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高校生たちと一緒だったあの秋。映画『スウィングガールズ』

いままで観てきた映画の中で、自分的に「座右に置いておきたい映画」を少しずつ紹介していくコーナーです。


「好きな映画はなんですか?」と訊かれたときに、この映画のことを話すことはほぼない。

偏愛、と言ってもいいくらい好きなんだけど、なんかちょっと「好きな理由」を語るのが面倒くさいというか、シンプルじゃない。

なんだろう、ある時期の自分の思い出と直結していて、上手に話せないんだな。

だから今日も上手に話せるかどうかわからない。


公開は2004年の9月11日。

ボクは当時、広告会社でクリエイティブ・ディレクターをやっていて、その前月の8月10日に「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」の新聞広告&ウェブ広告を出稿したばかりだった。

これ(↓)はボクがこの仕事のことを話すときに使うスライド。

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で、ウェブサイトに来てくれたファンたちにメールを出して、12月4日〜6日の「廃校イベント(黒板漫画イベント)」に招待すべく、準備を進めていた最中に、この映画が公開されたのだった。

つまり、この映画の大ヒット公開中に、ずっとこの「思い出の仕事」をやっていたことになる(このキャンペーンのことは拙著『明日の広告』でもくわしく書いた)。

このイベントは、三浦半島の三崎高校という廃校を使ってやったのだけど、イベント会場を探すために、井上雄彦さんやスタッフたちとこの廃校に足を踏み入れたとき、「在りし日の高校生たちのざわめき」が聞こえた気がした。

まだ廃校になってそんなに月日が経っていないこともあるけど、なんかそのくらいまだ高校生たちの「高校生活の日々のかけら」が校舎のそこここに残ってた。


この廃校をイベント準備のために数ヶ月かけて作り替えていた最中、ボクはこの映画を3回ほど観たと思う。

だからだろう、主演の上野樹里や貫地谷しほりや本仮屋ユイカが、スラダンを手にわーわー言いながら学校の廊下を走っているような幻覚に何度か襲われた。

そのくらいこの映画にハマってた秋だったし(家で絵コンテ集を読みながらサントラを流し続けてた)、幻覚に襲われるくらいは忙しい秋だった。

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スラダンの黒板漫画イベントが終わって3週間ほど経った2004年の12月28日。

この映画の出演者によるたった一度のコンサートがあった(二日間やったのだけど、ボクは最終日に行った)。

「First & Last Concert」。

その噂を聞いて速攻で申し込んだらなぜか当たって、家族で行けた。
家族全員この映画のファンだったので、それはそれは大喜びで出かけた。

会場はホテル日航東京の宴会場で、数百人しか入らない。
客も映画の大ファンばかりで(70回観たという強者もいた)、非常に温かい雰囲気だった。コンサート、というより、なんか「映画の打ち上げ」に参加できたかのような体験だったな。

音楽監督のミッキー吉野たちの演奏から始まり、シーラカンス(工場の兄弟デュオ)の演奏、監督や関係者による演奏、そして最後に彼女ら(+彼)の演奏。

そう、リアルでこうしてコンサートが出来るくらいは、彼女らは全員ちゃんと練習したわけだ。だからこそのリアリティがある。

途中、ガールズから監督や客への手紙を涙ながらに上野樹里が読み上げたり、監督からガールズひとりひとりへのひと言があったり、約3時間びっしり盛りだくさんだった。

「これがスウィングガールズとしては本当に最後だからね」

矢口監督が何度もガールズたちに念を押す。
そして始まった最後の最後の演奏。
ボクたちも本当に最後の瞬間に立ち会っているのだなぁと胸が熱くなった。

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内容ではなく、こうして個人的体験に結びついている映画って、自分の中で古びないよね。

好きな場面はたくさんあるんだけど、場面場面ではなく、この映画の全体の空気感が好きなのは、ボクのあの年の「特別な秋」をリアルに思い出させてくれる映画だからかもしれない。


その後、プレミアムエディションDVD3枚組完全予約版(ねずみのお守りや、フィルムの切れ端がついてくる)を買って、これまたいろんな撮影裏話を追ったりした(もう完全にマニアですなw)

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上の方で上げた絵コンテ集は、そのねずみのお守りのシーン(貫地谷ちゃんが高音でトランペット吹く場面ね)と、ジャズに目覚める横断歩道の名場面。


そして監督自らが書いたノベライズもある。

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映画のパンフとか、サントラとか、コンサートのパンフとかも買ったんだけどなぁ。誰かに貸したまま戻ってこないっぽいw


あぁ、あの秋。

なんかスウィングガールズの高校生たちと、スラムダンクの高校生たちと、そしてあの廃校イベントに来てくれた「元高校生たち」と、あの廃校に宿っていた「かつての高校生たちのかけら」に囲まれた、奇跡的な秋だったな。


「好きな映画はなんですか?」と訊かれたら、この映画のことが頭をよぎるんだけど(こんなに周辺グッズを買った映画は他にないし)。

でも、やっぱりうまく説明できないんだ。

あの、高校生たちといっしょだった秋のこと。



スウィングガールズ

2004年製作

監督・・・・ 矢口史靖
製作・・・・ 亀山千広、島谷能成、森隆一
脚本・・・・ 矢口史靖
撮影・・・・ 柴主高秀
音楽・・・・ ミッキー吉野、岸本ひろし
編集・・・・ 宮島竜治
キャスト・・ 上野樹里
       貫地谷しほり
       本仮屋ユイカ
       豊島由佳梨
       平岡祐太
       関根香菜
       水田芙美子
       竹中直人
       白石美帆
       福士誠治
       高橋一生
       谷啓



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