【アイドルオタクのお仕事02】推しの総柄バッグが転機をくれた

アイドルオタクは時間もお金もかかる趣味。社会人のアイドルオタクはどんな働き方をしていて、オタ活と仕事をどのように両立させているのでしょうか。
今回インタビューしたSさんは、アパレルの販売職を経てバッグの企画営業職へと転職しました。未経験の分野に飛び込むにあたって、自分のために作ったとあるバッグが役立ったそうです。シフト制・土日休みの両方を経験したSさんだからこそ感じた「オタクにとっての働きやすさ」についてもお聞きしました。

——ジャニヲタ遍歴を教えてください。
ドラマ『ごくせん2』がきっかけで赤西仁くんのファンになり、赤西くんの退所後もKAT-TUNと並行して応援していました。その後、就活で疲れていたときに伊野尾慧くん(Hey!Say!JUMP)にハマり、そのときにできたJUMP担の友人の影響でジャニーズJr.も見るようになりました。2017年にLove-Tuneの長妻怜央くんの担当になり、そこから7ORDERもずっと応援しています。ジャニーズ事務所内だとデビュー組では田中樹くん(SixTONES)、Jr.だと橋本涼くん(HiHiJets)が好きです。

——まず学生時代の話を伺いたいのですが、高校を出たあとは服飾の専門学校に通われていたんですね。
母親も服飾の仕事をしていたので、私にとって身近な仕事だったんです。「アパレルの道に進みたい、そのために専門学校に行きたい」という気持ちが中学生のときには固まっていたので、自由そうな高校を選びました。かわいいものとアイドルにしか興味がなくて、アイドルのことは趣味でずっと応援していきたかったので、仕事にするならかわいいものを作るアパレルの仕事がしたいと思ったんです。それ以外の道はあまり考えたことがありませんでした。
専門学校時代は服のデザイナーになりたいと思っていたので、服ばかりつくっていました。学生のときはなんでも自分の好きなデザインでつくれたので楽しかったですね。課題が多いので、しょっちゅう徹夜をしていました。

——卒業後、1社目ではどんな仕事をしていたんですか?
販売員をしていました。もともとは企画職志望で就活していたんですけど、「販売職から企画職にもステップアップできます」という会社がほとんどで、最初からデザイナーになれる会社は少なかったんです。その数少ない会社も受けたんですが結局うまくいかず、企画候補の販売員になりました。

——現在の会社は2社目と伺いました。現在の仕事内容について教えてください。
企画営業職として働いています。今の会社に入って、この秋で丸2年になります。いろいろなアパレルブランドの企画やMD※の方と商談をして、企画した商品をプレゼンしたり、顧客がつくりたい商品のサンプルを制作したりして、発注をいただく仕事です。量産のための工場の手配も行います。営業、企画、生産など、仕事内容は幅広くて、工場を見に行くために中国出張をすることもあります。
学校では服作りしか学んでこなかったので、日々初めてのことばかりで勉強続きです。1年くらい経って、ようやく仕事の流れがわかってきたかな。
※MD…マーチャンダイザーの略。開発から販売計画立案まで一括してブランドを管理する仕事。

——現在の会社を受けた理由は?
前職の会社では、販売職から企画職になかなか異動できなかったんです。本社の人にも相談していたんですが、この会社で企画をするのは難しいのかな、というのが見えてきて。ここで企画に異動できるタイミングを待つよりも、中途で企画職に転職したいなと思ったのがきっかけです。もうひとつの理由は、土日に休みが取りづらかったこと。デビュー組は土日の公演が多いので、「結婚式の予定が……」と言ってなんとか休みを取っていたんですけど(笑)、それも限界が来てしまって。
最初は服の企画ができる会社を探していたんですが、好きな系統の服のデザイナー職はなかなか求人がなかったんです。そんな中で転職エージェントに紹介してもらったうちの1社が今の会社です。私が普段着るようなブランドのバッグを手がけていたので身近でしたし、趣味でバッグをつくったこともあったので、とりあえず受けてみようかと思いました。
一次面接のとき、社長に「休みの日は何をしてるの?」って聞かれて「コンサートに行ったりしてます」と答えたら、社長がマッチのファンだったことが発覚したんです。「この人はジャニオタに理解がある人だな」と思ったので、二次面接のときに伊野尾慧柄のトートバッグの写真を見せてプレゼンしました。

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実際のバッグ。内側にはうちわやポスターが入るポケット付き。

——伊野尾くん柄のバッグ、インパクトがありますね! どうやって作ったんですか?
専門学校のときに、好きな柄で生地を作るワークショップがあったんです。そのときに作った伊野尾くん柄の生地を使って、JUMPのツアーにあわせてバッグをつくりました。販売などはせず、個人の趣味の範囲で使用しています。
伊野尾くんはそれまでに私が好きになったアイドルとは系統が違ったんです。私の中で、伊野尾くんに対する「好き」の種類が、「アイドルが好き」というより「かわいいものが好き」のジャンルで。かわいい服が好き、かわいいモデルが好き、というのと同じような感情だったので、とにかくかわいいバッグをつくりました。好きの種類が違うので、田中樹柄のバッグはつくりたいと思わないです(笑)。
このバッグはうちわが入る大きさになっていたり、青封筒が入るポケットやポスターが入るスペースがついていたりと機能面も工夫しているので、「私には消費者目線でものをつくる力があります」とアピールしました。このバッグがなかったら採用されなかったと思います。

——今の仕事の楽しいところ、やりがいを感じるところは?
ずっとアパレル企画の仕事がしたいと思っていたので、自分の企画が採用されるとやりがいを感じます。自分が手がけた商品を使ってくれている人を街中で見かけたり、店頭のマネキンが持っているのを見つけたりするとうれしくなりますし、この仕事に就いてよかったなと思います。私がつくった商品を現場で見つけることが今の夢ですね。

——仕事をするうえで役立ったオタクスキルや、オタクをするうえで役立った仕事のスキルはありますか?
新しくオタク向けの商品を企画したいと思っているので、それはオタクをしている私だからこそできる企画なのかなと思います。頑張って商品化させたいですね。“打倒・メ〇ンドフ〇ール”という気持ちがモチベーションになっています(笑)。今は趣味でオタク向けのバッグなどを制作してハンドメイド系のイベントなどで販売しています。今後はネットでも展開していきたいですね。
あと、打ち上げや忘年会で会社の人と一緒にカラオケに行くことがあるんです。そういうときって普通は気を使うと思うんですけど、社長はジャニーズが好きなので、タッキー&翼や修二と彰の曲を入れると機嫌がよくなるんです。オタクの私としては体に染み付いている曲なので、何も考えずに歌って踊れて、ストレスなく対応できるのは得だなと思います。楽しいかと言われると、やっぱり友達と行くカラオケの方が楽しいんですけど(笑)。

——では、仕事の大変なところは?
ブランドの方や中国の工場の方などいろいろな人と関わるのですが、人によって対応の仕方を考えなければいけないところが大変です。もともと人と関わるのがすごく好きというタイプではないので、かなり頭を使いますね。
あとは残業が多いところと、家から会社まで1時間半くらいかかるところがちょっと大変。テレビ番組はほとんどリアタイできないですね。帰りの電車の中でTwitterの実況を見て、帰ってから録画を見るような生活です。でも土日は休みなので、休日にゆっくりラジオを聴いたりDVDを見たりしています。現場にも断然行きやすくなりました。自分の仕事さえきちんとしていればいつでも有給を取っていいよ、というスタンスの会社なので、「休みがとれないから現場を諦めよう」というのはほぼゼロになりましたね。転職してよかったなと思います。

——最後に、就活中のオタクへのアドバイスがあれば教えてください。
仕事選びに関しては、デビュー組担の場合は絶対に土日休みがいいと思うんですけど、Jr.担の場合は平日にも現場があるのでシフト制でも大丈夫だと思います。最初の就活のときにその点をもうちょっと考えておけばよかったなと思いました。
私は就活中に伊野尾くんにハマったのですが、疲れたりストレスを感じたりしたときに好きなアイドルがいるとすごく支えになりました。でも、オタクだからって絶対に推しの全てを追わなければいけないというわけではないと思うんです。あくまでも自分の人生だし。あまり自分を締め付けすぎずに、自分が気持ちよく生きていくための手段として楽しむのが一番いい。例えば「疲れたときに推しを見るようにして、気持ちを切り替える」というように、アイドルとうまく向き合えるといいのかなと思います。

(取材日 2020/7/4)

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