Dear… ep.5
※本人とは関係ないものです
※ドラマみたいなイメージでもていただきたい
※だんだん台詞が多くなるよ
※ ※ ※
日曜の朝はとにかく暇だ。康祐くんがテレビを見るのに忙しいからだ。
気休めの論文を書き上げたけど、これが成功するかどうかはわからない。理論上は行ける気がするけど、実験が叶わないのが厄介だ。でも、これを見つけてくれるかもわからないし、見せようとも思わない。
「抗わない方が楽だったかなー?」
独り言は無機質な壁に当たって消えた気がする。
ーぴんぽーんー
聞きなれない効果音が聞こえる。
ーぴんぽーんー
ーぴんぽーんー
その音が自分のスマホから聞こえてきてるのに気付いてスマホを起動させるとトークアプリの通知を知らせるアイコンが表示された。
「え、嘘だろ?」
こんなに早くメッセージを送ってくれるなんて思わなかった。メッセージアプリを開くとかわいらしいおはようのスタンプと何してる?と聞くスタンプが続き
【文哉と話そうと思う】
というメッセージが続いた。
【おはよう‼️メッセージありがとう。文哉と話すって何を?】
送信して考える。昨日までの距離感からぐっと近づいている。なんか新鮮な感覚だった。
「これが、友達?」
ーぴんぽーんー
【学校行きたくなってん】
ーぴんぽーんー
【もし良かったら出てこれる?】
ーぴんぽーんー
マップのアドレスが送信されそこは中川家からさほどはなれていない大きめな公園だった。
【行ける。大丈夫‼️】
ーぴんぽーんー
グーサインのかわいいスタンプが送られてきた。
「俺も、スタンプ入れよ」
そういいながら準備を始める。白衣を脱いでカジュアルな服装に身を包む。さっと荷物をまとめ、部屋からいつもの部屋へ。
「こーすけくーん?」
「お、なした?」
心なしか楽しそうな声の康祐くん。日曜の朝は俺のビタミンって真顔で言えちゃうくらいだから相当楽しんでると思う。
「出掛けてくるー」
「お、珍しいな。佐野か?」
「半分正解。中川くんがメッセージくれたから」
スマホをヒラヒラとさせて見せるとにこにこしながら思い出したようの真面目な表情になる。
「なにしてもいいけど、運動はダメな?」
「わかってるよ。いっしょにスポーツできるならそれはそれで本望だけどね」
「…秀太…」
やだなぁ、ジョークなのにそんな悲しい顔するなよ。
「大丈夫だよ。無理しない。じゃ、行ってくるね」
そういって部屋から出る。そのまま長い廊下を歩きながら、フワッと襲う不安感。
「あぁ、嫌だなぁ。」
頭をガシガシとかいて再び歩き出す。そうだ、今はあいつらのところに行かなくちゃ。
※ ※ ※
俺が公園につくと二人は既にいて何か話しているようだった。まだ気がつかれていないようだったのでそっと近くの気の後ろに潜んだ。2人の声が聞こえる。
「いや、俺は大丈夫やから」
勝くんが穏やかに慰めるように話す声。
「わかってる。勝くんが僕を気遣ってくれてることも、僕のために保健室登校してることも、だから、僕が学校行かない方が…」
「ちゃうねん文哉、文哉のためじゃなくて俺がただしんどかっただけやねん。文哉がおらんかったら俺の事心配するやつ居らんから。」
「そんなことない、勝くんはクラスで人気あったじゃん。誰よりも頼りになるし…だから僕がいなくなれば…」
現実につかれてしまった勝くんと過去に縛られてしまった文哉が平行線の話をしているように思えた。勝くんはそれでいつも折れて文哉の居場所を守っていたのか…
じゃあ俺がそんな平行線を終わらせてやる。大丈夫、きっとできる。
「やっほー、文哉じゃん」
「浦野秀太?なんでお前、ここに?」
「偶然通りかかったらいるからさぁ、あれ、君は?」
俺は勝くんに目配せをしてウインクする。勝くんもフワッと前髪を書き上げ優しく笑った。
「中川勝就です。一応クラスメートやんな?」
「そう、話してた絡んでくる転校生。」
文哉が嫌そうに紹介する。そんなに嫌ってんのかよ。
「絡んできたとはひどくないですかー?仲良くなりたいだけなのに」
わざとオーバーにいじける仕草をしてみる。
「だいたい僕なんかと仲良くなりたい時点でおかしいだろ」
「そんなことないよ。直感で面白そうって思ったもん」
ふふふと勝くんが笑う。
「文哉、面白そうなんやて」
文哉がまた面白くない顔をする。
「あー、笑うとか。おもしろそうってなんなんだよ」
「文哉の世界に興味あるよ」
「行きなり呼び捨てだし、俺は1人でも平気だから」
もうほっといてくれと言わんばかりの口調。そう来ると思ってたよ。
「寂しいこと言わないの、中川くんは友達なんでしょ?」
文哉の視線が泳ぎ動揺する。
「で、でも僕のせいで教室これなくなったし」
食いつけばこっちのもんだ。揺さぶる。
「それは文哉のせいなのか?」
動揺が大きくなってるけど大丈夫、予定通り。
「俺のせいなんだよ」
悲痛な叫びのような文哉の言葉。そうやってお前は自分を責め続けてるんだな。
「違うだろ、思い出せよ」
俺の煽りに勝くんが慌てる。
「ちょ、ちょっと…」
ここでやめたら変わらない。
「大丈夫、文哉はきっと立ち直れる。任せて、中川くん」
勝くんが黙ってコクンと頷いた。
「お前に何がわかるんだよ!」
「わかんないよ、何があったか知ることはできてもお前の気持ちはわかんないよ」
「じゃあほっとけよ」
「ほっとけないよ」
「何でだよ!」
「だって文哉は、なにも悪くないじゃん」
「でも、僕がいるから」
「文哉、この世に存在して悪い人間なんかいないんだよ。愛されて生まれてきてるんだよ?存在が悪になる人物なんているもんか」
俺みたいなのじゃなければね、という言葉を飲み込んだ。
「……」
すぐに反論してた文哉が黙った。その頬に涙が流れ落ちる。なんてきれいな涙なんだろう。
「文哉、こいつの言う通りやわ。俺は文哉といっしょにいたい。文哉が必要やわ。」
否定的な言葉を投げるのは簡単だ。存在を否定し続ければそのようにインプットされる。人間とは厄介なもので否定の言葉にとにかく流されやすい。そして否定されることに一種の快楽にようなものを感じてしまったりするのだ。文哉はきっと教師に罵倒され否定され続けてきたことで否定されない世界にいざ身をおいたとき不安感が生じたんじゃないだろうか? 不安感から発作を起こす。それに対してクラスメートが勝くんをスケープゴートにした。それを自分のせいと責め続けることで文哉はその場に存在しようとしてしまったんだと思う。
否定される必要なんかないのに。
「お前が…お前が余計なことばっかり言うから」
「どうしても嫌いだっていうなら仕方ないけどさ、遊びに行こう」
「はぁ?」
いきなりの誘いに動揺したのか文哉が気に抜けたような声を出した。
「最初から言ってるじゃん、遊びに行きたいって」
「そんなの他のやつ誘えよ」
「あれ行ってみたい、スポッチャン」
人気のゲームセンター。康祐くんを誘っても面倒臭がっていってくれなかったスポッチャン。CMだけなら何度も見た。
「はぁ、行ってみたいってなんだよ」
「行ってみたいじゃん、スポッチャン」
俺の発言に意外そうな顔をする文哉。行ったことがあって当たり前の遊びなんだと思う。
「本当に行ったことないの?」
疑いの眼差しで見つめてくると、フフと笑い出した勝くん。
「ほんまに行ったことないんやて」
あーあ、ここでばらしちゃうのかよ。と頭を抱える俺の肩をポンポンと叩いた。
「悪いな、秀太」
「悪いな、じゃないのよ。」
俺たちの姿にビックリしているのか、交互に俺たちの顔をみてる。
「え、勝くんなんで?」
「あんな昨日コイツうちに来たんよ。もう家調べてくるとかストーカーやからな」
やれやれといったような仕草をする勝くんにすかさず突っ込みをいれる。
「いやいやいや、ストーカーじゃないから。」
「ストーカーやって」
俺たち2人のやり取りをちょっと怒った表情をする文哉。まさか、妬いた?
「…それで?」
訝しがる文哉をまっすぐと見つめ、勝くんが柔らかく笑う。大丈夫って伝えるように。
「学校、行きたなった。こんなやつにダル絡みされてる文哉を見たくなってん。」
「ダル絡みじゃないし」
俺の言葉に反応することなく、勝くんは続けた。決意表明のようにまっすぐとした声だった。
「俺な、諦めててん。もう、普通に戻れるなんか思わんかった。でも、こんな変なやつおったら別に普通じゃなくても、クラスで浮いてても、楽しいかもしれへんなって」
ふぅっと一呼吸おき、俺と文哉を見て、
「コイツと文哉がいてくれたらな?」
嬉しかった。感動した。
「勝くん…」
俺が感動してるのに文哉のやつなにも言わずに黙ってんの。
「嫌か?」
「嫌じゃないよ?ね、文哉」
「コイツと一緒にされるのなんか嫌だけど…」
やっと話し出した文哉はなにか考えながら、うんと頷く。
「でも…運命共同体だもんね」
「せや、運命共同体やで」
2人がフフッと笑うと空気が柔らかくなった。
「え、ずるい!俺も運命共同体なりたい!」
「無理、お前はなれないよ。」
「いいじゃん、いれてよ」
見たことないいたずらっぽい笑顔で文哉が笑う。
「ムリムリ、だってもう必要ないんだから」
そして、まっすぐと勝くんを見つめて
「だって、あの地獄はもう終わったんだから」
勝くんが両手で顔を覆った。俺は肩を抱いて優しくさすった。文哉もやっと近づいてきて勝くんの頭を抱き締めた。
「ありがとう、ずっとそばにいてくれ」
言葉にならず勝くんはふるふると頭を横にふっていた。
文哉への呪縛が解けたんだと思った。これで問題は解決する、俺は確信してたんだ。
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