【アイドルオタクのお仕事01】たとえ平日でも、絶対に現場を諦めない

アイドルオタクは時間もお金もかかる趣味。社会人のアイドルオタクはどんな働き方をしていて、オタ活と仕事をどのように両立させているのでしょうか。

今回インタビューしたSixTONES・田中樹くん担当のSさんは、金融関係の会社に約5年間勤務していました(現在は退職済み)。試験や勉強会が多い業界だったため、コンサートの開演3分前まで試験勉強をしていたこともあったといいます。仕事と勉強、そしてオタ活をどのように充実させていたのか、詳しく伺いました。

——仕事内容と、その会社に入った理由を聞かせてください。
信用金庫で窓口対応や営業などをしていました。人と接するのがメインですね。繁忙期を除けば残業はそれほど多くなく、たいてい18時過ぎに退社していました。遅い時間に会議が入ったり、お客さんの業務後の時間にアポイントを取ったりすることもあったので、ときには19時、20時になることも。
就活のときはこれといってやりたい仕事がなかったので、自分の好きなことができるかどうかを中心に会社を選びました。コンサートに行ったり友達と遊んだりするには土日休みがよかったですし、給与や福利厚生などの条件も重視しましたね。

——仕事で楽しかったこと、やりがいを感じたことは?
しんどいこともあったけど、職場の人間関係がよかったので、仕事終わりの食事や飲み会が楽しかったです。仕事でも、個人だけじゃなく法人のお客さんも来るので、いろいろな会社の人と関わることで自分の幅が広がりました。中にはツアーバッグで窓口に来たり、スマホケースにステッカーを貼っていたりするジャニヲタのお客さんもいて、「それってもしかして……」と話しかけることも(笑)。趣味の話で打ち解けると信用してもらえますし、単に仲良くなれるだけじゃなく、それがきっかけで契約してもらえることもありました。人とのつながりができたことが楽しかったです。チケット代の振込を娘に頼まれた方が間違えて窓口に来たときに、「あそこにあるゆうちょのATMで〜」って案内したことも何度かありますね(笑)。

——会社ではオタクを隠していましたか?
「何が好きなの?」って聞かれたら言う、くらいのスタンスです。同じ支店にジャニヲタが3人いたときは、その3人で仲が良かったですね。共通の趣味で友達が増えるのはオタクのいいところだなと思います。あと、優しい上司が「今日FNSじゃないの? 早く帰りなよ」と言ってくれたこともありました(笑)。

——オタクと仕事を両立するためには、どんな工夫をしていましたか?
オタクって雑誌にテレビに、追いかけ始めたらきりがないじゃないですか。だからオタクをするときは全力でオタクをする、仕事をするときは全力で仕事をする、という切り替えを意識していました。例えばライブDVDが届いても平日は見る時間がないから、土曜日に早起きして見ようとか。
それと仕事柄、出社したらスマホは所定の場所に預けなければいけなくて、昼休み以外は一切見れなかったんです。ツイッターや公式の情報に遅れて気づくことも多かったので、そこは割り切っていました。朝と昼と夜に見て、それ以外は見ない、とスマホを見る時間が決まっていたから切り替えがしやすかったのかもしれません。

——仕事をするうえで役立ったオタクスキルや、オタクをするうえで役立った仕事のスキルはありますか?
両方に言えるのは、コミュニケーション能力が上がったこと。窓口でお客さんと話したり接客研修を受けたりしたことで、チケットのやりとりで初めて会う人にもちゃんと対応できたと思います(笑)。さっき話したように、オタクだったからこそお客さんと話が弾むこともありましたし。あとは職業柄お金を数えるのが得意なので、現場の後の打ち上げではたびたび会計を任されていました(笑)。
それと、個人情報の取り扱いが重要な職業だったので、月に1回コンプライアンス研修があったんです。オタクをするうえでのSNSの使い方にも関わってくるので、勉強になりました。

——仕事で辛かったことは?
営業ではなかなか商品が売れないことも多いし、目標に達せないのも辛かったです。しかも金融商品を販売するためには資格を取らなければいけないので、入社してから毎月のように試験を受けていて、仕事と試験勉強を両立させるのが大変でした。一番ギリギリだったときは、コンサートの開演3分前まで試験勉強をしていたこともありました。入社1年目でまだ何もわからなくて、でもこの資格に受からないと仕事にならない……というとき、たまたま試験がNEWSのコンサートの翌日だったんです。コンサートはすごく楽しみにしていたんですけど、試験勉強がどうしても間に合わなくて、一緒に行く子に「明日行けない、本当にごめん」って連絡しました。でも、その子が「私に話しかけずに勉強しててくれていいし、NEWSコールの前まで勉強しててもいいから行こうよ」って言ってくれて。行き帰りの電車内でも勉強していたし、スタンド2列目の席で参考書を読んでました(笑)。
コンサートは本当に楽しかったので行ってよかったなって思いましたし、試験もギリギリ受かりました。そのとき、自分にとってアイドルはやっぱり必要だなって思ったんです。生きているとしんどいことや病んでしまうこともあるけど、そんなときは逆に、無理してでも現場に行くべきだなって。特に1年目のときは同期に仕事ができる人が多くて、自分と周りを比べて落ち込むことが多かったので、毎日のようにKAT-TUNの『PERFECT』を聴いていました。あれが私の応援歌です。その何年か後に自担が出演したラジオで『PERFECT』を流してくれたことがあって、そのときはうれしかったな。就活中の人にも「周りと比べてもしょうがないから、自分がいいと思った道を進んで」って言いたいです。

——Sさんは地方在住ということもあり、遠征が多いと聞きました。仕事と現場、どう両立していますか?
5日連続のリフレッシュ休暇を年に1回取らなければいけない会社だったので、土日祝の休みを挟んで休暇を取ると最大10日間くらい休めたんです。それを毎年9月に取って東京にしばらく滞在し、舞台「少年たち」に通っていました。平日にコンサートの予定が入ったら有給を取って弾丸で行きます。入社してすぐのころは休みを取りづらかったけど、仕事に慣れてくるとどんどん主張できるようになりました(笑)。
大変だったのは、勉強会が多い業界だったところ。金融関係の規定や政策が変わったり、他社で問題が起きたりするとそのつど勉強会。残業代はつくのですが、平日の業務後や土日に勉強会や試験が入る場合もあり、現場と重なることが多々ありました。例えば試験が午前中で終わるスケジュールだったら、試験会場に遠征の荷物を持って行き、終わったら一番に飛び出して駅に向かって新幹線に乗る(笑)。余裕があるときは自分で車を運転しましたが、1分1秒を争うようなときは家族に協力してもらい、試験会場まで車で迎えにきてもらったこともありましたね。
それから東京の現場では、平日や日曜日の夜公演に入るとき、新幹線の終電に間に合わなくて地元まで帰れないことがありました。でも次の日に有給を取るのはもったいないので、そういうときはもう、帰れるところまで帰る! とりあえず大阪まで帰ってビジネスホテルに泊まり、翌朝始発に乗って出社していました。荷物はコインロッカーに入れたり、車に置いておいたりして、会社ではコンサートに行ったそぶりは一切見せません(笑)。
ただ、仕事柄どうしても月末月初は忙しくて休みが取りづらかったです。舞台の千秋楽は月末の平日になることが多いので、そういうときは諦めていましたね。でも、そういうケース以外はたとえ平日でも諦めない。仕事があってもなんとかして絶対に行きます。自担が売れ始めた時期なんかは特に、「今見ておかないと後悔する!」と思っていました。

——最後に、就活中のオタクへのアドバイスはありますか?
私が会社選びでミスったのが、「土日祝休み」と書いてあってもボランティアや地域貢献活動が土日に入ることもある、というのを見落としていたこと。そのせいでどうしても現場に行けないこともあったので、仕事以外の活動についてもどんなものがあるか確認しておくといいかもしれません。年間スケジュールはだいたい毎年同じなので、例年決まった時期に現場の予定がある人は特に要チェックです。
それから、就職してもオタクを続けたい人や、私みたいにオタクをするために仕事を頑張る! という人は、会社の福利厚生や年間休日数を確認するだけではなく、有給が取りやすいかどうかを現場で働く先輩に聞いておくべきだと思います。条件を確認するのは恥ずかしいことじゃないですし、そのせいで落とされることもないので、私は説明会のときによくそういう質問をしていました。金銭面も月給はどのくらいか、ボーナスはいつどのくらい入るのか、しっかり確認しておいてほしい。オタクはお金がかかるし、気持ちだけじゃやっていけないこともありますから。

(取材日 2020/6/18)

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