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リメンバールーデンスができるまで

1.ご挨拶

このたびは「リメンバールーデンスができるまで」をご覧いただきありがとうございます。
本記事は「制作過程の追体験」をコンセプトとしています。デモ音源および歌詞、ラフイメージなどを交えた制作過程から、制作にまつわる思考や歌詞の解説まで、本楽曲を様々な角度から捉えていただけるよう、努めました。
制作の裏側を公開することは少し気恥ずかしくもありますが、「リメンバールーデンスができるまで」をお楽しみいただくとともに、楽曲「リメンバールーデンス」をより深くご理解いただけましたら幸いです。
なお、本記事の公開にあたり、ラフを含むイラストの掲載を承諾してくださったsakiyama氏に心より感謝申し上げます。

佐藤シオン

2.制作のきっかけ

遊び心を忘れるな。寄り添う心を忘れるな。
そう言いたくなるような出来事が大小問わず、身の回りに増えた気がする。時代の変化が遠因としてあるように思えるので、 誰が悪い、とは言いづらいものの…ともかくこれが制作のきっかけとなった。

PCやスマートフォンが普及するにつれて、一個人がリーチできる情報は段違いに広く深くなった。これは、他者に頼らず自力で解決できる問題が増えたことを意味する。
音楽やゲームなどの娯楽は外に持ち運んで好きな時に好きな場所で楽しめるようになった。 心のつぶやきやマイノリティーな問題など、今まで見えなかったものは見えるようになった。できなかったことができるようになり、人はますますの自由を手に入れるようになったと思う。
一方で、他者との関わり合いは少なくなった。一人で解決できることが増えたからだろう。美味しいお店探しや目的地までの道のり案内から人生のアドバイスにいたるまで、今や家族や友人に相談せずとも個人で解決できてしまう。
そんな「誰とも繋がれて、誰とも繋がれない」時代は人を呑みこんでいく。知らないうちに孤独になって、いつしか孤独は深まって、深い闇の底で誰とも関わらない暮らしを送り続ける中で、次第に思考は偏り、やがて自由とわがままを履き違えては、他者へと歪んだ正義を振りかざすようになっていく。そして、その無礼を指摘をする者は誰もいない。その他者もまた、他者との関わり方を知らないからだ。指摘をしたところで何をされるかも分かったものではない。触らぬ神に祟りなし、そんな人が増えてしまうのも当然だと思う。
上辺だけ見れば秩序だっているようだが、実態としては同調圧力だらけで不寛容、モラルとユーモアの欠落した空しい世界だ。電車内の空気は今日も窒息してしまいそうなほどに張り詰めている。果たして人は豊かになっているのだろうか。
文明が発達するほどに試されるのは人間だ。自由とわがままについて、絶えず自問自答をしなくてはならない。こんな時代を切り拓くために、遊び心や寄り添う心を今一度思い出すべきではないだろうか。
ユートピアとディストピア、これから人はどちらへと向かっていくのだろうか。

こういった考えが「リメンバールーデンス」という楽曲には根差しています。

3.制作にあたって

楽曲が表現する世界と現実の世界の間にある境界を曖昧にしたい。
楽曲が表現する世界を最も効果的に聴き手へと届ける方法というのをずっと模索していた。
楽曲が表現する世界とは、ここでは「フィクション」のことを指している。作り手と聴き手の価値観や思想が完全に一致している、ということはまずありえないからだ。そして、現実の世界とは「ノンフィクション」のことを指している。
フィクションとノンフィクションは基本的には相互作用するが、例外もあると考えている。たとえば、完全なるファンタジーをフィクションとして設定した場合、あらゆる事象が現実の世界とかけ離れてしまうがために、相互作用は中々難しいものとなる。つまり、フィクションにも「良い塩梅」というものが求められることになる。
そこで「楽曲が表現する世界と現実の世界の間にある境界を曖昧にする」ことを思いついた。これならば、フィクションから得られたものをそのまま現実の世界へと持ち込めるのではないか、と。
自分の信じる価値観や思想が、他者が生きる現実の世界に正しく作用できたならこれ以上のことはない。その実現に向けて、今回は以下のような考えのもとで「楽曲が表現する世界と現実の世界の間にある境界を曖昧にする」ことを試みた。

➊イラストレーターにMVのイラストをお願いする
イラストならばフィクションとノンフィクションを融合させやすいため。
自分にとって絵を描くことは専門外で、表現にも限界があることからイラストレーターへの依頼が妥当だと考えたため。
➋実在する場所を舞台とする
実在する場所を舞台にすることで、楽曲の表現する世界へと実際に足を運んだり、あるいは写真に収めたりといった、視覚や聴覚のみならず五感での体感ができるようになるため。
➌人間を登場させる
楽曲中の主人公が人間なので、聴き手が感情移入しやすい当事者として人間の登場が適当だと考えたため。
➍実在しない存在を登場させる
実在している人間に対して非実在を存在させることで、人間をより俯瞰的に捉えるとともに、フィクション要素を盛り込むため。
➎人間および実在しない存在に印象的なポーズをとらせる
印象的なポーズのようなものがあれば、その真似をして写真を撮ることなどもできるし、ゆくゆくライブなどをすることがあれば、パフォーマンスの一環として取り入れることができるため。
➏人間と密接な動物を登場させる
現実の世界において人間を最も近くから俯瞰している存在は動物、中でもペットだと思ったため。長年飼っているチンチラを登場させたいという気持ちがあった。マスコットキャラ的な役割も果たしてもらいたいとも思っていた。
➐イラストそのものの全体、もしくはその一部をグッズ化
MVの世界を映像や音楽ではない「モノ」として存在させることができるため 。
➑MVの世界に存在するモノ「そのもの」のグッズ化
MVの世界に存在するモノ「そのもの」をそのまま現実世界に存在させることでフィクションとノンフィクションの境界をより曖昧にすることができるため。自分の信じる価値観や思想がMVの世界を飛び出して現実の世界まで広がってほしいという思いを込めて。

4.制作の過程

4-1.序盤

➊以下のデモ音源および歌詞を依頼メールに添付し、MVイラストの制作を打診
➋依頼を承諾いただいた後、イラストイメージの共有とすり合わせ

デモ音源および歌詞1

初音ミクの調教やサンプリング音がざっくりとしていたり、Dメロがなかったり、エフェクトがかかっていなかったりなどしていて、まさに原型といった感じ。

モダンルードゥス

誰だって生来の アルトルイスト 繁栄する広大なユートピア
無心無欲 愛情と感謝のもとで 幸せを願っている
知らぬ間に変貌し やがてエゴイスト 退廃し窮屈なディストピア
私利私欲 雑念と私怨に塗れて 不幸せを願っている

遊び心を忘れたら 魔法は解けるから
生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ

さぁさ クラップクラップ まずは踊りましょ
センスアンドフィーリングと手を取り合って
惨憺な毎日は痛快な毎日へみるみる変わってゆく
そうやってシェイクシェイク身体動かせば
幸せは後からついてくるから
身振り手振りなんかどうだっていいさ ほら踊り明かそうぜ

肥大した自意識を妄想に漬け込んだ 独りよがりのメサイア
見境なく振りかざす歪んだ正義なんか 誰の救いにもならんだろう

寄り添う心を忘れたら 魔法は解けるから
白か黒かで 片付くような 世界なんて空しいだけさ

だから ステップステップ まずは踊りましょ
モラルアンドユーモアと手を取り合って
手抜きも敵対も攻撃も復讐もしている暇なんてない
そうやってシェイクシェイク身体動かせば
机上の空論なんかどっかいくから
好きと得意を持ち寄ったなら ほら踊り明かそうぜ

まずは クラップクラップ ひとり踊りましょ
センスアンドフィーリングと手を取り合って
惨憺な毎日は痛快な毎日へみるみる変わってゆく
そしてシェイクシェイク ともに踊りましょ
モラルアンドユーモアと手を取り合って
文化祭のように祭りのように 皆で踊り明かそうぜ

誰だって生来の アルトルイスト 繁栄する広大なユートピア
無心無欲 愛情と感謝のもとで 幸せを願っていた

仮タイトル「モダンルードゥス」として制作していた。エゴイストとアルトルイストの対比を軸として進むような構成になっている。使っている言葉こそ違うけど、大筋自体は完成版とあまり変わりない印象。

イラストイメージの共有
MVのイメージを伝え、すり合わせをした結果、おおよそ以下のような設定を基にラフイメージを描いていただく運びとなった。

➊楽曲のテーマ
遊び心を忘れるな。
➋楽曲に込めたメッセージ
新しい文化や文明は「遊び心」と「没頭」から生まれる。
無用ないさかいや争いは遊び心と没頭によって防ぐことができる。
日々遊び心をもって没頭しよう 。
没頭する際はモラルとユーモアをくれぐれも大切に。
➌舞台
退廃している。
現実世界において実在しており、かつ一定以上のにぎわいがある場所。
多くの人が一目見て分かる。
➍登場人物等
 人間
 男性。左利き。
 視聴者が真似したくなるようなポーズor仕草or行動をとっている。(※)
 人間ではない人型の何か
 正体不明。人の心から生み出された。
 独特なポーズor仕草or行動をとっている。(※)
 チンチラさん
 げっ歯目「チンチラ」のような生き物。悠々自適。
 マスコットキャラ的ポジション。
 ねこさん
 野良の三毛猫のような生き物。
 人間をどこか達観しているような節がある。
 同じくマスコットキャラ的なポジション。

 ※もしくは二人一組で成立するようなポーズや仕草をとっている
 ※もしくは二人でともに踊っている

4-2.中盤

➊ラフイメージ1の到着
➋ラフイメージ1を参考に楽曲をブラッシュアップ
➌ラフイメージ1の修正を依頼
➍ラフイメージ2の到着
➎ラフイメージ2を参考に楽曲をブラッシュアップ
➏ラフイメージ2の修正を依頼

ラフイメージ1

画像1

画像2

一目見て、感嘆のため息が漏れたことを覚えている。共有したMVイメージを可能な限り再現しつつも遊び心のある構図に「リメンバールーデンスという楽曲はこのイラストから生まれてきたのではないか」と勘違いしてしまうほどだった。
sakiyama氏にイラストを依頼しているという実感が湧いたのはこの頃だった。

デモ音源および歌詞2

間奏後にDメロを追加した。

リメンバールーデンス

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 銘々で享受するアンビトピア
交錯する愛憎と 足並み揃えて 未踏地を目指している
学ぶことを止めればレイムダック 抑圧が跋扈するディストピア
一つ話すがり 足を取られて 修羅へ転がり堕ちていく

遊び心を忘れたら 魔法は解けるから
生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
ワンアンドオンリーと手を取り合って
夢のまた夢すら現実にいつしか変わるものさ
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
身振り手振りはどうだっていいさ ほら遊び明かそうぜ

肥大した自意識とつるむパラノイア 独りよがりのメサイア
見境なく振りかざす正義は果たして 誰の救いになるのだろう

寄り添う心を忘れたら 魔法は解けるから
白か黒かで 片付くような 世界なんて空しいだけさ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
モラルアンドユーモアと手を取り合って
人でなしではなく人であることをお互い見つめ直して
今に 全身全霊捧ぐなら
不幸せはたちまち落ちていくから
彼奴等はいつも泥仕合ばかり あんな暇はないんだぜ

今こそ思い出すんだ かつて 遊ぶ人であったことを
心の機微汲まないで ふらり 幼稚なままどこへ行く
今こそ思い出すんだ かつて 遊びから学んだことを
言葉ひとつ交わさずに ふわり 幼稚なまま消えていく
今こそ思い出すんだ かつて 遊ぶ人であったことを
今こそ思い出すんだ 皆が 同じ遊びの中にいる

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
スクラップアンドビルドで手を取り合って
奪い合うではなく与え合うことで二人は分かち合える
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
持ちつ持たれつで たまにおどけながら 夜通し遊び明かそうぜ

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 誰彼も謳歌するユートピア
受け継がれた意思が 足並み揃える そんな日を願っている

タイトルが現在の「リメンバールーデンス」となり、 歌詞も大きく変わっている。
ラフイメージ1のメモ書きにある「銀座」「夜」の設定を太字部分に反映した。

ラフイメージ2

画像3

ラフイメージ1との違い

花と室外機
氏の代名詞と個人的に思っていたため、追加をお願いした。
チンチラさん
各チンチラさんに個性を持たせるため、右のチンチラさんは「商売の真似事をしている」設定(地べたで小さな露店を開いていて、ガレキや木材のようなそこら辺で拾ったものや、酒瓶や電話(フィンガーサインの意味にちなんで)、グッズ化するものをいっしょくたで売っている)へ、左のチンチラさんは「花を見ている」あるいは「花飾りをつけている」といった 「自然好き」な設定へと変更をお願いした。

上記リクエストが反映されていて、イラストの全体像も少し見えてきた印象。イラスト前面の描き込みが特に進んでおり、楽曲も完成に向けて仕上げていかなければ、と少し焦ったことを思い出す。

デモ音源および歌詞3

Dメロを一行削り、S.O.S音を追加し、フィルターのエフェクトをかけた。

リメンバールーデンス

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 銘々で享受するアンビトピア
交錯する愛憎と 足並み揃えて 未踏地を目指している
学ぶことを止めればレイムダック 抑圧が跋扈するディストピア
一つ話すがり 足を取られて 修羅へ転がり堕ちていく

遊び心を忘れたら 魔法は解けるから
生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
ワンアンドオンリーと手を取り合って
夢のまた夢すら現実にいつしか変わるものさ
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
身振り手振りはどうだっていいさ ほら遊び明かそうぜ

肥大した自意識とつるむパラノイア 独りよがりのメサイア
見境なく振りかざす正義は果たして 誰の救いになるのだろう

寄り添う心を忘れたら 魔法は解けるから
白か黒かで 片付くような 世界なんて空しいだけさ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
モラルアンドユーモアと手を取り合って
人でなしではなく人であることをお互い見つめ直して
今に 全身全霊捧ぐなら
不幸せはたちまち落ちていくから
彼奴等はいつも泥仕合ばかり あんな暇はないんだぜ

今こそ思い出すんだ かつて 遊ぶ人であったことを
心の機微汲まないで ふらり 幼稚なままどこへ行く
今こそ思い出すんだ かつて 遊びから学んだことを
言葉ひとつ交わさずに ふわり 幼稚なまま消えていく
今こそ思い出すんだ 皆が 同じ遊びの中にいる

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
スクラップアンドビルドで手を取り合って
奪い合うではなく与え合うことで二人は分かち合える
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
持ちつ持たれつで たまにおどけながら 夜通し遊び明かそうぜ

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 誰彼も謳歌するユートピア
受け継がれた意思が 足並み揃える そんな日を願っている

Dメロを一行削った。

4-3.終盤

ラフイメージ3

画像4

ラフイメージ2との違い

看板の文字
歌詞など楽曲に関する文字で構成されている。
屋外拡声器
S.O.Sを知らせるメタファーとして設置。
時計
丑三つ時である午前二時を指している。長針は地面に落ちている。
室外機
一部位置の変更。
拡声器
室外機の上に配置。ゆくゆくライブをすることなどがあればライブパフォーマンスとして取り入れることを想定。
右のチンチラさん
位置と向きを変更。
商品
グッズ化するTシャツを追加。

圧巻の仕上がり。sakiyama氏に依頼できた喜びも束の間、イラストのあまりの完成度に、自身の楽曲が果たしてこのイラストと釣り合うのか、不安に駆られたことを思い出す。

4-4.完成

画像5

ラフイメージ3との違い

主人公の来ている服
丈感とデザインの調整。
拡声器
向きの変更。
商品のTシャツ
色を変更。

完成を目前にしながら数箇所調整していただいた。この行為が御法度であることを知ったのは最終調整をお願いした直後であり、sakiyama氏には多大なるご迷惑をお掛けしてしまった。心より反省し、その旨お詫びさせていただいた。この過ちは今後二度と繰り返さないようにしたい。
これ以上ない仕上がりを受けて、完成と相成った。

完成音源および歌詞

※音量に注意してください
細かなフレーズを整えたのちに全体的な音量バランスを再度取り直した。

リメンバールーデンス

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 銘々で享受するアンビトピア
交錯する愛憎と 足並み揃えて 未踏地を目指している
学ぶことを止めればレイムダック 抑圧が跋扈するディストピア
一つ話すがり 足を取られて 修羅へ転がり堕ちていく

遊び心を忘れたら 魔法は解けるから
生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
ワンアンドオンリーと手を取り合って
夢のまた夢すら現実にいつしか変わるものさ
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
身振り手振りはどうだっていいさ ほら遊び明かそうぜ

肥大した自意識とつるむパラノイア 独りよがりのメサイア
見境なく振りかざす正義は果たして 誰の救いになるのだろう

寄り添う心を忘れたら 魔法は解けるから
白か黒かで 片付くような 世界なんて空しいだけさ

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
モラルアンドユーモアと手を取り合って
人でなしではなく人であることをお互い見つめ直して
今に 全身全霊捧ぐなら
不幸せはたちまち落ちていくから
彼奴等はいつも泥仕合ばかり あんな暇はないんだぜ

今こそ思い出すんだ かつて 遊ぶ人であったことを
心の機微汲まないで ふらり 幼稚なままどこへ行く
今こそ思い出すんだ かつて 遊びから学んだことを
言葉ひとつ交わさずに ふわり 幼稚なまま消えていく
今こそ思い出すんだ 皆が 同じ遊びの中にいる

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
スクラップアンドビルドで手を取り合って
奪い合うではなく与え合うことで二人は分かち合える
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
持ちつ持たれつで たまにおどけながら 夜通し遊び明かそうぜ

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 誰彼も謳歌するユートピア
受け継がれた意思が 足並み揃える そんな日を願っている

画像6

5.歌詞の解説

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 銘々で享受するアンビトピア
交錯する愛憎と 足並み揃えて 未踏地を目指している

今の若い人たちは一見するとクールだが、内側には静かなる情熱を秘めている。彼らは皆一様ではなく、それぞれがそれぞれなりにユートピアとディストピアのどちらでもないアンビトピア(=現代)を享受している。愛情や憎しみなどの様々な感情にもまれながら、誰も踏み入れたことのない未来を目指している。

学ぶことを止めればレイムダック 抑圧が跋扈するディストピア
一つ話すがり 足を取られて 修羅へ転がり堕ちていく

考えることや学ぶことを止めた人間は死に体であり、終わりの始まり。その先には抑圧によって統制される世界(=ディストピア)が待っている。いつも同じ話ばかりしているような人間は、足を取られて常に争いの絶えない修羅の世界へと転落していく。

遊び心を忘れたら 魔法は解けるから
生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ

遊び心は魔法のようなもの。魔法が解けてしまった世界はディストピア。遊び心を失って生きるということは、ただ死んでいないだけ。そんな人生は御免だ。

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
ワンアンドオンリーと手を取り合って
夢のまた夢すら現実にいつしか変わるものさ
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
身振り手振りはどうだっていいさ ほら遊び明かそうぜ

遊び心を忘れることなく、 ワンアンドオンリーを大切にしながら一人の時間を没頭して過ごすことで、夢のまた夢すらもいつかきっと現実に変わる。何もかもが目まぐるしく変化する現代においては、あまり後先を考えすぎず、今この瞬間に全身全霊を捧ぐことで幸せは結果的についてくる。考えることも大事だが、実行することがより大事だ。

肥大した自意識とつるむパラノイア 独りよがりのメサイア
見境なく振りかざす正義は果たして 誰の救いになるのだろう

偏った思想に頭の中を支配されてしまった人間が、それを正義と思い込んだまま誰彼構わず見境なく振りかざしている。その人間は、思想は、行動は、果たしていったい誰の救いになるのだろうか。

寄り添う心を忘れたら 魔法は解けるから
白か黒かで 片付くような 世界なんて空しいだけさ

寄り添う心もまた魔法のようなものであり、魔法が解けた世界はディストピア。白か黒かの二択しかない世界はきっと味気ないだろう。

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
モラルアンドユーモアと手を取り合って
人でなしではなく人であることをお互い見つめ直して
今に 全身全霊捧ぐなら
不幸せはたちまち落ちていくから
彼奴等はいつも泥仕合ばかり あんな暇はないんだぜ

ディストピアに向かわないためにも、 モラルとユーモアを大切にしながら過ごしていこう。見ず知らずの他人だからといって盲目的に突き放してはいけない。あまり後先を考えすぎず、今この瞬間に全身全霊を捧ぐことができれば不幸せもみるみる離れていく。こうした考え方に目が向かない人間たちは相変わらず足を引っ張り合っている。彼らを構う必要はない。

今こそ思い出すんだ かつて 遊ぶ人であったことを
心の機微汲まないで ふらり 幼稚なままどこへ行く
今こそ思い出すんだ かつて 遊びから学んだことを
言葉ひとつ交わさずに ふわり 幼稚なまま消えていく
今こそ思い出すんだ 皆が 同じ遊びの中にいる

子どもの頃は誰も皆、遊びから様々なことを学んだはずだ。相手のことを慮らない、そんな幼稚なままで一生を終えないでほしい。話し合いをせずに衝突ばかりの繰り返しで一生を終えないでほしい。自分以外の他者もまた、自分と同じ世界で暮らしているということを思い出してほしい。

さぁさ アン・ドゥ・トロワ をどりませう
スクラップアンドビルドで手を取り合って
奪い合うではなく与え合うことで二人は分かち合える
今に 全身全霊捧ぐなら
幸せは後からついてくるから
持ちつ持たれつで たまにおどけながら 夜通し遊び明かそうぜ

ディストピアに向かわないためにも、スクラップアンドビルドを大切にしながら過ごしていこう。奪い合いではなく、与え合うことでしか人と人は分かち合えない。あまり後先を考えすぎず、今この瞬間に全身全霊を捧ぐことで幸せは結果的についてくる。持ちつ持たれつの精神で、たまにおどけ合いながらこの先を過ごしていこう。かつての「遊ぶ人」のように。

静かなる熱帯びたティーンエイジャー 誰彼も謳歌するユートピア
受け継がれた意思が 足並み揃える そんな日を願っている

現代を生きる若い人たちが内側に秘めている情熱。その情熱が次の世代の誰彼にも受け継がれ、その結果として、誰もがユートピアを謳歌している、そんな未来を願っている。

6.余談

参考としたテーマなど

主に以下の通り。

➊遊び心
特にテーマと呼べるものではないかもしれないが、遊び心とは何なのかというところがこの楽曲の根幹となるので挙げた。
➋ホモルーデンス
「遊ぶ人」という意味を持つ。遊びは文化を生み出し、かつ生活に意味を与えるという考え方に基づいた、人間観のひとつ。遊び心について調べている中で辿り着いた。
➌ 映画『007 スペクター』
徐々に協力関係になっていくボンドとQの関係性を参考にした。
➎ダンス
四つ打ちで身体が動き出すような楽曲をつくろうと思ったので、歌詞にもダンスの要素を入れたいという思いから。「踊りましょう」や「手を取り合って」という歌詞をはじめとして参考にした。
➏バレエ
ダンスから派生して、歌詞にカウントに因んだものを盛り込みたいと思ったことから。「ワンツースリー」では安直なので「アン・ドゥ・トロワ」としたり、「パ・ド・ドゥ」という聞きなれない単語など取り入れたりという点で参考にした。
➐ゲーム『クロノトリガー』
歌詞に出てくる「生きているようで死んでいないだけの 主人公なんて御免さ」という部分はこのゲームのとあるセリフを参考にした。
➑ルネッサンス
芸術や創造の発展が文明の発展を推し進めた、そんな時代が実際にあったという点を参考にした。
➒映画『グリーンブック』
ドン・シャーリーとトニー・リップの関係性を参考にした。
➓小説『1984年』
ディストピアとなった世界がどういうものなのか、参考にした。
⓫映画『判決、ふたつの希望』
二人の口論がやがて国中を巻き込む事態へと発展してしまった、という話。争いからは何も生まれない、という点を参考にした。
⓬東をどり
MVの舞台が銀座となったので、銀座でダンスにまつわるものはないか、という発想から辿り着いた。歌詞を「踊りましょう」から「をどりませう」としたのはここから。

楽曲制作環境および使用音源

DAW
Cubase Pro 10
Vocal
初音ミク V4X
E.GuitarⅠ
Standard Guitar_V2_VSOP
E.GuitarⅡ
Standard Guitar_V2_VSOP
Bass
Trilian – Chapman Stick – Full Range
Drums
Addictive Drums 2 – AD Classic Startup
Synth
Prologue – MarsRadio
Others
Reverse Cymbal
Clap

MV制作環境

動画編集
AviUtl
イラスト編集
CLIP STUDIO

MVは「sakiyama氏の美麗なイラストを隅々まで堪能できる」ことを大前提として制作した。見せ場を意識しつつ、レイヤーの切り替えやズームなどを利用しながら、何とか納得できるものをつくりあげることができた。

歌詞に記載のない言葉
アン・ドゥ・トロワ
パ・ド・ドゥ

S.O.S音
夜の街に吹き抜ける風と響き渡る警報のような音をミックスしたイメージ。現代への警鐘という意味合いを持たせるために、モールス信号のS.O.Sのリズムで鳴らしている。

没歌詞
今回は特に推敲を重ねたため、多くの歌詞が候補に挙がっては消えていった。以下にその一部を掲載し、供養する。

反目 果し合い 錚々たる 仕掛ける 首輪 献身 修羅の果て 誰だって生来の純然たる 止める権利なんかない シャングリラ ゆめゆめ 妄執 学ぶことをやめた 謳歌する 御託じゃない 理屈じゃない 足並み揃えて 未熟 錆び付いた 不勉強 超全と戯れる 純真 戯れ 夢から醒めて スクランブル 憂さ晴らし 食らいあう テメレール 千客万来 夢うつつ 暴かれた まやかしにすがる 盲目的熱狂 共犯者になって ピエロ クラウン 惚ける 徒花 パラノイア 唆されて 一つ話にすがれば最後 ヒューマノイド 後遺症 肖る 訝る サバト 百鬼夜行 彼奴等 ニューフェイス 広大な 無心無欲 押し寄せる 知らないと嫌いは違う 残像 ノンノン ハイファイブ ナンセンス ルネサンス 安息 未踏地 諦観 カトル・サンク・スィス 文化祭 だのに 情操 ふわり 表情ひとつ変えぬまま 知らぬ存ぜぬ貫いて 口論や暴力に対立や分断に付き合う暇なんてない しょうもないいざこざ 謂れのない諍い 言いがかり 言い合い 共感は共鳴に協調は連帯に 彼奴等のように泥仕合ばかりしている暇なんてない 人でなしではなく人であることをお互いに見つめ直そうぜ 亜流は独創に空想は現実にいつしか変わるものさ 創造と共生する ワンアンドオンリー おどけて見せて センスアンドフィーリング おどけながら

MVの舞台

7.終わりに

最後までご覧いただき、ありがとうございました。この他にも知りたいことなどございましたら、satohshion@gmail.comまでお気軽にお寄せください。可能な限り、本記事に加筆いたします。

Music Video

Goods

SNS

https://twitter.com/satohshion

https://www.instagram.com/satohshion/


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