世界を正気な道に戻すために

被爆77年の長崎。

毎年思うのだが、長崎の式典にはいつもそこはかとない明るさを感じる。それは市長の読み上げる「長崎平和宣言」に代表される、長崎市民の平和観によるものなのかも知れない。

長崎平和宣言は1980年から現在まで、市長を委員長として学識経験者や被爆者らが参加する「平和宣言文起草委員会」によって作成されている。専門家だけでなく、市民の声が反映されているのだ。しなやかな強さと、未来を展望した言葉。読み上げる市長の誇らしさが今年も伝わってきた。

戦争は、市民の声を圧して行われる。広島長崎の声は核兵器禁止条約に繋がったが、ウクライナ〜ロシア戦争による核戦争の脅威は世界中の人々の眼前にはっきりと現れた。「核兵器によって国を守ろうという考え方の下で、核兵器に依存する国が増え、世界はますます危険になっています。持っていても使われることはないだろうというのは、幻想であり期待に過ぎません。『存在する限りは使われる』。核兵器をなくすことが、地球と人類の未来を守るための唯一の現実的な道だということを、今こそ私たちは認識しなければなりません」

今年の2月、ロシア軍がチェルノブイリ原発を占拠したというニュースを目にした時、今までに覚えのない終末観を抱いた。核兵器を使わずとも、世界は終わるかも知れないと。奇しくも今年の平和宣言の結びに、市長が福島に言及したことが印象に残った。「長崎は広島、沖縄、そして放射能の被害を受けた福島とつながり、平和を築く力になろうとする世界の人々との連帯を広げながら、『長崎を最後の被爆地に』の思いのもと、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に力を尽くし続けることをここに宣言します」。人類が核エネルギーをコントロールできないことは、その歴史が証明している。荒ぶる力を手放す勇気が必要である。

そして、核兵器不拡散条約(NPT)がまさに今ニューヨークで開かれている。先日広島の式典に姿を見せた国連事務総長グテーレス氏が長崎へ向けてのメッセージの中で「私は、現在ニューヨークで開かれているこの条約の運用検討会議に参加している締約国に対し、世界を正気な道に戻すために、この機会を捉えるよう要請します」と述べた。テロ、コロナパンデミック、ミャンマー・アフガニスタン・台湾等をめぐる紛争など、今世界は正気を失いつつある。「世界を正気な道に戻すために」、私たちにできることは何だろう。軍拡の波に飲み込まれないために、一市民として声を上げることではないだろうか。「高校生平和大使たちの合言葉『微力だけど無力じゃない』を、平和を求める私たち一人ひとりの合言葉にしていきましょう。長崎は、若い世代とも力を合わせて、“平和の文化”を育む活動に挑戦していきます」(長崎平和宣言2022)。

https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3070000/307100/p036984.html

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