スクリーンショット_2019-12-14_14

映画の楽しさ全部入り! 『シャレード』

人生で観てきた映画の中で、自分的に「オールタイムベスト」なものを少しずつ紹介していきたいと思います。


おーい、今度の映画にはさ、映画の楽しさをぜ〜んぶ入れてみようぜ!

えーと、ハラハラドキドキさせるヒッチコックばりのストーリー!
ウィットに富んだ洒落た会話!
人の憧れをかきたてる最新ファッション!
美しくも印象に残る音楽!

ロケーションはもちろんパリだな。憧れのパリ。でも高級リゾート地もちょっと見せてやろう。
うっとりさせるようなロマンスも散りばめて。
ちょっと悪の匂いも漂わせて。
んでもって、観客の心にずっと残るようなあっと驚くラストシーンも用意して。

もちろん演じますは当代最高の美男美女。
それも、ちょっと不可能と思われるぐらいなキャスティングで。

今度の映画はそんな風にしようよ!!
絶対当たるぜ!!



・・・1960年代初頭のハリウッド。たぶん、60年か61年。
   そんなことを誰かが言い出したとしか思えないような映画。
   それがこの『シャレード』 だ。


辞書で charade を引くと「ジェスチャーゲーム」と書いてある。

正確には「パントマイムで演じられたジェスチャーから隠された言葉を当てるゲーム」ということらしい。
むかーしNHKでヒットしたあの番組といっしょだ。まぁ意訳すると「謎解きゲーム」ということか。

そう、そのものズバリ「謎解きゲーム」という題名なんですね、この映画。
この謎、解いてごらんよ、と挑戦しているような題名だ。

でも、そう言い切っているだけあって、まさに謎の連続で観客を煙に巻く。
面白い。
虚をつかれる。
そんでもって大どんでん返しのラストシーン。
まさにヒッチコックばりのスリラー・サスペンス。
いや、ヒッチコックばりどころか、「ヒッチコックへのオマージュ」に限りなく近いとも言える。

監督のスタンリー・ドーネン(『踊る大紐育』(1949)、『雨に唄えば』(1952)などを監督したミュージカル・コメディの名手)自体、「私はかねてから『北北西に進路を取れ』みたいな映画を撮ってみたかった」と言ってこの映画に着手したんだから、ヒッチコックのオマージュだ。

ただ、ドーネンはそこにビリー・ワイルダー風味のロマンティック・コメディ・タッチを入れて「オリジナル・ドーネン・スタイル」に仕上げた。それがこの映画の大ヒットの要因だろう。

なにしろ『シャレード』が大ヒットしたあと、このスタイル(ロマンチック・コメディ・スリラーというらしい)をまねた作品がそれこそ雨後の竹の子のように封切りされたんだから。

↓オフィシャル・トレイラー



それにしてもこの映画、まさに当時の「映画の魅力」をすべてぶちこんだような作品だ。

なによりもまず、当時不可能かと思われたようなキャスティング、オードリー・ヘップバーンとケーリー・グラントの初共演が実現していることがすごい。

『ローマの休日』『昼下がりの情事』『ティファニーで朝食を』などの大ヒットですでに女王の風格すらあったオードリー・ヘップバーンは、『パリの恋人』でコンビを組んだお気に入りのドーネン監督との新作、かつ、かねてより熱望していたグラントとの共演でまさに輝いている。

ヒッチコック映画の象徴みたいなケーリー・グラントはこれが70本目の作品。
ヘップバーンとの共演は「ちょっと年の差がありすぎないか」というような理由で消極的らしかったけど(当時59歳。年の差は25歳。実際この話を最初は蹴ったらしい)、まだまだ脂は乗り切っている。つうか、映画産業の象徴みたいな俳優だ。

この、当時の超二大スターで、ロマンチック・コメディ・スリラーをやって当たらないわけがない。

そこに加えて。

ファッションは、ヘップバーンという最良のモデルを得て乗りに乗っているジバンシー(彼の作り出すファッションは常に大流行。時代の先端を行っていた・・・オードリーの力に寄るものが大きかったが)。

音楽は、『ティファニーで朝食を』(61)『酒とバラの日々』(62)で二年連続アカデミー主題歌賞をもらったばかりのヘンリー・マンシーニ(惜しくも3年連続はならなかったけど、十分それに足る名曲をシャレードに提供した)。

タイトルは、007シリーズのほとんど手がけているモーリス・ビンダー(超斬新なタイトルワーク)。

脇役には後年ジャック・レモンと組んで大喜劇俳優になっていくウォルター・マッソー(余談:彼の本名はタミルトン・マッシャンスカヤスキーというらしい。マッシャンスカヤスキーじゃ誰も読めないからマッソーにしたんだって)。

『荒野の七人』『大脱走』で伸びてきたジェームス・コバーン(この映画でもカウボーイ出身ということになっていて、ガンをくるくる回せてみせてくれたりする ←こういうパロディはわりとこの映画では出てくる)。

後年『暴力脱獄』でアカデミー助演男優賞を取り、『エアポート』シリーズでもお馴染みになるジョージ・ケネディ(この映画では義手の大男役)。

そして最後に。
大事なロケーションは当時のはやりであるパリ
花の都パリの要所要所を観光旅行のように散りばめる。


・・・うーん、こうして見ると、謎解きの妙+小洒落た会話、ばかり取りざたされるこの映画だけど、とっても贅沢に作られているのがよくわかる。

ある意味「1960年代の良く出来たトレンディ・ドラマ」なのだろう。その当時の「今」をいっぱい詰め込んで、作ってある。

もちろん、いま観るといろいろアラはある。
テンポは甘いし、サスペンスの部分はちょいぬるい。アクションシーンはたるいし、グラントの百面相は居心地悪いし、ラストの画面分割は古くさいし、オードリーのファッションにも突っ込み入れたくなるし・・・。

でも、当時としては「これこそトレンディ!」なのだ。

普通、トレンディなものって、40年もあとに観るとあまりにダサくて笑えちゃったりするんだけど、この映画は「40年も前のトレンディ・ドラマにしては違和感がない」と思いません?

それってスゴイことだと思う。
つまり、「トレンディもここまでやれば、ひとつの時代の象徴になる。そしてそれは古びない」ってことなのだろう。


実は、ケーリー・グラントはジバンシーのファッションのそのトレンディさに批判的だったらしい。

彼は「映画が長持ちするためにはあまりファッショナブルすぎてはいけない」という考えを持っていて、彼自身は古すぎず新しすぎない、つまり流行にとらわれないファッションを、映画ではいつもしていたらしい(そういやそうだ)。

そういう彼にとって、ジバンシー+オードリーのファッションはトレンディ過ぎて映画の寿命を短くするもの、と感じられたらしい。

さすがな卓見。

でも、この映画自体も、ジバンシー+オードリーのファッション自体も、結果的に古びなかった・・・。

そのことが、まさにこの映画の凄さをもの語っていると思うのだけど、如何でしょう。




個人的謎なのだけど、この映画の中の会話で「ここはどこ?」「君住む街角さ」「もっと歩き回りたいわ」っていう、『マイ・フェア・レディ』のパロディが出てくる。
なぜ1963年封切りのこの映画で1964年封切りの『マイフェアレディ』のパロディが出てくるのだろう。なぜ成立するのだろう。たまたま『マイ・フェア・レディ』の封切が遅れた、ということかな。
誰か教えて!

【追記】
河田剛さんから以下のコメントをいただきました。
「マイフェアレディは1962年秋にオードリーがイライザを演じることが決定していて、シャレードの撮影開始も同じ時期です。マイフェアレディはブロードウェイでロングランして映画化前に誰でも知ってる状態だったようなので、小ネタとして入れたのかもしれません」

吉田雅一さんからは以下のコメントをいただきました。
「私の知ってる情報から予想してみます。
・まず、ヘップバーンはマイフェアレディの大ファンだった
・マイフェアレディの映画の版権を当時としては破格の価格で買い取ったワーナーとしては、何としても大ヒットさせたかったため、予想外の大ヒットをした「尼僧物語」に主演したヘップバーンに依頼したかったし、結果依頼した
・ただ、ヘップバーンは舞台のジュリーアンドリュースが素晴らしかったので、一旦は断った
・一方、ジュリーアンドリュースは映画ではまだ無名で、ワーナーがスクリーンテストを強いたので、それに怒って映画出演は断った/断られた?
・で、ワーナーは当時の大女優とかに主演依頼をしようとしたので、それはいややと、結果、ヘップバーンは受けた
・ちなみに、映画主演(ヒギンズ教授の方)は最初ケーリーグラントに依頼し、ケーリーグラントから「私の中でヒギンズ教授はレックスハリスンしかない」的な言い方でお断りしてる
・で、版権を買ったのは1962年で、キャストが決まり、撮影が始まるのは1963年5月か6月
・なので、公開1964年は延期も何もされてなく、オンスケジュール
・シャレードは撮影開始は1962年の10月頃なので、
>>>>>ココカラは個人的な推測ですが<<<<<
・ミュージカル映画の監督でもあったスタンリードーネン、「マイフェアレディ」の主演に声かかって断ったけど、その舞台が大好きだったケーリーグラント、同様に「マイフェアレディ」が大好きで主演が決まりかけていたヘップバーンがアドリブで/シャレでやったんではないでしょうか?」


※※
ネタばれになるけど、古い映画だからいいか。
謎解きのキーポイントになる「切手」だけど、この映画のあと、世界の切手蒐集熱は一気に高まり、世界的な「切手バブル」になったらしい。


※※※
母親が小学生だったボクにこんなことを言っていたのをいまでも覚えている。
「映画にね、『シャレード』っていうすごくシャレている映画があってね。シャレって言葉はその『シャレード』が語源なのよ」
マジな顔で言っていたけど、本気だったのかなぁ・・・。謎。


Charade

Stanley Donen
Cary Grant, Audrey Hepburn, Walter Matthau, James Coburn, George Kennedy, Dominique Minot

1963年製作
113 minutes

製作・監督・ スタンリー・ドーネン
脚本・・・・ ピーター・ストーン
撮影・・・・ チャールズ・ラング・Jr.
音楽・・・・ ヘンリー・マンシーニ
衣装・・・・ ユーベル・ジバンシー
キャスト・・ オードリー・ヘップバーン
       ケーリー・グラント
       ウォルター・マッソー
       ジェームス・コバーン
       ジョージ・ケネディ



古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。