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|DICKENS|ゴシックの景観

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ディケンズの小説をゴシック的切り口で標本・陳列する小部屋。主に、人々が暮らし、行き交う「屋敷」「廃墟」「隠れ家」「庭園」などを取り上げます。
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DICKENS|墓地の誘惑 ディケンズが惹かれた「嫌悪の魅力」

Text| Megumi Kumagai  ディケンズほどロンドンの墓地を愛した作家もめずらしい。  ロンドン旧市内にいくつもお気に入りの墓地を持っていたディケンズは、その抗えない魅力を作品に書き残している。  1860年代に掲載されたエッセイやスケッチをまとめた『無商旅人』は、商用目的ではなく「非商用」の旅人である語り手(ディケンズであってディケンズではない)が旅をしてそこで見聞きしたものを綴るという構成になっている。ディケンズのペルソナである語り手の旅人が扱うのは「フ

DICKENS|サティス荘 時が刻んだ幻想

Text Megumi Kumagai 十五分もしないうちにミス・ハヴィシャムの屋敷に着いた、それは古い煉瓦造りの陰鬱な屋敷で、たくさんの鉄格子があった。 チャールズ・ディケンズ|著 熊谷めぐみ|訳 『大いなる遺産』より(以下同)  サティス荘は、『大いなる遺産』に登場する屋敷である。 ケント州ロチェスターに今もある、Restoration House|レストレーション・ハウスが屋敷のモデルとされている。 入ってみると、そこは蝋燭の明かりで照らされた、とても大きな部屋