社台ファーム導入種牡馬答え合わせ
こんな記事を書いた背景
サンデーサイレンス(やノーザンテーストやトニービン)を見たら、それまではどうだったのか気になるのが人情というもの。
どの種牡馬が供用馬だったのか素人にはよくわからない、という問題があるのですが、ネットの大海にこんな素晴らしい記事があり情報使わせていただきました。
社台SS供用種牡馬編纂(前編)
社台SS供用種牡馬編纂(中編)
とりあえず創業(独立)~創業者:吉田善哉氏の没年(1993)まで追ってみます
いきなり結果
はい。
色分けは某を参考に血統で分けています。成績は相対化しにくいので例によってグラフにします。指標の意味は前回の記事参照
今回は指標の差がかなり大きいのでAEI,CPI,AEI/CPIの縦軸は対数(1目盛りで2倍)になっています
はい。
時系列でみていく
ガーサント
社台ファーム創業が1955年、導入開始が1962年。最初に導入した種牡馬のはず。
1949年生まれ、当時としても古い(活力を失っている)系統のタッチストン-ハーミット系。実際このガーサントが系統最後のひと花となったようです。
現役時はGI 4勝 距離はマイル中心に1400-2000 ある程度種牡馬としての実績はあったものの年齢と血統情勢から購買できたようです。
日本では1970年リーディング獲得、創業期の社台グループが倒産しなかったのはこの馬のおかげ、と言われています。
通算指標を見るとAEI0.98 CPI1.31 AEI/CPI0.75 とそれほど良くありません。加齢のためか成績的にはしりすぼみだったようです。
空振りの日々(~1974)
どうやら
・自己導入種牡馬を中心につけていく
・内国産種牡馬は使わない
という方針だったらしい吉田氏、次を導入せねばなりません。
………が、約10年13頭、空振りが続きます。母父として次世代で成功した馬もいるそうですが(引用元参照)指標的に見られるのはマリーノ、ボールドアンドエイブルぐらいで今一つパッとしません
特に1967年導入のナスコはボールドルーラーの全弟で相当期待して、かなり頑張って良血牝馬をつけたようですが結果の方は…(平均CPI2.82ってサンデーサイレンスやディープインパクトより高いんですよ)
あと目を引くのはアルゼンチンから導入したエルセンタウロ。こちらも期待には応えられなかったようですが、後に南米から牝馬購入して成功する(サトノダイヤモンドの母など)のはこんな昔から世界を広く見ていたからなのかな、と。
さて、血統面を見ると
ハイペリオン系とナスルーラ系を多く導入しているのが目につきます
ナスルーラ系は当時世界的な覇権系統なので当然とは思いますが、ハイペリオン?
(憶測ですが)種明かしをすると、ハイペリオン系の導入時期はチャイナロック(1973日本リーディング、父父ハイペリオン)の活躍時期と被っています。
そういう意味で見ると
ラティフィケイション(フェアウェイ系)もソロナウェー(1966日本リーディング、父父フェアウェイ)見て導入していそうだし、
ハッピーオーメン(父父ジェベル)やヒッティングアウェー(父父トゥルビヨン)もパーソロン(1971,76リーディング、三代父ジェベル、四代父トゥルビヨン)を見ていたように感じます。
後年、ネヴァーセイダイ系とプリンスリーギフト系(70年代に国内で超流行した)の種牡馬を導入しなかったことで有名な吉田氏ですが。それ以前に二匹目のドジョウを狙って成功しなかっためかもしれません。
大正義ノーザンテースト(1975
1975年から超大物が供用開始されます。彼の力で社台ファームが日本一の牧場になったと言っても過言ではないでしょう。
各種指標、産駒数、ここにはありませんが母父としての成績いずれも優秀で言うことはないです。
実は産駒の種牡馬適正もかなり優秀だったようですが、社台ファームは一頭も繋養することはありませんでした。
種銭追加効果(?)とアンラッキー(1976~1985
さて、ノーザンテーストの供用開始年にアメリカでGI4勝、2着3回。大種牡馬ボールドルーラー産駒のスターホースが引退しました。
馬名はワジマ、共同馬主(4人)には吉田善哉の名前がありました。種牡馬入りにあたり権利を手放して結構な金に替えてガチャの種銭を増やします。(経営状況がアレだったのが助かった、という説もあります)
ちなみにワジマは種牡馬としてはかなり期待外れでして、結果的にリリースは大正解でした。
とにかく種銭を増やした吉田氏、それまで導入頭数年1頭前後だったのに1978年に一挙に4倍プッシュします(前年と翌年入れてないんでその分のような気はしますが)しかも高騰しつつあったノーザンダンサー系3頭。
いや実際のところ、当歳を買って欧米で走らせていた可能性もありまして(実際3頭生年が異なる)同じ年に引退しただけなのかもしれませんが。
で、結果ノースオブザローはかなり手ごたえが良かったんですが生殖能力に問題があったようで血統登録19頭のみと失敗、他3頭もパッとしません。
不運は続くもので1981年のルセリ、1984年のボアドグラースも生殖能力に問題が。また1980年のソルティンゴは放牧時のミスと事故で一世代の産駒を残して生殖能力喪失、数年後に亡くなってしまいます。
しかもソルティンゴはかなり優秀だったようで一世代のみの中、代表産駒スズパレードはシンボリルドルフの同期というハンデ(?)を抱えながら宝塚記念を制します(ルドルフ引退後なんですが)。
とはいえ弾数と質を増やしただけあるのか、1980年のディクタス、1983年のリアルシャダイとヒットが出ます。
ディクタスは長距離血統の間に生まれた気性難で距離が保たず短距離路線でまずまず健闘というこの時期日本で活躍する種牡馬のパターンの1つでやはりコレが当たりました。
なお、牡系は孫まで行くと気性がまともになるとともにズブさが出て次の世代には繋がりませんでした(ナリタトップロードの早世が惜しまれる)、一方牝系に入るとステイゴールドを通じてサンデーサイレンス系の二番手グループに影響を及ぼします(なお、御気性)
リアルシャダイはここでターントゥ-ヘイルトゥリーズン系でヒットを出して、この系統が(ある程度)日本適性があると証明した、という意味がかなり大きい種牡馬で彼の成功なくばブライアンズタイムもサンデーサイレンスも導入にもっと慎重になっていた可能性があります。
内国産導入(1986~1990
独立開業から30年、とうとう内国産種牡馬を導入します。
系統として手を出していなかったプリンスリーギフト系の最強馬、ミスターシービーです。
(シンボリ牧場シンボリルドルフに対するライバル心が働いていたような気もしますが)かなり強力にサポートしたようで、そういうシンジケート(余勢株を他に売れない等)を組みました。が、初年度かなり期待されたヤマニングローバルが3歳(現2歳)で大きな故障、後年復帰し能力の片鱗は見せたもののインパクトのある活躍はできませんでした。
翌年以降の産駒は振るわず、他所に権利を出さなかったために種付け料が暴騰したことなども相まって種牡馬としてはうまくいきませんでした。
やっぱり内国産アカンのかと思ったら、息子(勝己氏と言われている)のプッシュで導入したディクタスの息子サッカーボーイはまずまずの結果を残します。
で、この時期他は大半振るわなかったんですがひとつトニービンという当りを引きました。イタリア生まれで晩成の凱旋門賞馬、やや活力が落ちているナスルーラ-グレイソヴリン系(実際同年と2年前に導入した2頭のナスルーラ系は失敗)。正直今日の感覚で見ると失敗する予感がモリモリしますが立派な大種牡馬で牝系に入っても優秀というありがたいタイプでした。
直系としてはジャングルポケットが頑張っていましたがトーセンジョーダンが豪快な空振りで現在は現役馬もまだいるも系統存続は赤信号。ちなみにトニービン直系曾孫で唯一重賞勝っているのはトニービン-ミラクルアドマイヤ-カンパニー-ウインテンダネス)
そして、アイツが来る(1991-1993
で91年サンデーサイレンス到来。成績の突出度合いはもうアレです。社台独り勝ち状態になったのはコヤツのせいです。
またこの馬にまつわるストーリー(宿命のライバルイジーゴアとか、吉田家長男と馬主氏の関係とか、母ウィッシングウェルの血統とか)は大量にあるので各自深めてください。ともかく、母系の血統と外貌(脚が曲がっている)とご気性の問題でアメリカではシンジケートを組むこともできず日本にやってきますそして…
ところで、産駒の傾向からするとどうもヨーロッパ系の相手の方が強い子が出ている気配がありまして、その辺考えると輸出されずアメリカで人気があった場合よりも良かったのかもしれません。
息子達も競馬場のみならず種牡馬として猛威を振るい、社台の内国産を使わない方針はどこかに消えていきますがそれはまた別の話。
さて、同時期の他の種牡馬を見てみますと
サンデーサイレンスと同じターントゥ系のキャロルハウス
ミスプロ系のジェイドロバリーとヘクタープロテクター
トゥルビヨン系のドクターデヴィアス
ドクターデヴィアス以外は
・ターントゥ系でもう一発
・世界的にはキテるが日本ではまだ、のミスタープロスペクター系
ということで意図がよくわかるんですが、ドクターデヴィアスはちょっと謎。血統多様性のためなんですかね、外れ続けたハイペリオン系はその父ゲインズバラから分岐した末のディクタスがヒットしたし創業初期に外しまくったトゥルビヨン系で今度こそって考えていたり(下衆の勘ぐり)
ともかく、いずれもあまりぱっとしないというかサンデーサイレンスがいるとまあそうなりますよねって感じで、買い戻されたりリースやシャトルで稼いだりするようになります。
まとめ
創業から38年、41頭の種牡馬を導入したわけですが
AEI/CPIが1を超えた種牡馬は10頭
ハッキリ当りと言い切れるのは4頭(ノーザンテースト、ディクタス、トニービン、サンデーサイレンス)と導入数の1/10でしかありません。
種牡馬ビジネスは当たれば大きく、実際ノーザンテーストとサンデーサイレンスによって社台ファームは日本の競馬を牛耳る世界有数のサラブレッド生産グループになったわけですが、それも先見の明、関係性の事前構築、そして外れても外れても諦めなかったことで掴んだもののように思います。
なお、ここまで資力に差がつくとまあアレだ、それこそ同レベルのスマッシュヒットをどこかが出さないと無理ですねぇ…バチバチにやりあう相手がいた方が面白いんですが(故、和田共弘氏とか早田光一郎氏みたいなアクの強いキャラが出てくることを期待)
という勝手を言って本記事を閉じます
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