推しエッセイ 誰かが買う100枚

自担のうちわを10枚買うのは簡単だったけど、1枚しか買わないのはなかなか勇気が必要だった。10枚買いたければお金を出せばいい。でも1枚となると、本当に1枚でいいんだろうかとか、売れ残ったりしないだろうかとか、結構いろんなことを考える。でも、今の私に必要なうちわは1枚で、それ以上でも以下でもない。デビューツアーのグッズ売り場で財布を開きながらそんなことを考えた。面倒くさいおたくだ。
千秋楽の終演後に少人数で売り場をループしていたときみたいに、「私が買わなきゃ誰が買うんだ!」と思うことはもうない。私が買わなかったぶんのフォトセは、そのフォトセを求めているどこかの誰かの手にちゃんと渡る。その中には彼の写真を初めて手にする人もいるかもしれない。むしろ売り切れで買えない人が出ないように買い控えたほうがいいかな、という発想にすらなる今の状況が新鮮で落ち着かなくて、意外とうれしかった。人気が出るってこういうことだ。そして私は、人気が出ることをずっとずっと願っていた。早く遠くに行ってほしいと思っていた。そうは言っても実際に遠くなってしまったら少しは寂しくなるのかなとも予想していたけど、全然寂しくなんてない。街を歩けば看板があるし、CDショップに行けば大々的に売り場が設けられているし、テレビをつければ毎日のように姿を見ることができる。ずっと夢見ていた景色が現実になっている。
今の私に必要なCDも1枚で、それ以上でも以下でもない。フラゲ日に各1枚ずつを購入して、あとは状況を見てオリコン集計最終日に買い足そうかと思っていたけど、途中経過として発表された数字は予想よりはるかに大きかった。そのうえどの店舗でも品薄で、すっからかんになっている売り場を見るとうれしくてしょうがなくて、結局店頭に残っていた盤だけもう1枚ずつ買った。発売初週が終わって「大変だった」とか「こんな売り方はもうやめてくれ」とかいう声も聞こえるけど、私はちっとも大変じゃなかったし、どんな売り方だろうがデビューは最高だなと改めて思っている。だって、今までのほうがずっと不安でずっと大変だった。おおげさかもしれないけど、彼らを応援し始めてから今までの間で、こんなに安心して楽しく過ごせる1週間はなかったかもしれない。彼らはもうすっかり人気者で、売上枚数はミリオンを突破し、きっとどこかの誰かが今日もCDを配っている。かつての私が写真を配っていたのと同じように。
私が買わなくても誰かが買う。それは放棄でも遠慮でもなくて信頼だと思う。信頼できるファンがたくさん、あのころの何十倍、何百倍といる。私が買ったかもしれない100枚は、100人が買う1枚になった。そのほうがずっといい。
私のもうひとつの夢は、彼らの単独コンサートを東京ドームの天井席から見下ろすことだ。デビューおめでとう。応援してきて本当によかった。これからも引き続き、1枚分だけ応援させてください。

おいしいものを食べます