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前回紹介した巨大唐揚げラーメンのお店が先週まで2週間限定で提供していた鶏のラーメンです。鶏の醤油? 自家製鶏節? 乾麺? コンソメ仕立て? テリーヌ?って何よな話。

まずはスープ。
口当たりから、物語は一気に進行します。

調和力の高い上質の鶏油が鶏醤の味わいをふわり引き上げると、鶏油の味わいが舌を包むと同時に、鶏醤の印象的な色気がそこに添えられます。
極上の味わいです。
実際の美しさは再現できないまでも、写真を見ただけで太陽チキンの鶏油の良質さがわかります。
そしてここに香る鶏醤の個性・・・これが驚くほどに複雑な風味を凝縮しながら、驚くほどに心に馴染む味わいを演出するのです。

ちなみに鶏醤とは、魚醤のように鶏を発酵させて作り上げた醤油のようであります。
実際、私も含めてこのラーメンを通じて初めて頂いたという方が殆どかと思います。

上品ながらも底力にコシをみせる独特の色気を感じさせますが、この個性的な素材が、この作品では当然のように調和以上の共鳴を果たしています。
鶏醤を使うという創造性やアイディア以上に、この個性をしなやかにまとめ上げるセンスに驚かされました。

そして鶏油の味わいに歓喜していると、その鶏油に柔らかに調和しながら浮かび上がるのが丁寧さ極めた珠玉のスープであります。

コンソメの技法を用いたそのスープは、雑味なき透明感の中に温かみを感じさせ、コンソメらしい独特の憂いが鶏の味わいに情感を宿します。
西洋野菜の香味がすっと支えとなりつつ、そこに尖りを感じさせないじわりと深みを残す味わいからは、「面倒くさいことしてるな~」系の徹底した仕込みの丁寧さが感じ取れます。

そこにトッピングされた玉ねぎの味わいが、キリリとした表情を立ち上げ、高揚感や爽快感を誘うも、スープのもつしっとりとした舌触り、そして溶け込むような味わいはその上等さを崩すことなく、むしろそのコントラストによって一口の中に広がる表現力を壮大なものとします。

後味には鶏醤の味わいが終始メリハリのある官能的色気で舌を捉え、スープからの香る様々な風味に一体感を与えつつ、鶏というテーマの主張を確固たるものに導きます。

麺には稲庭中華そばが用いられていました。
この食材は、圧倒的に刺激的であります。
ひょっとすると次世代のラーメンシーンに大きく影響を与えるものとなるかもしれません。

その正体は、乾麺です。
そしてこの上等なる乾麺は「生めんこそ至上」という先入観を打ち砕き、ラーメンファンの既成概念の向こう側にあった新たなる美食の扉を開くようでもあります。
実際に生麺よりも高価であるというこの極上麺は、大変強い個性と魅力をもっています。
そしてその唯一無二の魅力は、ここに表現された正確丁寧なスープだからこそ、互いの存在感の高さを調和させていくようにも思えます。

麺をすすれば驚くほどに滑らかで美しい舌触りが感じられます。
麺がその輪郭に鶏醤の風味、香味を纏い、それをそのまま口まで引き上げると、スープに広がる濃厚な鶏の表情が舌にむちっと放たれます。
そして麺を噛んだ時に感じる、モチモチともプリプリとも異なる繊細にしてグンと弾むような食感がハッとする程に心地よく、その力強くも上品さや綺麗さを徹底した、体験したこともない美しいコシ感を完成させるのです。

トッピングにも拘りの限りが尽くされていました。
焼き鳥のロースト感が、スープを濁すことなく食欲を高揚させる香ばしさを奏でれば、鶏の身がそこにムチっとした食感とすっと綺麗な旨味を携えます。
揚げた鶏皮のスピード感ある香ばしさも痛快で、その美味しさを食感と味わいで訴えかけると同時に、この一杯が生み出す食の喜びを高めます。

美食然とした味わい、職人気質な内容に仕立てながらも、来たお客さんには心から楽しんでもらいたいとするこのお店ならではの美意識が、この誰からも愛され、誰もに親しみを感じさせるアレンジに集約されているように思えます。
美しい味わいで感動させると同時に、笑顔を導く作品でもあるのです!!

そして私が心底感動させられたトッピングが味玉です。
作られた方に「これは凄いですね!」と、帰り際にわざわざ報告したくなる衝動に駆られます(私如きには生意気でとてもできませんがw)。
この味玉一つにも、しっかりとした技術至上主義と、料理人としてのプライドが満ち溢れているのです。

この味玉の黄味があるべき部分には、生クリームなどと和えられたレバーが盛りつけられています。
鶏レバーにここまでの滑らかな舌触り、そして臭みを抑えながら溶け込むような柔らかで優しい味わいを導きだすこのセンス―― 料理人としての高い創作性と技術、そして幅広くそして深い経験があってこその作品だと思います。

さらにはここに裏ごしされ粉末状に仕立てられた黄身がぱらりと添えられ、鶏というテーマがさらなる主張性を高めるばかりか、色彩的な華やかさ、そして技巧の華やかさまでもが形づくられています。
完璧なるスープ、そして未体験の麺の美味しさ、そして明るく賑やかなトッピングの素晴らしさに感動され尽くしてきましたが、この味玉への一口で私の興奮は更なる領域へと導かれてしまいました。

そして味玉の興奮冷めやらぬまま、楽しみにしていたテリーヌを頂けば、やはりそこにも高い技巧が感じられ、優しさの中にすっきりとした風味を立てるその味わいが、スープと麺の気品溢れる世界観に気持ち良く馴染んでいきます。
パプリカは色彩の楽しさだけでなく、ほのかな辛味で舌の神経を引き締めながらこのテリーヌの多様な世界観を巧みにまとめます。

隅々まで配慮が行き届く演出が、完璧なまでに痛快でした。
十二分にボディー感を覚えさす鶏のスープでありますが、このような軽快な味わいを随所に添えることで、最後の最後まで食が重くならないのです。

豊富なアイディアで素材がアレンジされながらも、これをバラエティーに富んだ作品と評することは不適切に感じられます。
それほどまでに総合力の高さでその魅力を訴えかける一杯に仕上がっていたのです。

若々しいアイディアに溢れながらも最終的にその全てのアイディアが無駄なく調和し、一体感ある世界観を築く、堂に入った作品に仕上がっています。

まさに感動させる一杯と呼ぶべき作品に出会いました!!

ちなみにトッピングなしで頂いたところ、これが美味すぎ!!
あまりのスープの素晴らしさに感動しまくりでしたよ!!!!

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