『咲 -Saki-阿知賀編 episode of side-A』観てきました

 ということで、去年の夏からドハマリしたやつの実写映画版。本編の実写版の方は映画館で観れずたいへん悔しい思いをした(DVDは買ったけどやはり映画館で浴びられるというのは意味があるのです)ので、今度は公開初日に観に行きました。ついでに、あとでもう一度観に行きました。

 結論から行きますと、公開中にあと一度か二度観に行きたいです。

 入れ込みかたについては下記記事を参照のこと。

 漫画の実写映画、というと、僕は好きでよく見に行くわけだけれども、これがなかなか難しいところのあるジャンルである。

 第一に、 デフォルメされたキャラを立体化する困難 がある。現実に寄せた作画の青年誌連載劇画であっても、ほとんどの場合でどこかにおいて「実体化したら不自然になるような無理」が絡む。

 第ニに、 普通は尺が足りない 。読み切りとか短編の実写化というならまだしも、原作が単行本数巻にも及ぶような連載漫画を短くて90分、長くても120分ばかりのなかにカットして詰め込むとなったらこれは難行というレベルではない(要するにこれは実写の弱点というわけじゃないんだけど、映画にするときにどうやったってつきまとう)。

 この点、本作はものすごく上手くやっている部類だと思う。ファンの贔屓目もあるかもしれないが、デフォルメを含んだキャラクター像をを立体に起こすにあたって、まず「ハマり役を連れてくる」のと「原作の描写をそのまま可能な限り引き起こす」のを混ぜ込んで、それを徹底している。少なくとも演者各人に徹底的に原作と、先行したアニメ版をえらい勢いで読み込むように指示したと公言している。これは、本編の仕上がり具合を見る限り、どうもやや正気を疑うレベルで真実に見える。何しろ演者から飛び出す、あきらかに 単行本化されていない範囲の連載を追っているとしか思えない発言の数々。演技に耳を澄ませてみれば、アニメ版の やや癖のある演技を本歌取りしたろう声色
 何がここまで駆り立てるのかという熱中が浮き上がってくる。

 で、これは超能力麻雀漫画(この際はいい切ってしまう)であり、それを実写化したらものすごいエフェクトがガンガン画面に発生することになるが、それにしたってこれは漫画だろうって描写を、そのまま特撮でぶち込んでくる。画面では女子高生雀士たちによる ナイトヘッドばりの未来予知 が炸裂し、自摸で巻き起こった旋風が会場を揺るがし物理肉体に対してもガンガン影響が発生する。面白いだろうという話ではない。何しろ女子高生雀士たちにとっては原作でも実写版でもシリアスに向き合わざるを得ない現実だし、撮っている方も明らかに真顔なのだ。どうだここまでやってやったぞ という坐った目が画面の向こうに見えるようである。もちろん満足だ。しない手はない。

 で、いまひとつの汎用ボトルネックであるシナリオ面なのだが、とにかく 僕にとっては非常に満足の行くもの だった。

 というのも、『咲』という作品は、ややもするとテーマが先行して走りすぎるきらいがあるくらいに太い骨子が走っているシリーズである。細部だけ見ると何言ってるんだかわからなくなることがあるほどで、一気に読み通してころんだ身からすると「これ十年も連載してるの!? この描写とこの描写の間何年開いてたの!?」という驚きがごろごろ出てくる代物である。

 阿知賀編も、当然その一環であり、当然ながら本編のグランドテーマから分離すると、それだけではどうもわかりにくい場面も出てくる。

 それを、 本編にはなく阿知賀編にだけある要素 を屋台骨に据えることで、見事に編集し直してあるのである。

 青春、である。

 いや、本編が青春ものであるということでなく、阿知賀編にだけは、「青春を青春として認識し、それを失ったことを後悔している」登場人物たちがいて、彼女ら(あるいは"彼女"ひとりだけ)の物語としてのカラーを打ち出しているのだ。

 何を隠そう僕が入れあげている 赤土晴絵監督小鍛治健夜永世七冠
 いや、ファンの偏った視点というところばかりじゃなくて、この二人の物語として完結するようになっている。もとはといえば「本編の決勝で当たるチームの解説」として始まり、本編決勝直前で(準決勝の勝利で)終わる阿知賀編は、そこだけ見ると非常にキリの悪い所で終わってしまう作品とも言える。

 それを、「十年前の準決勝での勝者と敗者」をひとつの軸に、「準決勝の先に行くこと」を 最後の二人のやり取りに象徴される(観てください)テーマとして折り畳むことで、現在の大会をたたかい、そこで明暗を味わうことになった女子高生たちの物語とかぶせて、綺麗に回収してくれているのだ。

 原作漫画は尺が長く、当然「現在の選手たち」にフォーカスがいくことも多いので、これだけをメインプロットと認識するのは少し難しいところがあった。それを、思い切り強調して描くことで「これが阿知賀編の物語なんだ」と打ち出してきている。

 僕はそっち側の語彙をあまり持ち合わせないので、演者のみなさんに対する心底からの美辞麗句を並べ立てることはできませんが、ともかく観ている最中に 顔がいい という言葉が反響し続けていましたよ。本当に、いろいろな意味で満足の行く作品でした。全国編も観てみたいですが、どうなんでしょうね。

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