クイズにしづらい小噺#1 「コブサラダ」

クイズ界隈は相互扶助的精神の元成立している、という主張に首肯する人は多いのではなかろうか。すなわち、クイズにおいては「出題者」と「解答者」が必要とされるが、クイズプレーヤーは「出題者」と「解答者」のポジションを適宜交代することで需給バランスを保っている、ということである。

故に、多くのクイズプレーヤーは同時に作問を担当することになる。作問理論についてはここでは語らないが、(おふざけクイズを除いて)原則的には解答の一意性を担保し、誤答への誘導を極力避けるという基本方針で作成されている。当然、さちうすも作問経験があるのだが、悲しいかな実力不足により全く成文化できないものが存在する。そこで、今後、このシリーズにおいて「クイズに出したいけど、うまく成文化できなかったもの」を題材にまとめていこうと考えた。これにより知識を習得し、クイズではなく雑学として消化できるようになるだろうし、もしかしたらこれを読んだ誰かが成文化して世に問うてくれるかもしれない。※もしかすると既に成文化され、ベタ問になっているのかもしれない。
あわよくば、それを自分が先んじて正解できるかもしれない。そんな我欲の元、雑学を世に出していきたい。そしてそうするための条件として、「なるべく出典を明確に」を心がけたい。と言っても検索できるのは日本語と英語の文献くらいなのだが。

今回扱うのは『コブサラダ』である。
wikipediaによると、「レタス、アボカド、トマト、鶏または七面鳥の胸肉、固ゆで卵、かりっと焼いたベーコン、ブルーチーズ、フレンチドレッシングまたはヴィネグレットソースなどで構成されるサラダ。」とある。

具材についてはある程度何を入れても良いのだが、基本構成の具材は一般に下記のような語呂合わせ(acronym)で表される。

"EAT COBB"(COBBを食べよう)
E: Egg(卵)
A: Avocado(アボカド)
T: Tomato(トマト)
C: Chicken(チキン)
O: Onion(玉ねぎ)
B: Bacon(ベーコン)
B: Blue cheeze(ブルーチーズ)

このレシピの名前の由来はこれを考案したシェフの名前、ということになっているが、由来について英語版wikipediaでは諸説あるようで、

①1929年、Robert Kreis(ハリウッドのBrown Derbyというチェーンレストランの料理長)が考案し、オーナーのRobert Howard Cobbの名前を冠した。
②1937年、Cobbが上記のレシピでサラダを作った。
③1938年、Cobbが上記のレシピでサラダを作った。
④1938年、Cobbの部下のPaul J. Postiが上記のレシピでサラダを作った。
⑤(年代不明)Brown Derbyのオーナー、Bob CobbがSidney Graumanのために考案した。

などが書かれている。⑤にいたっては謎の人物「Bob Cobb」が登場している。空腹に耐えかねたCobbが冷蔵庫の残り食材から手軽に作ったという説が最も有名だが、どうみても手軽に作れるレシピでは無いような気がする。神絵師の「落書き」と同じ雰囲気がする。
⑤の説ではこれをGraumanに出して「この味が いいねと君が 言ったから 採用しよう コブサラダ」的なストーリーが知られているが、英語版wikipediaではこれに加えて「Graumanの歯が悪かったので野菜をざっくり刻んだ」と言う記述がある。残念ながら日本語のGraumanに出していいねされた記述の中にはそのようなことは書かれていなかった。

ちなみに個人的にこの問題の成文化しづらいポイントは「具材が意外と多く、説明が難しい」である。レストランのオーナー説とシェフ説が混在しているのも地味に問いづらい。うまく落とし込めない自分の実力の無さが歯がゆいばかりである。

今回は「コブサラダ」を扱った。ありあわせの食材で作った、という伝承の割にとても美味しく、またバリエーションも多いので皆様も一度作ってみてはいかがだろうか。
また、クイズプレーヤー諸氏はもしよければ作問にトライしていただければと思う。いつの日か、その問題と巡り会えますように。

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