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白獄を味わいつつ対馬を思う

ひとくち飲む。すぅーと鼻まで登ってくる独特の香りに芋焼酎かと思った。が、間違いなく日本酒である。対馬で唯一の酒造会社、河内酒造の銘酒・白獄。「すっきりとした」「くせがない」、そういった表現の真逆をいく、荒削りというか野生的な風味があった。最初こそ驚いたものの、ふたくち、みくち……と飲み進むとその個性が旨さに変わる。訪れるたびに違う表情を見せる国境の島・対馬をそのまま現したかのような酒だと思った。

ブラタモリの対馬編は二週に渡り放送された

対馬を特集したNHKの紀行&教養バラエティ番組『ブラタモリ』をこの白獄を味わいながら見た。面白かった。冒頭から「移動で疲れた」と話しているタモリさんの素のリアクションには苦笑した。対馬市は長崎県で最も面積が広い。目的地は空港から近くはないと覚悟していたはずだが、延々と続く山道にお疲れだったのだろう。

島内は深い山がいくつも聳え、入り組んだリアス海岸の入江があり、それゆえに神秘的な景観を作っている。その上、韓国の釜山とわずか50kmしか離れていない国境にあるのだから、必然的に交流が求められる島になる。物語が生まれないはずかない。白村江の戦い、元寇の襲来、秀吉の朝鮮出兵、そして江戸初期には朝鮮との国交を復活させ、その後は朝鮮通信使を12回迎えた。その節々の記録が今も島のあちこちに刻まれている。

かつて幼い私と遊んでくれていた石垣

対馬には個人的にも思い入れがある。幼い頃、父の転勤で三年ほど対馬市厳原に住んでいた。その頃は対馬市ではなく、下県郡(しもあがたぐん)と呼ばれていた。当時、住んでいたアパートも『ブラタモリ』で登場した石英斑岩の石垣で囲まれていた。そこで遊んだ記憶は今でも感覚と共にくっきりと残っている。石垣の隙間に手を入れるとヒンヤリ冷たい空気があったこと。覗くと虫たちが生きずく小さな世界があったこと。

大人になって仕事で三回、訪れた。その度に全く知らない対馬と出会う。噛めば噛むほど味が出てくるスルメのような島だと思う。また、幼い頃に住んでいたアパートはまだ現存しており、遊び場だった石垣たちも今の暮らしに寄り添って街を彩っていた。

『ブラタモリ』を見た後、改めて対馬観光物産協会のWebサイトを見た。魅力的な内容が並んでいる。浅生湾でカヤック、金田城跡の登山、穴子を食べに行く……など、色々やりたいことはあるのだけれど、まずはこのお酒の名前にもなっている霊山・白獄を拝んだ方がいいかなっと考えている。

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