課題「魅力ある男」

「何よりも大事にしていること」

人物名

中山りさ(19)  スーパーのアルバイト

佐々木義男(56) スーパー副店長

田山宏(43)   スーパーの若い店長

小島幹江(63)  総菜部門で働くパート

前田俊三(66)  スーパーの常連

吉岡聡(35)   惣菜部門担当者

客(70)


〇スーパーマーケット・店内

売場にいる中山りさ(19)に客(70)が近寄る。

客「ねえ、おねえちゃん。これいつになったら安くなる?」

   かごの中から惣菜のパックを取り出し

   りさに見せる。

りさ「お値引きの時間は、言えないんです」

客「あっそ。客に冷たいのねぇ、このお店は」

客、惣菜を軽く投げ捨て去っていく。

〇同・店長室前(夕)

   佐々木義男(56)の話を従業員達が一列に並び聞いている。

佐々木「では、本日もよろしくお願いします」

従業員「よろしくお願いします」

   従業員達が持ち場へ移動していく。

   階段を降りようとするりさを、佐々木が呼び止める。

佐々木「あ、ちょっと中山さん」

りさ「はい」

   りさ、佐々木の元へ駆け寄る。

   佐々木が小さな声で話す。

佐々木「この間、早めに割引したでしょ」

りさ「……はい、すみません」

佐々木「損するお客様が出てくるでしょ?」

りさ「おっしゃる通りです」

佐々木「今度から気を付けるように」

りさ「はい、すみません。失礼します」

   階段を駆け足で下って行くりさ。

〇同・惣菜売り場・厨房(夕)

   店内には、20時を知らせるアナウン

   スが流れる。

   りさが惣菜をプラスチックの容器に詰めている。

   店内は仕事帰りのお客さんでいっぱい

   になっている。

   小島幹江(63)が値札をつけている。

りさ「貼って貼って、ってしつこくお客さん

 がしつこく言ってくるから……」

幹江「でも、今日は素直に従ったじゃないの」

   売り場に割引シールが貼られた惣菜のパックが並んでいる。

りさ「今日は、アレがいますからね」

   りさ、厨房のガラス窓から商品の品出しをしている佐々木の後ろ姿を   
   見つめる。

〇同・店内

   私服姿のりさがかごを持っている。

   スマホのメモ書きを見つつ買い物をする。

   りさ、お菓子売り場に行く。

   お菓子を探しているとパック詰めされ

   た惣菜が置かれているのを見つける。

りさ「あ、また?」

   惣菜を手に取ったりさは、惣菜売り場へと進む

〇同・惣菜売り場

   惣菜部門のバックヤード奥では佐々木と吉岡聡(35)が話している。

   佐々木が資料を吉岡に見せている。

   バックヤードの扉が開く。

   敏江が出来立ての惣菜を乗せたワゴンを押しながら売り場へ歩いていく。

   りさが敏江に話しかけにいく。

りさ「小島さん、こんにちは」

敏江「あらぁ、りさちゃんどうしたの?」

りさ「買い物しに来たのでちょっと覗いてみたんです。あ、これお菓子売り場に置いてありました」

敏江「あら、まただわ。ありがとう」

   惣菜を敏江に渡すりさ。

   敏江、受け取った惣菜をバックヤードへ戻す。

りさ「ところであれは?」

   バックヤード裏を小さく指差すりさ。

   敏江が目を細めて確認する。

敏江「ああ、いつものやつね。売り上げのことで言われているだけよ」

りさ「いつもなんですか?」

敏江「惣菜部門が、この店の売り上げを左右しているんだってさ」

りさ「でも毎日売れ残りも少ないですよね」

敏江「それがね実は……」

   りさ、驚き敏江の顔を見る。


〇同・店長室

   田山と佐々木が机を挟んで向かいに座っている。

   机の上のノートパソコンには、防犯カメラの映像が映っている。

佐々木「なんかおかしいと思ったんですよ」

田山「これは……」

   ノートパソコンを閉じる田山。

田山「本部には連絡するので。それまでは様子見でお願いしますね」

   佐々木、少しいらつき、

佐々木「そのままにしておけと?」

   田山、いらつく佐々木を手で制して、

田山「まあまあ、売り上げの件はまだしばらくどうにかできると思うんで」

佐々木「作る側は?」

   田山、言葉に詰まる。

   佐々木、腕を組み椅子にもたれかかって深くため息をつく。


〇同・惣菜売り場(夕)

   店内は、大勢の客でごった返している。

   花火大会のポップが飾られている売場。

   前田俊三(66)がりさに怒鳴る。

前田「おい! どういうことだ!」

   周囲の客が大きな声に驚く。

   りさが頭を下げながら、

りさ「申し訳ございません」

   走ってきた田山が、

田山「(遮って)お客様、どうされましたか?」

   前田、田山に向かって

前田「こいつ、いつも割引しないんだよ。どういう教育してんだ?」

   他の客達が田山、りさ、前田を囲むようにして様子を伺っている。

   りさ、後ずさりし今にも泣きそうになっている。

   田山が頭を下げつつ、

田山「大変申し訳ございません。ほら、一緒に頭を下げて」

   田山が、りさに謝罪を促す。

   りさも頭を下げる。

前田「仕事できねえんならこの女なんかクビにしてしまえ!」

   佐々木が集まった客の間から出てきて、

佐々木「お客様!」

   驚く前田。

前田「な、なんだよ」

佐々木「私共は、日々お客様に少しでも安く購入していただけるように努力をしております」

前田「なっ……あぁ」

佐々木「その努力をしている従業員に向かってその態度は何ですか!」

   前田が怯む。

田山「佐々木さん! 落ち着いて!」

   田山、佐々木に睨まれ怯む。

佐々木「割引しなかったのはいつですか?」

前田「い、いつって先週の日曜……」

佐々木「では確認しようじゃありませんか」

前田「お前、俺を信じねえのか?」

佐々木「誰がどの商品を取ってどこに置いたかまで全て確認できるカメラで一緒に確かめましょうか」

   前田、キョロキョロと天井を見る。

前田「あ、いや、駅前のスーパーと勘違いし

 たかもしれねえな……」

   前田、入口の方へ小走りで逃げていく。
  

〇同・惣菜売り場(夜)

   花火の音が遠くから聞こえる。

   客があまりいない売り場。

   売れ残った惣菜。

   敏江がノートに何かを記録している。

   バックヤードから売り場を覗くりさ。

りさ「花火いいなあ、休みにしたらよかった」

   時計を見るりさ。

   値引きシールを持ったりさが売り場へ

   出ていく。

   佐々木がりさに話しかける。

佐々木「中山さん」

りさ「はい、あ、あのさっきはすみま……」

佐々木「貸して、それ」

りさ「え?」

   佐々木、りさからシールを取って

佐々木「僕がやっておくから、屋上へ行きなさい」

   りさ、シールと佐々木の顔を交互に見て、

りさ「あ、ありがとうございます」

   りさ、厨房の中に向かって、

りさ「小島さーん! 屋上行こう!」

敏江「はーい、先に行っといてー!」

   りさ、階段を駆け上がる。

   途中で、売り場を振り返りシールを貼る佐々木の姿を見つめる。


終わり


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