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【鑑賞ノート】1.小さな恋のうた(映画)

「小さな恋のうた」はMONGOL800の歌の中でも一番好きな歌である。MONGOL800の楽曲にインスパイアされて作られた映画「小さな恋のうた」は、バンド活動をする高校生の青春映画である。時は現在の設定なのだが、20年ほど前の自分の高校生時代の頃をオーバーラップさせる。自分の高校時代を描いているのではないかと思わせる。そこには2つの要因があると思う。1つは、MONGOL800ことモンパチの曲である。聞き親しんだモンパチの曲が90年代の空気感が漂わせており、それが懐かしく感じるのである。モンパチがデビューした頃は大学生だったけれど、10代を過ごした90年代の空気感を感じさせる。2つは、やはり背景に沖縄が見えるからだ。青い海はもちろん、見慣れた民家の風景の数々、マブイ(魂)をおとすという身体感覚、日常にある祈り、米兵たちが出入りするバーが並ぶ街、そして、基地のフェンス。映画の風景はこの1、2年に撮られた風景であるから、それは言い換えれば、20数年経っても変わらない現実があるということでもある。いい意味でも悪い意味でも。

映画「小さな恋のうた」の評をいろいろと見てみると「沖縄のリアル」が描かれているということが多く見られる。たしかに私もそのように感じたのだが、何が「沖縄のリアル」なのだろうか。そう考えながら映画を振り返ると次のようなことかなと思った。基地の描き方と沖縄の人の意識の描き方に何かしら思い当たる節があり、しかも、その「思い当たる節」は日常生活の中においてであり、「基地」に対して強い否定も肯定もできずに、流されるままに生きるその日常感が「沖縄のリアル」を感じさせるのだろうと思った。

「小さな恋のうた」は高校生バンドの話を主軸としながら、沖縄の基地のある生活を描いている。それも絶妙なバランスで。沖縄の、特に基地の近くに住む一般の人にとっての日常生活の中にある「基地」の有り様の描き方として、ほんとに絶妙なバランスである。遠すぎず踏み込み過ぎず、生活の中に「とけこむ」基地の姿の描き方は絶妙だと感じた。ところで、私の実家は、普天間基地が近くにある。他にもキャンプ瑞慶覧、キャンプ・キンザーなど生活圏にいくつもの基地があり、フェンスのある風景はもはや心象風景とも言えるくらいである。基地関係者とおぼしきアメリカ人に会うことは珍しいことではない。さらに基地内に生活する一般の人に接することもそれなりにあった。独立記念日にはカーニバルが開かれて、一部、基地が開放されたりしていた。小学生の頃に通っていた英会話スクールには基地に住む人が講師として来ていた。また、基地内ホームステイプログラムで基地で一週間過ごしたこともある。そこで、ちょっとした、いや小学生にしてはロマンチックすぎるときめきも経験した。ホームステイをしていた期間に誕生日があり、ホストマザーが誕生会を開いてくれた。そして、少年の頃のディカプリオのような金髪ストレートのアメリカンボーイからネックレスを貰い、あまつさえ、それをつけてもらうという漫画のような、映画のようなシチュエーションに出会うのである、11才で。10代の恋のロマンスの絶頂であったことは言うまでもない。映画内でも、沖縄の高校生男子と基地に住む少女との淡い恋が描かれている。そこに11才の頃のロマンスが重なってきゅーんとなってしまった。それはさておき、基地内に住む米兵や一般のアメリカ人に接することはそれなりにあって、人と人として接する限りにおいて、「基地」という感覚が薄まる。目の前に生身の人がいると、政治的な「基地」よりも、個人的な「アメリカ人」ということがどうしても意識されるのである。このような感覚を持つ私にとって、ニュースや政治の中の「基地」の方が遠い感じがするのである。だからといって、沖縄に基地があることが良しというわけではなないので、これまた複雑な思いになる。

それから、沖縄の人の意識の描かれ方についても絶妙だなと思うのだけど、その中でも切なくなる人がいる。山田杏奈さんが演じるヒロイン譜久村舞の父親である。佐藤貢三さんが演じる譜久村一幸は基地内で働いているという設定である。それゆえに、そして、ストーリー展開的にも複雑な思いを抱える役である。生活していくためには基地の存在を簡単には否定できない。そして、沖縄の現状を変えたいと思いながらもどこかであきらめもある。でも、娘の舞には、本土の大学に進学して、外から沖縄を見て、将来の沖縄を考えるように促したりする。まさしく私の父母を見るかのようである。特に基地を抱える地域に生まれ育った父に重なるところが切なく見えた。基地に憤り、自分の地域に基地があることに理不尽さを感じ、現状にやるせない思いや不満を抱えている。それは基地だけではなく、沖縄そのものに対してもそうだ。私の父は大学時代を東京で過ごしたが、その頃、まだ少なからず沖縄の人に対する差別や偏見があったという。そういう経験をしてきた父の悔しさや悲しさは直接的には分からないけれど、父が時々発する「沖縄だから仕方ないよ」というようなことばに私は時々悲しくなる。そして、受けた差別や偏見はこんなにも一生ついて回るものなのだと、やはり悲しくなる。

そんなこんなで、いろいろと心をえぐられる映画である。でも、モンパチの歌がちりばめられて、ストーリー展開も青春モノの王道で、じめっとした中にも爽やかさと前向きさが感じられるいい映画だと思う。

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