イケ!イケ!レッドイーグルス④道具を大切に!

 ぼくは、もうすぐ幼稚園を卒園して、小学生になる。この頃には、徹くんとのキャッチボールもほぼ毎日になり、二人の野球は他の同級生が追いつけないレベルまでになっていった。そんなある日のこと。いつものようにキャッチボールを終えた二人はそのまま、いつもの広場で野球の話をしていた。ジャイアンツのピッチャーは堀内と新浦のどっちがいいとか話しているときに、徹くんが、東京六大学って知ってる?と聞いてきた。法政大学に江川卓というピッチャーがいる。そのピッチャーは堀内や新浦よりもスゴイと徹くんは言っていた。ぼくは、東京六大学も江川というピッチャーのことも知らなかった。でも、徹くんが注目してる江川というピッチャーを見てみたいと思った。江川、江川、東京六大学野球と家に着くまで唱えるように、何度も何度も口にして家に戻った。

 次の日は雨。野球はできないけど、徹くんのウチに遊びに行った。呼び鈴を鳴らすと、雨だったらからか、徹くんのお父さんが玄関に出てきた。ぼくは、少し緊張して「徹くん、居ますか?」と聞いてみると、「徹ー誠司くんが遊びにきたぞー」と声をかけると、「誠司くん、丁度いいところに来たねー。昨日話した東京六大学野球をこれからテレビでやるんだよー。一緒に観ない?今日は法政大学と東京大学の試合だよー。」ぼくは、(ヤッター)と心躍らせて、徹くんの家に上がった。法政大学の先発ピッチャーは江川投手だった。徹くんのお父さんが「この江川ってピッチャーはスゴイピッチャーだぞー。まだ大学2年生だけど、もう法政のエースだ。高校は作新学院という栃木県で甲子園に出ているんだ。高校時代はノーヒットノーラン、パーフェクトの連続だったからねー。」どれだけスゴイピッチャーなのか、今からテレビの中ではあるが、ぼくはその球を想像した。試合開始。東京大学の一番バッターが打席に入る。江川投手が振りかぶって球を投げた。江川投手は軽ーくボールを投げているように見えた。キャッチボールをするかのように。それでもキャッチャーミットに真っ直ぐボールは入っていった。徹くんのお父さんは「今日の江川投手はあまり調子良さそうじゃないなー?」と言っていた。それでも、時折ヒットを打たれるものの、江川投手は5回まで、東京大学を0点に抑えていた。ぼくは、あまり調子が良くないと言われる江川投手の投げ方が力が入って無くてキレイだなあと思った。試合は途中だったが、雨が上がったのを見計らって、ぼくは家に帰ることにした。「徹くん、そろそろ帰るねー」と言うと、徹くんのお父さんが「誠司くんは野球が好きか?」と聞いてきたので、「はい。」と答えると、「今度、一緒にキャッチボールしよう。」と言われ、ぼくは再び「はい。」と答えて、徹くんの家を出た。

 広場を横切って帰ろうとしていたぼくは見てはいけないものを目撃してしまった。広場のベンチは確か、昨日、徹くんと野球の話をしたところ。そのベンチには、今まで降っていた雨に濡れてビッショリになったぼくのグローブが置いてあった。昨日、ぼくはグローブを置き忘れて家に帰ってしまったのだ。ぼくは、急いでグローブを手にした。しかし、グローブは雨の中にあったため、雨水をたくさん吸って、重くなっていた。(ヤバイ)と思った。もう、使えないかもしれない。それ以上に、このグローブはお父さんのものだ。ぼくはズッシリと重くなったグローブを持って、足取りも重く家に帰った。グローブを洗濯機の上に置き、父の帰りを待った。父が帰ってきて、グローブの事を報告。一発くらい殴られることを覚悟して。父は「グローブを持ってこい。」と言って、ぼくが持ってきた濡れたグローブを新聞紙に包んで、「先ずは皮に含んだ水を抜かないとな。」と言った。「このまま一日待って、明日は油を塗ろう。」と言った後に「誠司、道具は、大事にしなさい。」と言った。次の日、水を吸った新聞紙を剥がすと、グローブは少しカサついていた。そこに固形油を塗っていくと、グローブは元に戻っていった。「グローブは皮でできているから、使ったら、先ずはタオルで汚れをとること。汚れが取れたら、縫ってあるところや、皮を繋ぐグローブの紐のところに固形オイルを塗ることで、糸や紐が切れないようにする。ボールをとるグローブの芯のあたりの皮も破れないように、オイルを薄く塗るといい。」と教えてくれた。オイルを塗り終えると、グローブにボールを投げて、芯の位置を整えている、その姿が、何とも格好良く見えた。

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