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刑法175条は悪法


はじめに

成人向けの所謂エッチな画像や動画には、モザイクや白塗り、黒棒といった【修正】が加えられている。
私自身、「修正さえ無ければ…」何度そう思ったかは分からない。
しかしそもそも何故、【修正】という物があるのだろうか?

海外の成人向けのサイトや海外のそういう冊子には、モザイク等の修正は無い。
となると日本独自の理由が考えられる。
明言はされていないが、日本のアダルト界隈において修正が必要なのは【刑法175条】が存在するからだろう。

しかしこの刑法175条、私はとんでもない悪法であると考えている。廃止するか、大幅な改正が必要だ。
なぜ私がそのように考えているか、このnoteを読んで貰えれば分かるかもしれない。

刑法175条とは

まずは刑法175条について確認しよう。

(わいせつ物頒布等)
第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

一見すると他の法律の条文と、何ら変わり無いように見えるが様々な問題を孕んでいる。

刑法175条における問題点

大前提として【わいせつ】の定義がされていない

刑法175条は【わいせつ】な物を頒布した者を取り締まる法律だが、何をもってして【わいせつ】とするのだろうか?
定義がされていない以上、正しく取り締まる事は出来ない。

条文には【わいせつ】の定義がされていない。
大多数の人は【わいせつ】がどういう概念かを理解しているだろう。
しかしその概念は法的な根拠とは全くの別物だ。
事実、定義がされていない事を理由に裁判や社会的な問題となったケースがある。
それらも見ていこう。

大原化工機事件

大川原化工機株式会社が輸出した、噴霧乾燥機が兵器転用が可能と判断され、代表取締役をはじめとした3人が逮捕された事件。

詳細は省くが、大川化工機株式会社(以下、大川原社と呼称。)は国および東京都に国家賠償請求を提訴した。
争点はいくつかあるが、筆者である私が特に注目したのは【滅菌又は殺菌】の定義である。

「定置した状態で滅菌又は殺菌することが出来る噴霧乾燥機」は外為法による輸出規制の対象である。
しかし【滅菌又は殺菌】の定義が明確にされていなかった。

公安側は「空焚きをして1種類でも熱により殺菌出来るのであれば、殺菌が出来る噴霧乾燥機に該当する。」と主張した。
一方大川原社は「噴霧乾燥機を空焚きしても90度未満に満たない箇所があり、熱処理は不十分であるし、全ての菌を殺せないのであれば殺菌が出来る噴霧乾燥機に該当しない。」という旨の主張をした。

滅菌又は殺菌の定義が明確にされていない事が、この冤罪事件が発生した根本的な原因だと私は考えている。

大川原社が勝訴したが、2024年1月10日、被告の国と東京都、原告の大川原社らは双方ともに控訴している。

ちなみに国際ルールでは,sterilization(滅菌) は物理的手法・化学的手法を問わず微生物を死滅させることをいうのに対し、disinfection(消毒) は殺菌効果のある化学物質を使うものに限定されている。
そしてdisinfection と sterilization はいずれも、全ての微生物を殺滅できるものであることが必要とされている。

デスマフィンと【腐敗】の定義

所謂デスマフィン事件をご存知だろうか?
都内のイベントで販売されていたマフィンを食べた複数の客が腹痛や嘔吐の症状を訴え、厚生労働省が毒キノコやフグと同程度の健康被害がある【CLASS1】に指定した。
それを揶揄し「デスマフィン事件」とインターネット上で呼称されたのだ。

その後目黒区保健所が立ち入り検索を実施したが「食中毒の原因となる細菌」が検出されなかった事実を根拠に、処分を行わなかった。

しかし食品衛生法には「腐敗した食品を販売してはならない」と明記されている。
一般人から見れば、「あのマフィンは腐敗していたから健康被害が出た。だから腐敗したマフィンを売った者を罰せよ。」と思うのは自然な事だ。
しかし我々が想像する【腐敗】の概念は、法律の世界では根拠にならない。

確かに食品衛生法の第六条には「腐敗した食品を販売してはならない」と明記されているが、「どのような状態が腐敗か」は書かれていない。
つまり【腐敗】の定義がされていないのだ。

腐敗の定義がされていない以上、一般人が腐敗していると感じる食品であっても、腐敗を理由に罰する事は出来ない。
【腐敗】の定義がされていなかったから、マフィンの腐敗を理由に、行政は処分を行わなかったのだ。

定義がされていない時に起こる事

大川原化工機事件では【滅菌又は殺菌】の定義を巡り裁判が行われ、判決に不服な国と東京都は控訴した。
デスマフィン事件では【腐敗】の定義がされていなかったので、そもそも腐敗を理由に行政は処分を行わなかった。

法律における定義が不十分である場合、取り締まる側の行動は2択になる。
独自の解釈を用いるか、取り締まらないかである。
前者は大川原化工機事件の公安や、刑法175条の違反を理由に取り締まる警察が該当する。
後者は食品…マフィンの腐敗を理由に取り締まらなかった目黒区保健所が該当する。

ただし前者のように【法律の条文等に書かれていない独自の解釈】を根拠に取り締まるのは、間違いでもある。法的な根拠が存在しないからだ。
これは刑法175条にも当てはまる。
大川原社の件と同様、定義がされていないからだ。

【定義がされていない事】の異常さと拡大解釈

道路交通法には、所謂スピード違反に関する法律がある。

第二十二条
車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。

例えば道路Aの最高時速が60キロだった場合、取り締まる側は時速60キロを超過した者を取り締まれば良い。そして取り締まる際の根拠は、道路交通法第二十二条が根拠となる。

しかし刑法175条において【わいせつ】の定義がされていないので、逮捕したりする時に根拠が無い。これは異常な事だと私は思う。
道路交通法に当てはめれば分かりやすくなるだろう。

道路交通法の二十二条に「車両は危険な速度で進行してはならない。」と書かれていたとしよう。
この場合【危険な速度】がどうような速度なのか定義されていない。
いつも通り時速50キロで走行していたらある日突然、道路交通法二十二状に違反したとして逮捕されてしまうかもしれないのだ。

定義が不十分な状態で取り締まると、冤罪被害者を産み出す事になってしまう。
また【拡大解釈】が起きやすい。

そもそも【わいせつ】は悪なのか?

法律は常に正しい訳では無い。
完璧では無い人間が作り出した時点で、法律が完璧な訳が無い。

例えば1948年から1996年まで施工されていた【優生保護法】という法律がある。

詳細は省くが、場合によっては本人の同意無しに去勢する事が可能な法律である。

現代の日本においては「差別的」とか「非人道的」、「正しく無い」と思われる法律だろうが、ほんの28年前まで存在していたのだ。
そしておそらく、社会において【正しい】とされる事は変遷するし、法律が常に正しいという訳でも無いだろう。

そう考えると刑法175状が時代遅れ、非合理的である可能性もあるだろう。
そもそも定義されていないのに有罪となっている者がいる時点でおかしいが、仮にそれらが【わいせつ】に当てはまるとして、果たして取り締まるべき犯罪なのだろうか?
私としては廃止するか、大幅な改正…少なくとも販売等は認めるべきと考えている。見たい者が見る場合においては、犯罪とならないように改正するべきだ。

モザイク(修正)の意味

刑法175状があるとはいえ、人々の性欲が存在しない訳では無い。
原始的な欲求である性に関連するのだから、大きな需要がある。
しかし法律…拡大解釈によって根拠が無いとはいえ、逮捕される危険性がある。
現状は憲法21条で保障されている、表現の自由に抵触していると言える。

文句はさておき、性器等へのモザイク(修正)はどういう意味があるのだろう?
私が以前見たTVか動画では「性器にモザイクがかかっている。=性器が露出してるかもしれないし、していないかもしれない。=断定出来ない以上、わいせつとは言えない。=わいせつ物では無い。」という理論だそうだ。

警察のお情け、THEグレーゾーンという感じがする。
しかしこの現状は、取り締まる警察側のお気持ち次第で一気に崩壊する危険がある。

当然のことだが刑法175条には「性器にモザイクをすればわいせつ物では無くなる。」とは書かれていない。であるならば、AVの販売会社や成人向けの作品を発売、無償であっても公開している人々が逮捕される危険性が常に存在している。
私も成人向けの作品を公開、販売しているので他人事では無い。

裁判の問題点

繰り返しになるが、刑法175条には【わいせつ】の定義がされていない。
しかし現実問題として、警察は刑法175条に違反したとして何人は逮捕している。
そして少なく無い人数が有罪となっている。
これは司法が定義を重要視していない、極めて危険な状態だと言えよう。

主観に基づく【再現性が低い】裁判

裁判というのは多くの場合、判例に沿った判決や考えが採用される事が多いように見受けられる。
しかし【判例】が正しい保障は無い。特に刑法175条においては、【法律の条文に書かれていない独自の解釈】に基づく判決がされているからだ。

そして裁判官達が【わいせつ】と思う表現が【日本人の大多数が猥褻と思う表現と合致している】訳でも無い。
裁判員の思想が偏っている可能性も十分あり得るだろう。
なにより刑法175条における【わいせつ】と一般人が思う【わいせつ】は別物である。
たとえ裁判員が【わいせつ】と思ったとしても、刑法175条に「裁判員がわいせつと感じた表現がわいせつ物にあたる。」とは書かれていない以上、本来であれば判決に関係無いはずだ。しかし多くの判例を見るに【裁判員がわいせつと感じた表現等】が実質的な【わいせつ】の定義とされてしまっている。
これには再現性が無い。
2024年の日本人がわいせつと思う表現と、数十年前の日本人がわいせつと思う表現、100年後の未来の日本人がわいせつと思う表現が【完全に一致】するとは思えない。チャタレー夫人事件がその実例と言えるでしょう。

再現性の無い、時代によって有罪か無罪かが変わる判決というのは、果たして法治国家として正しいと言えるのでしょうか?
刑法175条の裁判においては、裁判員による職権濫用が横行していると言っても過言では無いだろう。

合法的な検閲に準ずるもの

刑法175条における【わいせつ】の定義は法律の条文にて書かれていない。
しかし数多くの判例は【裁判員がわいせつと思ったもの】を猥褻の定義に利用しているように思える。
これらの現状を見るに、刑法175条が今後も変わらず存在し続けた場合、合法的な検閲に準ずるものとなる事が考えられる。

例えば【与党が行った政策】への不満や反対意見を公表したり、販売等をしたとしよう。
刑法175条における【わいせつ】の定義はされていないのであれば、【与党が行った政策への不満や反対意見】もわいせつ物に含める事が可能である。
そしてそのような考えを持つ裁判員が存在しない保障はどこにも無い。

【政権への批判】が事実上のわいせつの定義に含まれた場合、恐ろしい事になるのは想像に難く無い。刑法175条は意見の封じ込めに応用できる法律なのだ。
クリエイターや表現の自由がどうのこうのという問題では無い。
民主主義を根底から揺さぶりかねない。

そして政治や法律の素人である私程度が思いつく事が、本職の人々に思いつかない訳が無い。悪用を考える、実行する者がいつ現れてもおかしくないだろう。

まとめ

刑法175条関連の問題点は以下にまとめられる。

1.わいせつの定義が条文にて明確にされていない。
2.わいせつの定義が裁判員の主観にも基づく、再現性の無い物に頼っている。
3.表現規制や意見の封じ込めに悪用される恐れがある。
4.そもそも【わいせつ】という理由で取り締まる事への疑問。
5.刑法175条違反を監視、捜索等に人員が割かれる事で、他犯罪に当てる人員が減る。

他にもあるかもしれませんが、取り敢えずこの3つにまとめられるでしょう。
なにより行政の対応がまちまちというのが解せない事です。
刑法175条はわいせつの定義がされていないが取り締まるのに対し、食品衛生法の第六条(腐敗した食品の販売を禁止する法律)は定義がされていないから取り締まらない。
どちらも【法律の条文に定義が明記されていない】にも関わらず、その対応は天と地ほどの差があります。

腐敗による行政処分が実施されていないのに、わいせつを理由とした行政処分は多々ある現状は歪といえるでしょう。
少なくとも大川原社のように、定義の問題で裁判になるくらいです。
刑法175条も同様に裁判を起こすべきでしょう。

私としてはモザイクが不要な、真に自由な表現ができる日本社会にしてもらいたい物です。日本ほど自由な表現、創作活動が可能な国はそう滅多にありません。
アニメや漫画、ゲーム等が日本を代表する産業となっている今、更に自由な表現を可能とするのは国益に利するでしょう。

刑法175条に違反していないかを調べる為に大勢の人間と金を使うよりかは、他の犯罪へ人員を回したり、福祉なんかに回した法が余程有益でしょう。

刑法175条は大幅な改正か、廃止が妥当な法律なのです。


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