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僕の人生で最も美味しかったラーメンはクリスマスにだけ提供される奇跡の一杯。

先日紹介させて頂いた、僕の人生で最も美味しかったラーメン( https://note.mu/sato_kurihu/n/nb968f23f0e10 )のレビューです。

作品の名前は「の★え☆ら★あ」といいます。
クリスマス限定のラーメンとして提供されました。

スープはビーフとオマールのコンソメのブレンド、トッピングはフォアグラのソテーとのこと。

この作品、「ラーメンなんて美味しければいいじゃないか」と考える方にとっても、間違いなく最高のラーメンであると思います。
オマールやビーフ、フォアグラをはじめとした、極めて贅沢な素材によって生まれたラーメンです。
完璧な美味しさが表現されています。
そして「お金をかければ美味しいものが作れて当たり前」という言葉を全力で否定できる作品でもあります。
これだけ贅沢な素材を使用しながらも、常にそこにはその素材力を上回る、圧倒的な料理人の実力、センスといったものが感じられます。
これを味わったあと、オマールやビーフ、フォアグラを使用すれば美味しくて当たり前などとは誰も口にできないでしょう。
これだけ美味しさに主張力がある素材を用いながら、そこに完全調和の世界を築き上げたこの作品は、安易さを微塵も感じさせない、これこそプロフェッショナルと言える一杯でありました。

私のラーメンライフにおいて、「の★え☆ら★あ」は間違いなく史上最高の一杯です。
今後、この作品よりも美味しい作品に出会えることはないのかもしれません。
少なくとも1000円未満が一般的であり、一定量を提供しなくてはならないレギュラーメニューにおいて、これを超えるラーメンを生み出せるお店が生まれることはあるのでしょうか?

私にとってこの「の★え☆ら★あ」は、そのくらい納得できる、さらには満足できるラーメンであったのです。
そしてこの名作のファーストロットを自分が味わうことができたということは、食道楽として誇りに思いますし、今後いつまでも忘れない思い出にもなりました。
店主様、素晴らしい作品をありがとうございました。

カウンターに柔らかな香りが広がるなか、まずは蓮華でゆっくりとそのスープを味わいました。
その瞬間、自分の中のラーメンの歴史が動いたような気がしました。
口当たりに牛のとろっとした旨味を感じさせながら、その甘味にオマールの甘味が調和します。
豊満にしてべたつかず、ふくよかさを上品さによって爽快に感じさせるような、透明感と深さ、しかし一方で厚みを感じさせるその味わいは、これぞ上等と言わんばかりの内容に満ち溢れていました。

中盤にはビーフの個性がいくらかの穏やかさをもって舌の上を転がるように低域への味わいをつくると、オマールの味わいはふわっと浮かび上がるようにして、その香味豊かで色彩華やかな味わいを広げます。
オマールの何とも言えない艶やかさと肉厚な風味、そして透明感ある素材に素直な味わいにしながら、その奥に感じられる野菜類の複雑さが深みを覚えさせ、張らずに染みいっていく得も言われぬコクが表現されるのです。

後味には、再びビーフの個性が舌に立ち、その貫禄と説得力ある旨味を演出。
そのビーフの味わいに、塩ダレのもつ複雑な素材感と塩気がそこに溶け込むと、濃度の高い旨味が生まれ、これがコクリと喉を打つようにしてフィニッシュを決めます。
旨味濃厚にして、終始美しさと気品を保つこのスープは、雑多な表情を一切べとつかせず、その旨みを悪戯に騒がせません。
しかしそのフィニッシュの直後、軽やかで美しいオマールやビーフ、数多くの野菜類の明るい香りがぱーっと香るように感じられ、思わず蓮華を持つ手が止まり、目を自然と閉じてしまいます。

――何という美味しさでしょうか!?

前年のクリスマス限定で提供された際には、軸となる素材はビーフ、オマール、チキンのコンソメでありました。
しかし今回はあえてビーフ、オマールのコンソメを軸にしています。
前年のバージョンではチキンの個性をしっかりと感じさせることにより、ビーフの枯れ感や重厚さがラーメンの中で煩くならないよう調和が図られていました。
これもまた大変素晴らしかったのですが、今回の作品ではビーフの個性がビーフらしく表現されながらも、それが柔らかに馴染んでいたことにさらなる驚きを覚えさせられました。

このスープには、枯れ感や重厚感、男性的といったビーフコンソメならではの表情が、実に肌馴染みよい質感で表現されています。
この作品の少し前に一ヵ月半もの期間行われたラーメンのイベントでは、ビーフコンソメ主体のラーメンを提供し、見事優勝に輝いた同店でありましたが、そういった実績もまたこの作品が生まれる背景にはあったのかもしれません。

野菜類の個性からもまた、このお店にしかない巧さ、技巧美が存分に感じ取れます。
ビーフという魅力的な要素を多分に持ちながらも気難しい素材、そしてオマールという贅沢の限りを尽くした素材が終始軸となりながらも、そこに幾多の野菜が、柔らかで複雑な表情を導きます。
野菜の個性は、ビーフやオマールといった個々の素材の魅力をしっかりと主張させながらも、その主張が刺々しくならないよう風味の輪郭に淡く、そして深い重なりを演出させ、そのことがこのスープに更なる高貴さ、上等さを導くのです。

麺も素晴らしかったです。
全粒粉の枯れ感がビーフに、小麦のもちっとした柔らかくもはっきりとした穀物の旨味がオマールの柔らかな華やかさに通じるように感じられ、オイルレスのスープでありながらも、優しくスープと絡みつつ、まるでその味わいを溶け込ますかのように共鳴していきます。
このお店の全粒粉入り細麺の美味しさは、過去に何度も語ってきましたが、このスープはその麺の魅力を存分に生かすものでありました。

そしてお待ちかねの、豪華すぎるトッピングです。
いや、ただ豪華なだけではないのです。
そこには必然でしかない、明確な存在意義があったのです。

ブランデーとともに、炎を高く舞い上げてソテーされたそのフォアグラは、表面の香ばしさ、ソースの濃厚にして落ち着きを保つ上品な味わい、そして中のとろけるような肉感のコントラストが官能的で、その素晴らしさに胸を掴まれます。
この豪華さであれば当然とも思えますが、このフォアグラのトッピングはその想像すらも超える美味しさでした。
素材の素晴らしさだけに注目すべきトッピングではありません、調理の素晴らしさが素材力に勝るとも劣らぬ素晴らしさを際立てているのです。
そんな素材の魅力を完璧に生かした調理もさることながら、さらに驚かされるのは、トッピングされたフォアグラの肉汁がスープに溢れることを生かした味変の演出です。

――この味変、ラーメン史上最高のWテイストなのではないでしょうか?

コンソメスープの深く、複雑、そして素材に素直な味わいを楽しませるためのオイルレスという大胆なアプローチから、このフォアグラの肉汁をもってオイルとスープの調和とコントラストを味あわせるこの展開は、その全ての流れがあるべきものだったとしか思えないほどに完璧です。
そしてその演出には一切の遊び心や、刺激性を狙っただけの作為は感じられません。
一つ一つの美味しさ、一つ一つの味わいの変化、その全てが想像を超える内容にして、一方ではその全てが必然のものであるように感じられてしまうのです。

フォアグラに続くトッピングも完璧です。
豚ヒレのレアチャーシューは、個性的なスパイス感を一瞬感じさせ、味覚や嗅覚をクリアにし、食への意識を開かせます。
イタリアンを頂く前に、食前酒でドライマティーニを頂いたときのようなあの感覚を、スープの最初の一口に滲ませるこの演出もまた、今までに体験したことのない配慮と巧さを覚えさせられます。
レアチャーシューの肉の旨味は素直で柔らかく、もちっとした優しさを感じさせられます。
スープを混沌とさせることはまるでなく、スープの透明感を乱さぬままに、柔らかな色調を重ねます。
さらにはトマト、マッシュルームといった素材とビーフコンソメの極めて高い次元で共鳴し、同時にフレンチでメインを頂いているかのようなゴージャスな世界感を加速させます。

本当に素晴らしい、そして圧倒的な作品でした。
コンソメというおよそラーメンには見られないアプローチでありましたが、けして独創性を主張するための作品でもなければ、トリッキーな作品でもありませんでした。
ただひたすらに美意識に忠実な、美味しさに対してひたむきな、本当に本当に完璧なる美食と呼べる一杯でありました。

オイルレスというアプローチもまた、ラーメンとしては斬新以外の何物でもなく思えますが、そこにも完全なる理由が存在していました。
オイルレスによる一切の物足りなさはありません。
むしろオイルレスのアレンジにより生まれた、オマールとビーフ、野菜類の香味の美しさに、ただただ他では得ることのできない感動を覚えさせられるばかりでありました。

この作品、私にとっての過去最高と呼べるラーメンであります。
たった一日限りの、要予約の限定メニューゆえに、この美味しさを体験した人の数は限られてしまうかもしれませんが、この一杯だけでも、ラーメンの歴史に名前を刻めると思えるほどの傑作だと思えます。

この作品に、再び出会えるのはいつのことでしょうか?
2014のクリスマス限定も楽しみで仕方がありません。

今年のクリスマスも、この場を借りてまた新たなるクリスマス限定作品を紹介できますように・・・

#Xmas2014




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