トラウマについて整理してみよう 1  「トラウマとは」

さて、この間実にいろいろな内容についてのカウンセリングを行ってきたなと思います。ひとが悩みを抱えるということは変わらないことですけれども、悩み方や何を問題とするのかということについては、その時々の大きな流れのようなものがあります。例えば、この間にたくさんの人達の相談の選択肢にカウンセリングが入ってきているな、とか。クライエントの性別のかたよりがほとんどなくなってきているな、とか。夫婦やカップルで悩んだときにカウンセリングを利用する方が増えているな、とか。そんないくつかの傾向があらためて振り返ってみるとみると見えてきます。

そういった傾向の中で、「トラウマ」という問題でカウンセリングを求める人たちが増えている印象を感じます。

もちろんいろいろな悩みや精神的な問題、生活のトラブルや人生のつまづき、そういったものが、理念的に一つの問題から発生することのほうが珍しいことです。よくよく考えてみれば、そこには遺伝的、神経生理学的、身体的、精神的、心理的、性格的、性的、経験的、家族的、社会的、経済的、政治的、文化的、時代的、歴史的、空間的、時間的・・・書き始めればきりがないたくさんの要素が絡み合っています。たった一つの原因、病気や障害や問題に還元できるものでもありません。そういったこともふまえながらそのうえで、いろいろな問題や悩みの大きな要因の一つに、あるいは対処する問題として「トラウマの問題」を見ることが増えてきている実感があります。

フロイト先生の時代からトラウマは大きな問題でしたけれども、現代の私たちにとってトラウマは、もっと切実で身近な問題になってきているなと感じています。現在は様々な心理療法も開発され、実際にトラウマが回復する、良くなる、克服できるということもわかってきています。このあたりで一度トラウマについて整理して考えてみよう、そんなふうな意図でこのコラムを進めていこうと思うのでした。



トラウマとは何でしょう。
私たちには避け難く、どうしてもひどいことが起こることがあります。ひどいことの内容はさまざまです。災害や事故のようなものもあれば、家庭で起こる虐待、あるいはショックなできごとといったものもあります。外側からくるひどいこと、回数、強さ、その時の自分の位置、こころの状態、体の状態、支えてくれる人、近くにいる人の有無、その態度。そういった様々なことのバランスの上で、そのバランスを崩すできごとがトラウマでありトラウマがある状態であると言えます。なるべくシンプルに捉えられたらとは思うのですけれども、これだけでも十分複雑ですよね。

うんと昔には戦争神経症などと呼ばれて、戦争や鉄道事故、犯罪被害、そういったものがトラウマを発生させると考えられていました。けれども、私たちは現実の意味を作りあげながら生きていく生き物ですから、絶対的なひどいことや絶対的にたいしたことないことというのはなく、その人にとってひどいことというのがひどいことなんだ、意識、無意識、非意識、身体を含めて私を圧倒するできごとがこころの傷、トラウマとなってしまいます。

「マンガ版 トラウマや不安、痛みって本当に不思議でも私は大丈夫、といえる本」のトラウマの定義はシンプルで良いものです。そこでは、「対処能力を圧倒するもの」というのがトラウマの定義として使われています。いろいろな原因、きっかけであっても、その人の「対処能力を圧倒して」その結果起こる自分のつらい状態が、トラウマというのはとても理解しやすい考え方になりますよね。

災害、戦争、暴力、虐待、病気、ケガ、不安、トラブル、対人関係のストレス、過剰な競争、スポーツでの過酷な追い込み、希望の喪失、いろいろなできごとが私たちの対処能力を圧倒して超えてしまった時、トラウマ状態が起こってしまいます。それは、脳の中で、体の中で、こころで起こっています。外からは見えにくいので、なにが起こっているのか周りの人はもとより本人もはじめは気づかないことが多いようです。中には解離とかも起こすことがあるので、本人が知らないけれどもとても困った状態になってしまうということも珍しくありません。

トラウマによって原因となったできごとだけではなく、トラウマによってその後とてもつらい思いを私たちはすることになります。なんといってもひどいできごとが起こって、それが私たちの対処能力を圧倒することなのですから、文字通り対処できなくて当然のことです。そして圧倒された経験はどこかに行ってしまうわけではありません。そこから、落ち込み、不安、といった気分の変化。現実感の喪失や薄さ、痛みや不器用さ、といった体の状態の変化。他の人への不安感、怒りや感情のコントロールの難しさ、ひととの距離感や信頼感の傷つき。そのような現実的な困ったこと様々なことが起こってしまうことになるのです。

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