トラウマについて整理してみよう 4 「トラウマの心理療法」

近年、たくさんの専門家の不断の努力によって、新しい心理療法が次々と生まれ、日本にも導入されています。また、日本で開発された心理療法もいくつかあり、トラウマへのパワフルな効果や、より安全・安心に配慮された心理療法が実際のカウンセリングの場に導入されています。

これまでの間、つらい体験や記憶に苦しむ人達には多くの誤解がつきまとってきました。症状の出方も様々で、同じような場面に遭遇してもトラウマ症状を見せる人もいれば見せない人もいます。そのため「苦しかったとしてもそれでもなんとか生活をしているのだから、寝た子をわざわざ刺激して起こさないほうがいいのでは?」とか「話を聞くと再度つらい体験をしてまた苦しくなってしまうから、そういう記憶は触れない方がいい、スルーした方がいい」という考え。あるいは「関心を引きたいだけだ、わざとやっているんだ」などという誤解を聞くことも少なからずあります。

これらの誤解には、確かにトラウマを粗雑に扱ってはいけないという意味合いや、これまでまだ十分に安全・安心に配慮されたトラウマ介入の心理療法が発展していなかった、専門家もまだ発展途上だったということは言えます。けれども、それはトラウマは放っておいたほうがいいということではありません。やはりトラウマがあることは人生を大きく狭めてしまうので苦しいことなのです。そして現代的には何よりも心理療法にトラウマを解消する力があり、より安全に配慮された方法があることを伝えていく必要があります。「トラウマは対処することができ、回復することができる。」大切なメッセージです。

もちろん、いろいろなクライエント、いろいろなカウンセラーがいます。カウンセリングですので、主観的な体験が心身の回復に大きな力を持っていますから、この心理療法が誰にでも効くというものありません。けれども、いくつかの心理療法があることで、一つのものの効果は実感できなくとも、他のものなら効果が見られるということも多くあります。選択の可能性があることは大切です。目の動きを利用する心理療法があり、体の感覚を利用する心理療法もあります。話すことに時間を取る心理療法があり、タッピング(体のある部分を軽く刺激する)を用いる心理療法もあり、こころのエネルギーをパーツとして扱う心理療法があります。

それでも共通する点もいくつかあります。
・安全・安心感を大切にすること。
・クライエントとカウンセラーとの信頼感(作業同盟)を作りながら大切にすること。
・少しずつ進めていくこと。
・体の感覚を大切にすること。
・クライエントの理解と同意を大切にすること。
・カウンセラーのプレゼンス(そこにありありといて安全である感覚)を大事にすること。
といったことが言えます。

これからもより効果があり安全に配慮された心理療法が開発されていくことでしょう。今はトラウマは回復することができる。そのための心理療法がある。選択肢がある。そのようなことを知っていることはとても大切なことです。トラウマを受けてしまうことは選べないことですけれども、回復に向かっていくこと、心理療法を受けることは選べることでもあります。

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