(過去の連載を転記しています)2割しか支払われていない養育費を巡る問題あれこれ。未払い、差押え、減額、生活保護……。

2017.12.21 17:30 初出:wezzy(株式会社サイゾー)
 佐藤正子(@SATOMasako)です。こんにちは。

 前回は離婚後の面会交流について取り上げましたが、今回は続けて子どものために支払う養育費について取り上げます。

 子どもを扶養する義務は両親ともにあります。それは離婚後も変わりません。双方がその経済力に応じて子どもの養育費を分担することになります。そして、子を監護している親は他方の親に対して養育費の支払いを求めることができます(以下、監護している親を同居親、他方の親を別居親とします。必ずしも同居/別居しているというわけではありません)。

 後述しますが、養育費がちゃんと支払われている家庭は2割程度と非常に少ない割合になっています。養育費は子どものために支払うものですから、たとえ離婚した相手との関係が険悪であっても、親としての扶養義務を果たすべきです。

 なお、面会交流している/していないことと、養育費を支払っている/いないことには関係がありません。「養育費を支払っているから会わせる」「養育費を支払っていないから会わせなくていい」ということにはならないのです。

養育費の金額はどうやって決まる?

 養育費の金額については、裁判所から配布されている養育費算定表を見るとだいたいの基準がわかります。

 算定表に書かれている表には、右上に「子1人表(子0~14歳)」「子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」など子どもの年齢と人数が書かれています。また、すべての表は縦軸に義務者(監護していない方)、横軸に権利者(監護している親)の収入(給与か自営かで少し基準がかわります)が書かれています。縦軸と横軸が交わるところで、「0~2万(月)」「2~4万(月)」とおおよその値段がわかります。

 例えば「子1人表(子0~14歳)」で、義務者の収入が401万円で、権利者の収入が200万円の場合は、「4~6万」という具合です。あとは医療費、教育費などを考慮して、養育費の額が決まります。

 この表は2003年に発表された、やや古いものになっています。そのため日弁護士会連合会は、最新の統計などで計算し直すべき、また子どもの数だけでなく、世帯人数で考え直すべき(たとえば親が自分の両親と住んでいれば生活費は通常下がるはず)などとして、現在新しい算定表を使うように提案しています。

 もちろん、この養育費算定表の基準以上を別居親が支払うことは問題ありません。
未払いの養育費は差押えられる

 養育費について話合いができない、話がまとまらない場合、同居親は別居親に対して,家庭裁判所に調停または審判の申立てをして、養育費の支払いを求めることができます。万一、別居親が調停に来なくても審判によって決まりますし、離婚調停をした場合は一緒に養育費を決められます。

 先述の通り、現在、養育費がちゃんと支払われている家庭は、平成23年度の調査で2割程度となっています(母子家庭で19.7%、父子家庭で4.1%)。あまりに多い養育費の未支払いはこれまでも繰り返し問題となってきました。

 養育費が支払われない場合は、給料や報酬(自営業の場合は給料がありませんが、取引先からなんらかの支払いがあるはずです)などの執行ができます。ただし未払いが貯まっているからといって給料全額を差押えさえられるわけではありません。例えば給料が月66万円以下の場合、毎月の給料(基給及び諸手当。ただし通勤手当を除く)から給与所得税、住民税、社会保険料を差し引いた額の2分の1まで差押えができるようになっています。別居親が支払わないのが悪いとはいえ、いきなり給料全額が口座からなくなると、普通は生活ができなくなるからです。なお、支払いが滞れば、未払いの度に差押えの手続きをしなくても、毎月の給料から将来の分を差押えするように事前に手続きすることもできます。

 ただ、別居親の今の職場も、貯金の口座も、自営業だったので今の取引先もわからない、ということになるとお手上げになってしまいます。

 貯金の口座を差し押さえる場合、銀行の支店までわからないといけないのが原則です。弁護士から照会すれば別居親の貯金がある支店を教えてくれる銀行もありますが、その対応は銀行によりまちまちの状態です。また、裁判所から支払うように別居親に連絡してくれる制度もありますが、強制力はないため確信犯で支払わない人にはあまり意味はないことになります。

 もちろん、養育費を支払わない全ての別居親が、確信犯というわけではありません。調停などで養育費の金額が決まったときは収入があっても、そのあと事情が変わって給料がなくなる、減ることもあるでしょう。また、別居親が再婚し、新しいパートナーとの間に子どもをもうけた場合、扶養に必要な費用が増えるため、決められた支払額を支払えないこともあります。そういう別居親への救済措置もあります。支払えないことが客観的にわかる場合、別居親が養育費減額調停を起こせば、現在の収入に合った形で養育費が減額されることもあるのです。

生活保護が養育費代わりは問題だけど…

 養育費は子どものための費用ですから、たった2割しか支払われない状況というのは大問題です。ただ、離婚した相手と距離をとりたいといった理由で、養育費の支払いを要求するのを躊躇する人がいることも頷けます。当人同士の話し合いを促してもうまくいかないこともあるでしょう。

 別居親に支払い能力がないために養育費が払われないというケース以外にも、養育費の請求については、複雑なケースがいろいろあります。

 たとえば生活保護を受けている同居親で、養育費を支払わない別居親に支払いの請求をしても、受け取れる金額が生活保護と養育費でほとんど変わらないというケースが考えられます(養育費は収入としてカウントされるため、その分、受け取れる生活保護費が減ってしまいます)。その場合は、積極的に養育費を請求しない可能性もあるでしょう。

 しかしこれは、本来支払うべき養育費を支払わない別居親の代わりに、税金を使い、生活保護という名目で養育のための費用を同居親に支払っていることになります。「なぜ税金を使って養育費を賄わないといけないんだ」と考える人もいるでしょう。確かにこのことは問題と言えなくもないのですが、生活保護を利用しているくらい経済的に困窮しているわけですから、「養育費をきちんともらいなさい」といっていきなり生活保護を打ち切るのは残酷なことです。

 望ましいのは生活保護の受給者についているケースワーカーが弁護士への橋渡しをしてくれることですが、ケースワーカーも非常に多くの件数を抱えており、手を回っていないと聞きます。受給者一人ひとりに対して十分丁寧に支援できない状況なのだと思います。

 面会交流でもそうでしたが、当人たちに任せているだけで社会がうまくまわるという時代ではもうないというのが私の実感ではあります。だからこそ時代にあった制度に変えていかなければなりません。

 私が考えている制度は2つあります。

 どちらも少なくとも養育費が裁判や調停で決まっている場合に限ります。1つは、別居親に給料や報酬を支払っている人を情報開示する制度を作り、同居親が差押さえを強制執行できるようにすることです(別居親が国から所得税を源泉徴収されていれば可能でしょう)。もう1つは、国が養育費を支払わない別居親の代わりに、いったん同居親に養育費(名目のなにかを)を支払い、その後、別居親に対して強制的に差押さえをする、という制度です。

 他に様々な制度が考えられるでしょうし、賛否はわかれるかと思います。いずれにせよ、マイナンバー制度を導入したのですから、会員カードに使うかどうかなどの議論より、もっと抜本的に、法律にしたがった形で貧困問題を解決するためにも使って欲しいものです。

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