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ティグルさん、どうして子供は早く寝なくちゃいけないの?

ヴィポには納得できないことがたくさんあります。
どうして?って聞いても説明できないくせに、子供には理由を説明しなくてもいいと思っている大人たちがたくさんいるのです。
まったく大人って身勝手なものです。

ヴィポは今日もティグルさんのヘンテコな小屋でぼやいています。

ねぇ、ティグルさん。お父さんやお母さんはすぐ子供は早く寝なさいっていうけど、どうして?私がいつ寝ている起きるかは私が考えることでしょ。
どうして、あれやこれや大人に指図されなきゃいけないの。
まぁったく、そういうくせに自分たちのセーカツカンリだって出来てないんだから。

この間、賞味期限切れの食べ物がたくさん冷蔵庫から出て来て、君は生活管理がほんとに苦手だね、とお父さんがお母さんに言っていたのをヴィポはちゃっかり聞いていたのです。

ティグルさんは、ヴィポのぼやきには慣れっこなので話半分に聞き流しながら、作業を続けています。

ティグルさん、聞いてるの?
私思うんだけどね、大人って子供に指図することで、自分のユーイセーを保とうとしているんじゃないかしら?

これは、お父さんとお母さんが喧嘩している時、たいていお母さんが使う言葉です。お母さんは、お父さんに何か指摘された時、あなたはそうやって自分の優位性が保てないと嫌なのね!とムキになって言い返すのです。

子供相手にしか えばれない なんてほんっとに情けないことよ。

ティグルさんの作業というのは、拾ってきた流木で作品を作ることです。

他の人に言わせれば、ただのガラクタかも知れませんが、ティグルさんにとっては、何をどうやって組み合わせて作品を形作るかいつも真剣勝負なのです。

はーあ。よく考えればね、私生まれてきてこの方いいことなんて一つもなかったわ。お父さんやお母さんが喧嘩しないように気を遣い、お兄ちゃんのわがままに付き合って。はーー。末っ子ってね、みんなが思っているよりずっと気苦労が多いのよ。

今回のティグルさんのテーマは、「クリスマスの夜に」です。
ティグルさんにはクリスマスを祝う習慣はないのですが、大きな流木を二つ組み合わせるとクリスマスツリーによく似ていたのです。

ヴィポや、これを見てごらん。
どう見てもクリスマスツリーだろう。
この長い流木が幹に見えて、この鹿の角のような部分がモミノキの枝にそっくりじゃないか。

まぁ、そう見えなくもないわね。
私だったらクリスマスの時期にクリスマスの作品を作るなんて、ありふれたことしないけどね。

ははは。ヴィポならそう言うと思ったよ。
だけど、いいんだよ。わしはこれがいいと思ったんだから。

そうね。

ヴィポは少し微笑んで答えます。二人は相手の話を聞いていないようで、じつはとっても仲良しなのです。

それよりティグルさん、最初の質問に戻るけど、どうして大人は子供は早く寝なさいっていうのかしら。まったくこれっぽっちも理解出来ないんだから。

流木を組み立てていた手を止め、ティグルさんは優しい目でヴィポを見つめます。

ううん、そうじゃな。ヴィポは、早く寝なさいっていう大人の立場に立って考えたことはあるかい?

え?大人の立場?

まだ8歳のヴィポには、少し難しい話なのではと思うかもしれませんが、おませのヴィポには少し分からないくらいの方がきくのです。

大人はどうして子供に早く寝なさいというのじゃろ?

むむむ。ヴィポは少し考えこみます。
確かに、わたし大人に文句を言うばかりで大人の立場なんてことは考えたことがなかったわ。

うーーーん、ティグルさん、ちょっとヒントをくれない。
何か分かりそうな気がするの。

よし。そうじゃな、ヴィポにも一人だけの楽しみがあるじゃろ。

あるわ。国語辞典を終わりのページから読むとか、可愛いマンホールを探すとか、ね。

うん、では大人にはそれはないんじゃろうか?

それは、きっとあるわね。
お父さんにもお母さんにも、お隣のおばさんにも、、きっと一人でやりたいお楽しみがあるわ。
お母さんが差しかけ刺繍をしまっているのを見たことがあるもの。

そうじゃろ。大人にも一人だけのお楽しみはあるもんなんじゃ。では、お母さんはいつ、自分の好きなことをやるんじゃ??
ヴィポや家族のご飯を作って、洗濯物を取り込んで、お掃除をして、みんなの宿題を見て、お父さんの夜食を作って。お母さんは忙しいなぁ。

と、水を向けるとヴィポの目がくるくると回っています。
こういう時はヴィポの頭もクルクル回っているのです。しばらく考えると、ヴィポは何か思いついたようです。

は!そうね、家族が寝静まってからやるのね。
、、、ということは、大人にも自分の時間が必要、だから子供に早く寝なさいっていうのね。

そうかも知れんのう。
ティグルさんは皺だらけの顔で優しく微笑みます。
ヴィポのこういう頭の回転の速さが可愛くてまた可笑しいのです。

ふーーーん、何だか完全に納得したわけではないけど、
ちょっと分かった気がするわ。
ありがとう、ティグルさん。

大人も私と同じニンゲンだものね。
誰でも週に1度はかわいいマンホールを見つけないと心がすねちゃうってわけね。

それじゃ、そのへんてこな流木つくり、少しお手伝いするわ。

お、ありがとう、ヴィポや。

2人はその午後いっぱい流木を組み合わせてああでもない、こうでもないと言いながら楽しく過ごしました。
冬の午後の暖かい日差しが2人を包み込んでいました。

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