「あの人、直球をちゃんと投げられないのに、変化球を覚えてしまったんでしょうね」
明日の言葉(その31)
いままで生きてきて、自分の刺激としたり糧としたりしてきた言葉があります。それを少しずつ紹介していきます。
外出自粛が長く続き、家で料理を作る人が増えている。
魅力的な簡単レシピもたくさん共有され、「あー作ってみたいなぁ」とよく思う。
そんなときふと思い出すエピソードがあって、今日はそれを書いてみようと思う。
20年間くらい、「さとなお」という名前で食事系のライターを副業的にやっていた。
そのころのお話だ。
(2年前に突然アニサキス・アレルギーになってしまい、いまは実質引退状態)
そのころは(ランチを入れると)月に40店くらいは自腹で「新規店開拓」をしていた。
ある日、「創作料理の名店」として知られている店に初めて行った。
ちょっとびっくりした。
いや、美味しくなくて。
すごい有名でもてはやされているのに、ぜんぜん美味しくなかったのだ。
いや、決してマズくはない。
でも、美味しくない。
なんというか、どこにもフォーカスが来ていない。
食材の組み合わせとか確かにユニークだし、やたらトリュフとかフォアグラとか使ってるので驚きもある。
でも、「いやまぁトリュフ使ったらこうなるよね?」という程度で、「ちゃんとした味」になっていないのだ。
「たまたまその日が調子悪かったのかも」と思い、その後も2回くらい行った。
やっぱりイマイチだった。
凝ってはいる。
魅力的なメニューに見える。
贅沢な食材をユニークに組み合わせている。
若い男女とか「きゃー」って喜ぶ。
でも、そのアイデアには、枠(フレーム)がない。軸がない。芯がない。
単なる思いつきで「どうです? すごいでしょ?」と驚かせてるだけ。
たとえばトリュフを使うにしても、「なぜトリュフ?」「味をどっちに持って行きたいの?」「全体の流れはどうなってるの?」「トリュフの味しかしないじゃん」「というかそもそもトリュフ合う?」って思ってしまう。
そんな感じ。
この料理店について、ある料理研究家と話すことがあった。
「あー、あの店、行きました行きました」とか言ったあと、その人が話した言葉をよく覚えている。
「あの人、直球をちゃんと投げられないのに、変化球を覚えてしまったんでしょうね」
とても心配げに話してた。
直球を知らずに小手先でこねくっても長持ちしない、と。
いまはチヤホヤされているけど、すぐメッキが剥がれて時代遅れになるんじゃないか、と(実際その後そうなった)。
単なる創作料理なら、プロなら誰でも「無限に」レシピが作れるそうだ。
食材の組み合わせなんて無数にあるんだから。
でも、ちゃんとしたプロはそれをやらない。
それが何故なのか、あの人考えたことがないんじゃないか、とその人は言った。
そうかもしれない。
「この組み合わせ、他の料理人やってないし、もしかしてオレの発明? オレって天才?」くらいに思っている節があった。
いや、他の料理人、それ、わかっててやらないんだよ。
こうしたら必ず美味しくなる、という「型」というか「軸」というか「芯」みたいなものが料理にはあって、ちゃんとした料理人はそこをはずさない。基本的にその枠(フレーム)の中で勝負をする。
創作料理を作るにしても、枠内からはみ出さないギリギリで頭を絞る。
だから必ず美味しくなる。
逆に言うと、それらをはずして創作してもめったにうまくならないのだ。うまくなったとしても、それはたまたまであって、打率は非常に悪いのだ。
え?
いったい何が言いたいのかって?
軸がない創作料理に、美味しいものなし。
ということも言いたいんだけどw、でももちろんそれだけじゃない。
実は昨日のこの記事といっしょのことだ。
新しい本や新しいセミナーや新しいノウハウみたいのばかり探して、そこから「気づき」や「学び」や「即効性のあるアイデア」とかばかりを得ようとしている若者がいてですね。
すごく勉強熱心ではあるんだけど、その人に伸び悩みを相談されてですね。
なんか手っ取り早く「便利な武器」が欲しいんだろうな、ということはわかるんだけど、そんなもの、もし手に入ったとしても、一時期しか通用しないヘナチョコ変化球にしかならないよ、と。
それを伝えたくて。
まず、ステップと腕の振りを覚えて「ド直球」を投げられるようになろう。
誰かの「型」を必死にマネるなり、一冊の本をくり返しくり返し読むなり、自分と相性よさそうな人をひとりだけずっと追いかけるなり、この人ならという先輩ひとりにとにかくお願いして教えてもらうなり。
いろいろ浮気しても身につかない。
愚直にひとつに絞った方がいい。
いろいろ小手先の技術をつける前にそれをやらないと、結局うすーい変化球しか投げられなくなるよ。
そんなこと。
なんか、2日連続で偉そうで失礼しました。
みんな、インスタントに効果が上がる方法ばかり追いすぎだと思うな。
短くして得られたものは、短くして失うからね。
注意注意。
古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。