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ユーリ・ノルシュテインの神アニメ。『話の話』

いままで観てきた映画の中で、自分的に「座右に置いておきたい映画」を少しずつ紹介していくコーナーです。


1979年に作られたこの古い小編(29分)を、いったいボクは何度観たことだろう。

20代30代のころなんか、独り暮らしのボクの部屋に遊びに来た友人は、無理矢理これを見せられた。

興味がない人にとっては災難に近かったかもしれない。
でも見せて、ひとりでも多くの友人と共有したかったんだよね。
当時はもちろんSNSもなかったし、というかまだネットも検索もなかったから、同好の士を増やすにはとにかく「強制的に見せる」しかなかった。

そして無理矢理「いいだろ?」と押しつけて・・・w
いや、災難でした。すいませんw

ユーリ・ノルシュテイン。
あなたは彼を知っているだろうか。

ロシアのアニメーション作家。いや、ソ連の、と言ったほうがしっくりくるんだけど。

アニメと言っても、いわゆる日本のテレビアニメとは全然違う。
切り紙アニメとでもいうのかな、切り紙をカメラの前で動かして、実写とも合成したりして丁寧に時間をかけてじっくり作る。

その深い詩情。幻想的なタッチ。センチメンタルな主題。
どれをとってもまさに芸術としかいいようがないし、何度見ても感動してしまう。

内容はまさに「詩」であって、散文的なストーリーは(この「話の話」に限っては)全くない。何度でも観て、感じて、消化して、また感じて・・・。

良く出来た詩を生涯愛読するように、ボクもこの小編を生涯観続けると思うな。

あれは25歳くらいだったろうか。
初めてこれをビデオで観たときの衝撃と感動は忘れられない。

その想像を絶する質感。リアリティ。
その詩的情感、夢の中のような幻想感。
イイタイコトの奥深さ、音楽のせつなさとその効果的なること。
登場するキャラクターの印象的なる造形。

物語はもちろん、たとえば子供オオカミが芋をむくアニメーションの質感とユーモアなんか忘れられない衝撃だったし、また、旅人が歩いていく田舎の描き方なんてしばらくそのイメージが脳裏を離れないくらい見事なものだった。

とにかく(当時の)アニメーションが到達した表現の完成度に圧倒された。

実写映画では絶対表現できないその美しさ。その情感。

圧倒されてしばらく身動きが出来なかった。

そのころボクはまだ独身で独り暮らしだったんだけど、その日は徹夜で何度も何度も繰り返しこれを再生しつづけたことを覚えている。

言葉もなにもいらない。
とにかくこの世界に溺れてた。


YouTubeに「公式」っぽいのがあったから、貼っておこう。

最初はとっつきにくいかもしれないけど、諦めず観てください。
途中からぐぐぐぃっと引き込まれる。


原題「Tale of Tales(Skazka skazok)」を直訳すると、「おはなしたちのおはなし」。

多分この題名はいくつもの詩的イメージを指している。


タンゴ「疲れた太陽」を踊りながら戦争にとられていく男たち。
詩人は木の下で詩を書き、旅人はご馳走を与えられ、子供は動物と遊ぶ平和な生活。
突風に舞うテーブルクロス。舞い上がる戦死公報。走り去る列車。
リンゴに降る雨。食べるカラスたち。父母に引きずられる幼き子供。
オオカミが芋をむくあたたかい空間。
詩人が書いた詩が変身する赤ん坊。
それをあやすオオカミが歌うロシアの古い子守唄。

これらのイメージをせつなげな目をした子供オオカミを狂言回しに結びつけ、平和な生活が存在した日々へのセンチメンタリズムと、戦乱によって失われた幸福の再生を、祈るような映像で静かに描いている。


・・・まぁこうして説明すると安部公房の小説のように難解に思えるかもしれないけど、大丈夫、観たら心に直接入ってくるから。


とにかく観ていない方には、ぜひ観て欲しいなぁ。


これを作ったとき、ユーリ・ノルシュテイン監督は38才。
1941年生まれと言うことは、いま79歳。まだご存命だ。

2010年、「話の話」というタイトルの美術展が行われ、ボクは葉山にある神奈川県立近代美術館に飛んでいった。

ほんと、もう喜々として飛んでいった。

幸せだったなぁ。
何時間も何時間も、ひとりで見回っていた。

また図録がいいんだ。
これはまた、そのうち紹介しよう。

↓その分厚い図録。

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YouTubeにノルシュテイン監督の特集上映の予告編もあった。
貼っておく。
「霧の中のハリネズミ」とかも、ホントいいよ。



Tale of Tales(Skazka skazok)
Сказка сказок(Soviet Union: Russian title)

Yuri Norstein
Lyudmila Petrushevskaya, Yuriy Norshteyn
Aleksandr Kalyagin as Little Grey Wolf

1979年製作
29 minutes

監督・・・・ ユーリ・ノルシュテイン
美術・演出・ ユーリ・ノルシュテイン
F・ヤルブソバ
脚本・・・・ L・ペトルシェフスカヤ
ユーリ・ノルシュテイン
撮影・・・・ I・スキダン・ボシン
編集・・・・ N・アブラモバ
作曲・・・・ M・メーロビッチ
音声・・・・ B・フィリチコフ
構成・・・・ N・トラシェバ
画面・・・・ G・コブロフ
子狼の声・・ A・カリャーギン



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