今月読んだ本から(5月)


「コロナの時代の僕ら」 パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介訳 早川書房

新型コロナウィルスが最も感染を拡大したイタリア。そのなかで著者は、何を考え、どのように感じたのか。そしてコロナを生きている我々に、どのようなメッセージを伝えたいか。本書には、そのすべてが詰まっている。「感染症とは、僕らのさまざまな関係を侵す病だ」とあるように、人間のかあらゆる面を見せていく。そして考えるべきこと、忘れたくないことをシンプルな文章で綴っている。ささやかな希望の書として、後世に読み継がれることだろう。


「ヨハネ受難曲」 礒山雅 筑摩書房

「マタイ受難曲」と並び、バッハの最高傑作として名高い「ヨハネ受難曲」の誕生からその全貌を解き明かし、その曲を新たな視線で解いていく一冊。著者はバッハ研究家の第一人者で、NHK FM「古楽の楽しみ」ので案内人だった方で、残念なことに2年前に、不慮の事故で亡くなられた。遺作である本書には、バッハの音楽を探求する彼の姿があった。本書を読んだのは、コロナウイルス感染による緊急事態宣言の最中だった。ひとりでも助けたい、そんな祈りを込めて読んだのかもしれない。

「静寂から音楽が生まれる」 アンドラーシュ・シフ 岡田安樹浩訳 春秋社

ハンガリーに生まれ、世界中で活躍、とりわけ日本に親近感を持つピアニストのアンドラーシュ・シフのすべてが詰まっている一冊。前半はこれまでの人生と音楽活動についてのインタビュー、後半はレパートリーの作曲家やこれまで出会ったピアニストについて綴ったエッセイを収録。彼のピアノ演奏を聴くと、繊細で物静かな力強さを感じさせるが、本書でもそれが伺える。彼が人生や音楽のなかで培った思想、それが音楽に文章に出ているといえるだろう。本書を読み、ベートーヴェンのピアノソナタ全集を買ったくらいだ。


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