した際に体験できる速度です。1分後には時速は2000キロを超えます。
1日後には時速300万キロに達します。秒速なら850キロ。光は秒速30万キロですからまだまだ光よりはずっと遅い。
1ヶ月後には秒速2.5万キロ。いよいよ光速に近くなってきました。
そしてほぼ光速、つまり秒速30万キロに到達するのは地球から見てほぼ1年後ということになります。これが人間にとって快適な1Gでの加速を続けた場合に実際にかかる時間というわけです。
ちなみにこのように1年かけて光速まで加速する間に宇宙船がどれくらいの距離を飛ぶかというと、地球から見れば約0.5光年先の宇宙空間まで到達できています。
こうして考えると、地球から4.2光年離れたプロキシマケンタウリまで亜光速飛行をするには、最初の加速にかかる時間と距離が1年間かけて0.5光年分。同じことが減速の際にも言えて、止まるまでに1年かけて0.5光年の制動距離がかかります。そしてその間の3.2光年の距離はほぼ光速で3.2年かけて飛行することになりますから、探検隊の飛行時間は地球時間で見れば5.2年という計算になります。
そう考えると恒星系に行くのにかかる時間はさきほど計算した「最初から光速で飛行する宇宙船」の場合と大差ないですね。計算公式としてはx光年離れた星に行くのにかかる時間はx+1年ということでそんなに問題はない。安心しました。
次にこの時間が、宇宙船の中の宇宙飛行士にとってはどれくらいの体感時間になるのかを計算してみましょう。
この場合、加速度系の中での時間の経過を計算することになるので、適用できる物理法則は特殊相対論ではなく一般相対論ということになります。
ちなみに僕は大学では特殊相対論までは完璧に勉強したのですが、一般相対論でつかうテンソルという数学理論までは到達できませんでした。
そんなレベルの中二脳に一般相対論を理解することができるのかですって?
「はい、理解できなくても大丈夫です」
なぜなら中二脳があればウィキペディアでそのような場合の時間を計算する方程式を見つけることができるので、あとは適切な数字を代入すればいい。数式に数字を代入するのは中二の知識で十分可能です。このように科学者と違って、ウィキペディアを頭から信じられるのは中二病の強みです。
前提は以下のように起きましょう
① 宇宙船の最終到達速度は光速の99.995%とする
② 一年かけて宇宙船は1Gでその速度まで加速する
その数字を一般相対論での時間の進み方の方程式に代入すると、加速している間の宇宙船の中の時間は地球の5%の速さに、亜光速に到達した後の宇宙船の時間の進み方は地球の1%になることがわかります。
具体的には最初の加速の1年間、つまり365日が宇宙船の中ではその5%にあたる19日に。その後の3.2年間の亜光速飛行が3.2年の1%に相当する12日に、最後の減速過程が加速と同じ19日にということで、合計50日の体感時間で宇宙飛行士はプロキシマケンタウリに到達できることがわかります。
やはり中二病の視点での結論は変わりません。近距離、つまり数光年から十数光年の恒星系について、今の科学力で想定できる亜光速宇宙船の飛行であれば、それなりに快適な短期間の旅になるのです。
そしてその事情は、そのまま、太陽系の近隣にあるかもしれない地球よりも高度な文明を獲得した星にもあてはまる事情なのです。
ということでまずこの章の結論としては「地球よりはるかに進んだ文明があって、その文明の科学力では亜光速で航行する宇宙船を作ることができるとしたら、そしてそれが地球から数十光年の距離にある恒星系だったとしたら、宇宙人はその星から地球にやってくることが可能であろう」ということ。これが最初の結論です。

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