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2023年「短歌研究」誌上に掲載された歌、十八首

出張の明けて迎ふる週末の
         博多の朝はゆるうはじまる

菅公の宮は常世にさきはへば
         参りて檜皮たてまつりけり

立冬の宵を過ぐれば武蔵野の
         月かげ冴えて窓のまばゆき

月だにも予告の通り蝕まれ
         神なき此岸の夜はふかまる

月蝕てふ事件起こりし天空に
         冬日のぼりて晴れわたる朝

川魚はすがたのままに皿に並み
         忘られぬあぢ古河の甘露煮

大平野の臍にひろごる渡良瀬の
         水にし映ゆる筑波嶺のかげ

真桑瓜のあをさおもみの画のなかに
         精緻に描きし蟻が三匹

ひろごれる池の水辺にたどりつく
         青蛙ゐて自然なるべし

煮えたぎる湯をボコボコと吸ひ上げて
         芳香ひろごるサイフォン珈琲

稚児なれど身をのり出してぢつと見る
         レールの下の石に惹かれて

やはらかにほそき指そへ眼をおとす
         定窯白磁の牙色の鉢

ヴィクトリア調の館の露台より
         匂へる薔薇に魂うばはるる

薔薇の香のたなびきたれば目をとぢて
         立ちあらはるる月虹のごとし

勤め上げ組織に追はれぬ生き方に
         ふさはしき家に出であひにけり

平なる土地をゆきかふ人びとの
         スローライフにこころ休まる

マンションと戸建ての間の農園に
         つどふ人らのおはやうのこゑ

朝食のサラダにするか夏休みの
         子らがコインで菜を買うてゆく

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