Japan National Orchestra(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)設立について―人が音楽に期待することと音楽が人に期待すること―

修士論文の参考文献を数百ページ読み、譜面や音源を通して楽曲分析する。そんななか一つのネット記事が目に飛び込んできた。

「ピアニスト反田恭平がオーケストラのための株式会社を設立『Japan National Orchestra(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)』」https://spice.eplus.jp/articles/287675?fbclid=IwAR1L1DSSFuJA5P6KTg6vjpaVdPXgH68bWdOaYHMCEMM59V_R65ZLcfXrArQ

タイトルを見ると「演奏家が永続的に活動の場を獲得し、経済的活動を展開できるように」とある。東京と奈良を拠点にプロ演奏家の活動の場を提供することが目的のようだ。

こういう日本人のチャレンジ精神は本当にいいことだと思う。とはいえ、このコロナ渦でどうなのか?ここドイツでさえ、オーケストラも音楽学校もかなり厳しい。演奏会を聴いたり、音楽を学ぶことに人間が本当にお金を使わなくなったからだ。私個人的にも2020年にもいただいた音楽の仕事は2019年より明らかに少なかった。今年2021年は更に少なくなるだろうという見込みの上で、雇用先からはすでに2020年の給料証明書なるものを発行してもらっている。その書類を市役所にもっていけば、60%の金額はドイツ政府が保証してくれるというわけだ。

記事を読んでみると、オーケストラだけでなく「学び舎」という教育組織としても運営していきたい方針もあるようだ。オーケストラにしても教育組織にしても、既存のオーケストラ、音楽教室には「根本的にできない」何かを可能にできない限り、わずかな市場のニーズを取り合うだけの結果となってしまう。音楽を聴く・学ぶ人の経済状況、政府の保証など、色々な社会問題がからんだ難しい問題といわざるをえない。

コロナ渦にあえて会社設立するのだから、その団体名には一層のこだわりがあったことだろうと思う。よくよく読むと「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」・・・うーん、直訳すると「日本国立オーケストラ」かぁ。この「国立」というのが気になる。
私たち音楽家はやはり政府の保証がないと生きていけない。音楽は貨幣ができる前の大昔から人間が「必要としてきたもの」であって、お金を生み出せるシステムを想定して作られたものではない。だからこそ、政府に調整してもらわなければ、どうにもならないのだ。ドイツではオーケストラにしても音楽学校にしても、州という自治体からの援助が出ていることが多い。

この団体名には、反田氏のそんな期待も見て取れるような気がする。いずれにせよ、まだ明かしていないアイデアもあるのかもしれない。新しいチャレンジが是非うまくいってほしいと願うばかりだ。

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