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|DICKENS|頽廃とダンディ

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ディケンズの小説を「頽廃」「ダンディ」「ジェントルマン」「ブロマンス」という切り口で標本・陳列する小部屋。
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#ディケンズ

DICKENS|ディケンズ最後の小説に香る世紀末的頽廃とアヘン

TextMegumi Kumagai  十九世紀の文人たちを魅了した頽廃の香り漂うリキュール、アブサン。 同じ十九世紀に、イギリスで多くの文人たちが耽溺したものがアヘンだった。  現在とは違い、当時のイギリスではアヘンは禁じられた麻薬ではなく庶民も手軽に入手できる万能の医療薬だった。主に鎮痛剤や睡眠剤として日常的に人々に用いられていたアヘンは、 しかし深刻な中毒をもたらすものであり、服用によって中毒死することも珍しくなかった。  アヘン中毒の体験を『阿片常用者の告白』(1

DICKENS|ユージーン・レイバーン 世紀末を予感させる「ディケンズのダンディ」

Text| Megumi Kumagai 「倦怠に心を動かされやすいという点では」この立派な人物は答えた。「僕が人類の中で最も首尾一貫した人間であると保証するよ」 チャールズ・ディケンズ|著 熊谷めぐみ|訳 『互いの友』より(以下同)  ユージーン・レイバーンは、小説『互いの友』に登場する人物である。  『互いの友』は1864年から65年にかけて月刊分冊形式で出版された作品で、ディケンズ最後の完成長編小説となった。  テムズ川に浮かんだ死体の発見から始まるミステリー要