子どもの頃の話をするということ

カウンセリングでは子どものころのこと、特に親との関係や重要な家族とどんな体験があったのか、今の課題とつながりがありそうな、初めてのエピソードを話してもらうことが多くあります。問題は今のつらさや、目の前の職場やパートナーとの関係、家族との問題だったとしても、一見直接は関わらなそうな過去のことをカウンセラーからたずねてみることがたくさんあります。

わたしたちはカウンセリングで起こっているコミュニケーションのパターンを、実際の関係でも繰り返している傾向にあります。カウンセリングで早口でたくさん話す人は、多くの場合現実世界でも早口でたくさん話す傾向にあるでしょう。防衛的に自分のことをなるべく話さないようにしている人は、カウンセラーに対してもなかなか安心していろいろ話をすることが難しいでしょう。距離感にトラブルを抱えることが多い人は、カウンセラーとの距離感が難しいなと感じることでしょう。

親子の関係はそのような観点から眺めてみたときに、生活の最初期に作られた人間関係の基本的なパターンを示します。持って生まれたいろいろな素質とともに、家族の経験がその人の性格やコミュニケーションのパターンを作る。ことばで伝えられたこと、ことばにはされずに、「その過程の当たり前」や「雰囲気」「行動」で伝えられているもの、様々なことが親子関係を基礎に家庭で学んで身に着けていきます。

わたしたちは新たにひとやものごとと出会うときに、まっさらな白紙の状態で出会うわけではありません。優しい人には気持ちがオープンになるな、とか、温かみを感じるとなんだかいたたまれなくなるとか、知らない人にはなるべく愛想よくしていないと嫌われるのでは・・・。大きな声を出す人がいるとなんだか怖い。意識できているにしても、意識できていないにしても、有形無形のこれまでのたくさんの体験が、今の・あるいはこれからの人やものごとへの対応方法を作っています。ケーキのデコレーションのように、現在見えている形は土台の形に大きな影響を受けています。

愛着の形はどうだったんだろう。家庭では何が当たり前で、何が特別なことだったんだろう。家族を語るときの形はどんなふうになっているんだろう。今起こっている問題はもちろん大切なことです。そこに過去がどのように影響を与えているのかを知ることも、カウンセラーにとって、そしてそれはクライエント自身にとって、とても大切なことです。語られる内容、語る形、感情が含まれているとか含まれていないとか。

安心感、安全を背景に、カウンセリングで感情に触れながら傷つきの体験にあらためて向き合ってみる。それはこころを深く掘り進める作業であり、あるいは痛みや苦しみを伴うことも少なくありません。そのような作業を通して、カウンセリングでの語りが変わる時、現実の関係やコミュニケーションのしやすさ、世界の見え方が変わっていくのです。


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