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行ったり来たり。心が揺れる映画『追憶』

いままで観てきた映画の中で、自分的に「座右に置いておきたい映画」を少しずつ紹介していくコーナーです。


バーブラ・ストライサンドロバート・レッドフォード

予告編を見たらわかるけど、当時、このふたりが共演するのは、それだけでニュースだった。


中学生のときのボクは、レッドフォードはよく知っていたけど、ストライサンドのことはまだそんなに知らず、なんか鼻っ柱が強いいけ好かない女だ、くらいに思ってた。

でも、この映画を見終わったあとは、不思議とイヤではなくなり、その後、彼女のアルバムとかよく聴くようになる。

女性として全然タイプではないけど、その強烈な存在感で、なにかのときに、ふと思い出す。彼女は、というより、ケイティは、この映画以降、ボクの心のなかにひっそり棲むようになった。


この映画を最初に観たときの最初の感想はこんな感じ。

おいおい、やっぱり人間、見た目かよ!

まぁ中学2年の時だけど。


なにしろ主人公のふたりの性格は全く違う。

いや、単なる「性格」なら別に違ってもいい。
明るい、暗い、せっかち、のんびり、細かい、大ざっぱ、気が強い、気が弱い・・・・・そう、性格は別に正反対でも全然いい。

でも、この二人の場合、「生きる方向(The Way)」がまるで違う。


     ハベル <・・・> ケイティ
 ======================
   「上流階級」<・・・>「下層階級」
 「人生を楽しむ」<・・・>「人生と闘う」
   「いい加減」<・・・>「ひたむき」
     「安易」<・・・>「努力」
     「妥協」<・・・>「主張」
    「薄笑い」<・・・>「眉間にしわ」
     「客観」<・・・>「主観」
     「会話」<・・・>「演説」
 「がんばらない」<・・・>「がんばる」
 ======================


ケイティ(バーブラ・ストライサンド)は社会を変えるため、政治活動に没頭している。「イデオロギー」に凝り固まっている。

というか、彼女にとって「イデオロギーこそすべて」なのだ。
イデオロギーこそ人間の糧なのである。
余裕もない。
常に妥協しないで「too much」にやってしまう人である。


一方、ハベル(ロバート・レッドフォード)はそんなことにはほとんど関心がない。

恵まれた才能を活かして、だらだらと気ままに生きている。
真面目ではあるのだが、スポーツと酒と、仲間とだらだら遊ぶことが好きな男なのだ。
小説の才能もあるが、それを武器に正面切って闘っていこうとは思っていない。
人生をユーモアで流そうとしている。

どうだろう、この「生きていく方向」の違い。

そしてそして!
ケイティは、「ハベル的なもの」をある意味「憎んでいる」のだ。
問題意識のカタマリのような人だから、ハベルの享楽的な生き方が我慢できないのである。

なのになのに!
男女の関係を始めてしまうのは、なんとケイティの方なのである。
ケイティの方がコロリとあっけなく惚れてしまう。

まぁハベルほどの美男子ならわからんでもないが、それってでもなんだかさぁ・・・人間、やっぱり、見た目 なの? 

中2のボクがそう思っても仕方がない。


あの頃は「享楽的なハベル」に憧れたな。
でも、歳くってから観返すと、不器用なケイティに強く共感する自分がいる。

というか、ハベルをどんどん嫌いになっていく。

ハベルは、彼自身とはまるで違う「闘う人生」「ひたむきな生き方」をするケイティに惹かれたんだろうけど、そのわりに彼女を自分の生き方に同調させようとする。

そのあげく浮気はするわ、仕事で信念は曲げるわ、赤狩りも他人事にするわ・・・しまいには彼女も子供も捨てて、あっさり次の人生に流れていく。

「ボクたちは合わなかったんだよ」とひと言言うだけで。

彼の人生は「彼の生まれた国に似て実に安易」(劇中で彼が書く小説の中の文章)なのだ。

小説、そして映画、映画がいまいちならテレビ、と、どんどん流れるがままに、世界を、そしてスタンスを変えていく。

そういう安易さや器用さに憧れつつも、あぁボクのWAYは違うなぁ、と思うし、そうだからこそ、自分と違うものに憧れるんだろうな、とも思う。

この映画を観るたびに、そこの行ったり来たりで心が揺れる。

それは中2のときも、60歳を前にした今も、ほとんど変わらない。


それにしてもこの頃のロバート・レッドフォードの美しさは完璧だ。

大学卒業以来、はじめて再会するパーティ場面。
カメラが左からパンしていって、群衆の中にふと白い軍服姿の彼を捉える。
そこにあの美しい主題歌がかぶさってタイトルロール・・・。
この時、男のボクですら、ハッと美しさに打たれてしまうところがあるから、女性だったらたまらないだろうな。

ロバート・レッドフォードはこの年36歳。
学生役をやってもまったく不自然さのない化け物みたいな美しさ。

演技的にも「追憶」は代表作のひとつではないかな。
ちょっと「地」っぽくて、ハベルという「安易」な男を余裕たっぷり演じてる。ブラピを重ねる人がいるけど、ちょっと格が違うとボクは思う(似ているけど)。

「裸足で散歩」「明日に向かって撃て」「大いなる勇者」「候補者ビル・マッケイ」「追憶」「スティング」「華麗なるギャツビー」「華麗なるヒコーキ野郎」「大統領の陰謀」・・・(最近では「アベンジャーズ/エンドゲーム」のちょい役で出てたっけ)。

ホントいろんな作品に出ている彼だけど、1973年に撮ったこの「追憶」と「スティング」、そして翌年の「華麗なるギャツビー」あたりが最盛期だった気がする。個人的には「明日に向かって撃て」が好きだけど。
「普通の人々」 で1980年度アカデミー「監督賞」を取ったけど、彼の監督作品は、実はそんなに好きではない。


バーブラ・ストライサンドは、イデオロギー的にも生き方的にも歯がゆいのに、どうしようもなくハベルに惹かれていってしまうケイティを熱演している。

特に激昂して「なにが怖れているの!」などと叫んでしまうあたりなんか、まぁなんというか嫌味な人で、でもこれまた「地」っぽい演技だなぁと。

でも鼻っ柱の強い彼女がたまに見せる自信のなさそうな表情はとっても印象的だった。そこに強く共感したなぁ。

彼女はこの年31歳。
「ファニーガール」でデビューしていきなりアカデミー主演女優賞を受賞してから5年目のこの作品は、まぁ文句なしの代表作だと思う。

「ハロー・ドーリー!」「晴れた日に永遠が見える」「おかしなおかしな大追跡」「追憶」「スター誕生」「愛のイエントル」「ナッツ」・・・

「スター誕生」の主題曲「Evergreen」では、自らの作曲でアカデミー主題歌賞を受賞するという、まぁなんというか非の打ち所のない人生を送っているわけだけど、実際ボクはこの人の歌は大好きだ。ライブのDVDとかも持っていて、たまに観たくなる。

自意識過剰っぽい歌い方なんだけど、そうならないように自分を押さえているような、なんか「努力の人」っぽさが好き。それってケイティみたいだよね。


面白いところでは、イデオロギー的にケイティの忠実な仲間であり、かつ想いを寄せている男に、若き日のジェームズ・ウッズが出てる。
「クワイヤボーイズ」「カリブの熱い夜」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のジェームズ・ウッズ。これまたとてもいい味だしていて、この作品の一服の清涼剤になっているんだな。好き。


監督はシドニー・ポラック
恋愛物にもどこかで社会問題を入れ込む人。

この「追憶」ではハリウッドの赤狩りだったけど、中途半端な描き方で、ボクはあんまり好きじゃない。
「愛と哀しみの果て」でアカデミー監督賞を取ったけど、あの名作『アフリカの日々』の映画化なら、もう少し上手に撮って欲しかったと個人的には思う。きれいだけど、アイザック・ディネーセンの詩情が映像化されていないと思う。
ロバート・レッドフォードとは親友の仲だそうで。そういえばレッドフォードは6本も主演している。


「The Way We Were」という映画史に残る名曲は、アカデミー作曲賞と主題歌賞を受賞した。
この曲を作曲したマービン・ハムリッシュは、同じ年「スティング」でもアカデミー編曲賞をもらってる。
舞台の「コーラス・ガール」もこの人の作品だな。
地味な人だけど、いい仕事をしてるなぁ。



ラストシーン。

一時、あれだけ一緒に時を過ごしたふたりが、すーっと他人になっていく。

かつて愛し合った二人が、まるで違う人生を歩み、もう元に戻ることはない。もう相手がどんな人生を歩んでいるかもわからない。

そして人生の道は、戻れない・・・。


この映画にはたくさん印象的な名場面があるんだけど、特に好きなのはこのラストシーン。

そして、また揺れる。

ボクは、たった一回の人生で、どの道を選び、どの道を進むのだろう。

実際には、かなりの道程をもう来てしまったのだけど、この映画を観るたびに、心の中で、いまだに分かれ道に立つ。そして途方に暮れる。

ケイティとハベルは、似ても似つかない相手と人生が交差し、影響しあって変わっていくように見えて、結局、もともとの自分の道に戻り、前に進む。

ボクは、ボクの道を行っているのだろうか。
ボクの、ボクらしい道とは、この道なのだろうか。

この映画を観るたびに、若い頃のそんな思いに立ち返り、すごく切なくなる。

そういう気分を味わうために、ボクはこの映画をこれからも観るのかもしれないな。


The Way We Were

Sydney Pollack
Barbra Streisand, Robert Redford, Bradford Dillman, Lois Chiles, Patrick O'Neal, Viveca Lindfors

1973年製作
118 minutes

監督・・・・ シドニー・ポラック
製作・・・・ レイ・スターク
原作・脚本・ アーサー・ローレンツ
撮影・・・・ ハリー・ストラドリングJr.
編集・・・・ マーガレット・ブース
音楽・・・・ マービン・ハムリッシュ
主題歌・・・ バーブラ・ストライサンド
キャスト・・ バーブラ・ストライサンド
      ロバート・レッドフォード
      フラッドフォード・ディルマン       
      ビベカ・リンドフォース
      マレイ・ハミルトン       
      パトリック・オニール
      ロイス・チルズ
      ハーブ・エデルマン
      ジェームズ・ウッズ



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古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。

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コミュニケーション・ディレクターです。 さとなお名義で食やエッセイの本、佐藤尚之名義で広告関係の本を書いています。最新刊は『ファンベース』(ちくま新書)。 1995年から個人サイト「さとなお.com」を運営しています。