こっちからみた「アリとキリギリス」
これは昔々のお話。
「僕はバイオリンを弾くのが好きだった」
静かに降る雪の中、耳の側でエリーゼの為にが響く。
憶えている事は少ない。
でも、短くても幸せな人生だったと思っている。
一番小さな頃の記憶は、日の光を浴びた瞬間。
「なんて明るいんだ…」
兄弟は自分以外には居ない。
いや、正確には居たのかもしれない。
ただ、自分と良く似た姿に、何故か怒りとも言える感情が溢れてくる。
(だから、独りぼっちなんだな)
そう自分に言い聞かせて来た。
少しずつ自分の身体が大きくなり、色んな所へ行った。
驚くほど大きな家で初めて聴いた音楽は衝撃だった。
(…何て美しいんだ)
それからは毎日、毎日そこで音楽を聴いた。
"エリーゼの為に"
いつしか自分で弾きたいと思うようになった。
その頃、小さな友達も出来た。
いや、正確には一方的にそう思っただけだったのかもしれない。
彼は僕にいつも
「フラフラしてちゃ駄目だ。ちゃんと働くんだ」
「将来の事、家族の事を考えるんだ」
そんな事を言われても僕には分からない。
働く?
家族?
将来?
どれも、自分には初めて聞く言葉。
そんな事を考えるよりも音楽を聴くことがどれ程、自分にとって大切かを話しても彼には伝わらないみたいだった。
僕は少し悲しくなった。
でも、そんな時は、あの大きな家で拾った人形のバイオリンを弾くと少し幸せになれた。
ある日、彼が不思議な事を言った。
「もうすぐ冬だね」
冬?
冬って何?
彼に僕は一生懸命聞いてみた。
雪?が降って、凄く寒くて、食べる物が無くなってしまう…。
でも、その世界は、とても美しい。
僕は、その世界の中で聴く音楽は
とても素敵だと思ったんだ。
…そんな音楽が今、見たかった景色の中で流れてる。
「あぁ、彼に御別れが言えなかった…」
それは、とても心残りだけど
でも仕方ない事なんだよね。
彼は来年も生きている。
でも、僕は暑い夏の日から寒くなるまでしか生きれない。
だから僕は精一杯生きて楽しく暮らしたんだ。
最後に美しい世界が見れて良かった。
神さま(いるのかな?)ありがとう。
そんな風に思いながら小さなキリギリスは初雪が降り始めた夜に息を引き取ったとさ。
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