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経済を編み直す vol.2/ギフトが回るBar

​大人のすなbar/高橋鉄平さん

資本主義ど真ん中からのスタート

僕は新卒で貿易物流コンサルティングのTTCという会社に入社しました。そこでお金を稼ぐこと、利益を上げること全てやった感覚があります。資本主義ど真ん中の人生でしたね。
その会社で評価され、14年前に社長として経営のバトンを引き継ぎ、経営するようになりました。
自分の当時のマネジメントスタイルを今から考えたら、ワンマン上司だったな(笑)仕事ができる人だけを重宝して、売り上げだ利益だとみんなを焚き付けて。ありがたいことに売り上げはどんどん右肩上がりに伸びていきました。むしろ結果が出ていた手前、そのスタイルをやめられなかったのだと思います。

自分が正直どう思われていたのか、怖い部分もありましたよ。ただ当時はおそらく普通の会社よりもかなりの金額のボーナスを全従業員に払っていました。なのでみんなにたくさんお金を払って我慢してもらっていた、というところもあったかもしれません。

それがある時業績が横ばいになり、徐々に下降し始め、ボーナスを大幅に下げなければならなくなってしまいました。その時は誰に何を言われたわけではないのですが、だんだん白い目で見られているような感覚になっていきました。離職も目立っていきました。

そこでもう、どうすればいいかわからなくなり、会社を飛び出して学び漁るようになりました。外の世界にはこんな優秀な人たちがいるんだ、と実感して楽しくなって色んなコミュニティに出向くようになりました。

「幸せ」と「仕事」はつながっている!

その中に「TTPS勉強会」がありました。そこに出会うまでは、「幸せ」と「仕事」がつながっているなんて思っていなかったのですが、働く社員の幸せを本気で考え実践している人たちがいたことに心を動かされました。

そこで現在eumoの共同代表のたけちゃん、武井浩三さんとも出会いました。彼は当時ティール組織が取り沙汰される前から、ダイヤモンドメディアという会社でホラクラシー、自律分散型の経営に取り組んでいて、とても影響を受けました。

学びを深めるうちに、みんなが自分ごとで考えられる組織、自分は権限を手放した自律分散型組織づくりを意識して会社で実践していったんです。すると、みるみるTTCの売り上げは回復していきました(その後も順調で今年はありがたいことに過去最高益でした)。

それまでは会社=自分といったアイデンティティだったのが、そのうち余裕がでてきたんでしょうね。それまで何となく思っていたバーをやりたいという夢がむくむくと顔を出してきたんです。

きっかけは自分が通っていた学びの場の一つに「エッセンシャル・マネジメント・スクール」(以下EMS)というところがあり、そこの講師の宮本亞門さんの「他人の人生ではなく、自分の人生を生きなさい」という言葉からでした。そうだ、一度限りの人生、味わい尽くしたい!と思って、自分にしかできないことは何か模索した結果、出てきたアイデアが会員制のバー、「大人のすなbar」だったんです。

これは裏話ですが、すなbarが今間借りさせてさせてもらっている「花蝶」の社長(友人)に相談したら「活用できてないシャンパンバーがあるから使わないか?」と声をかけてもらったんです。しかも銀座なので通常だとかなりの賃料を払わなければならないと思うのですが、破格の値段で貸すよと言ってくれて。ビジネスの始まりの場所探しで、それが友人のギフトから始まった、というのは何とも縁を感じますね。さらに後日談で宮本亞門さんに花蝶の場所を借りて始める話を報告したら、「それは僕がデザインを手掛けたんだよ!日本にシャンパンバーという文化を持ってきたんだ。」とお話しされて驚きました。ご縁はつながるものですね。

自分が一番楽しめる場、一番幸せを感じられる場をつくろう

すなbarのコンセプトを考える頃には、eumoなどのコミュニティを見てきて、「自分が一番楽しめる場を作ることがみんなも楽しめることにつながる」「自分が幸せだったらみんなが幸せなんだ」と思うようになっていました。
すなbarには二つコンセプトがあって。一つは「楽しいは正義」。二つ目は「ありがとうの循環」。これを実現するためにむやみに人を勧誘するのではなく、完全会員制のバーにしたんです。TTCで売り上げを伸ばすノウハウは体得していましたが、すなbarではとにかくみんなの安心・安全な場をつくりたかったんです。なので、巷でも隠れ家的なバーはあるかと思いますが、インターネットに一切載らない、「本当の隠れ家」にしました。閉店間際にはメインの入り口が閉まっているので、裏口から帰る体験などみんな面白がってくれました。こんなビジネスモデルはうまくいかないだろうと思われていたかもしれませんが、開店する旨をEMSの仲間に声を掛けると1週間で100人ぐらいが手を挙げてくれて、本当に嬉しかったです。僕も楽しんで飲んでしまうので、誰が何をどれだけ飲んだかカウントしていられない(笑)常連のお客さんには自己申告制にしてもらっています。そんなわけで、僕の名刺には「どんぶりマスター」という肩書きがついています(笑)(そのほかにも「ぶっ飛びママ」が肩書のカナさんなど面白いメンバーが運営にいます。)

すなbarに集う「仲間」たち

「いい匂い」がする場所

マーケティングを真正面から学んだことはないですが、人が集まってくるためには「いい匂い」をさせることが大事だと思っています。僕が心から楽しんでいると楽しそうな匂いにつられて周りの人も寄ってくる、またそこから楽しそうな匂いがするとまた誰かが興味を持って近づいてきてくれる。逆に開いた当初から、「いい匂い」がしなくなったら閉めようと心に決めていました。すなbarの会員は今370人になりました。会員は年会費11,000円で1日マスター・ママの権利と、ビジターを何人でも連れてくることができる権利がもらえます。元々高い設定にもしていませんが、会員数が伸び悩んでも安くするつもりはありません。減りが止まらなくなったら、キッパリとやめると思います。僕が言わなくても、一緒に運営をやってくれているメンバーが「鉄平さん、かっこ悪いからやめましょう」と言ってくれるんじゃないかな。

いい匂いが続いている場所は、新しい人がどんどん入れ替わり立ち替わり入ってくる場所だと思います。すなbarもいつも仲の良いメンバーだけでなく、どんどん外に開いていく「越境」がキーワードです。最初はEMSのメンバーが多かったですが、今はeumo関係の人たちがにぎやかしてくれています。この12月に開催されている手放す経営ラボラトリー、ヒューマンポテンシャルラボ、eumoなど多くの自律分散型コミュニティが企画した「越境忘年会」は最たるもの。このように、内輪で盛り上がるんではなく、常に外に開いていい匂いを出し続ける、そんな場になればいいなと思っています。

若い世代の笑顔に秘密がある

 すなbarをいい匂いにさせている一つは「すなバトン」という取り組みだと思います。世代も固定化していくとつまらないので、若者にもどんどん来てほしい。若い人が関わっているかが場の魅力を左右すると思います。すなバトンは、会員さんが10000円から購入できる、ペイフォワード制のチケットです。1ドリンクごとの連なりになっていて、チケット購入者の顔写真があって、来店した25歳以下の若者(会員限定)がそのチケットをもぎってお酒が飲めるんです。「●●さん、ありがとうございます!」と言いながら若者がお酒を飲んで、後で会員のグループでそのお礼を伝える仕組みです。

 この活動を思いついた背景に実は岐阜県にある「つきの家」という駄菓子屋さんの活動があるんです。(https://japanese-cheap-sweets-shop-222.business.site/)ここは何と焼肉屋の大将だった方が始められたのですが、コロナ禍で子どもたちが運動会も修学旅行にも行けないことに心を痛め、心から笑顔になるときはどういう時だろう?と考えた時、駄菓子屋に至ったらしいんです。協賛金を地域の大人から募り、子どもは一人1日200円まで駄菓子が無料で食べられます。この話を聞いた時、すぐに岩崎さんというその駄菓子屋の社長に連絡して「僕も同じ仕組みを銀座のバーで導入させて欲しい」と伝えたところ、快く受け入れてくれました。導入してしばらくして、仲間と一緒に岩崎さんに会いにいきました。すごく気さくで温かい青年で、当時の思いや葛藤を話してくれました。子どもたちにとって、普段はいい子にしようと頑張っている中で食べる駄菓子。しかもそれが誰かがくれたものだ、と感じながら食べる駄菓子は本当に嬉しいでしょうね。それで駄菓子をくれた人にお礼の手紙を書くんですよ。何気ないことですが協賛した大人たちも、それをもらったら嬉しいですよね。今では協賛金が追いつかないほどの子どもたちが押し寄せていて、大人気。若い世代が集まってくる場はエネルギーがありますよね。

若い世代を巻き込んだギフトが社会を少しずつ変えていく

 すなバトンの取り組みの他、インターンも受け入れているのですが、ありがたいことにたくさん応募があって今大学生15名が働いています。働いているといっても、すなバトンのチケットで飲みながらお酒を提供してくれているだけなんですけどね(笑)実は若い人たちも面白い大人と出会いたいし、話したいんですね。彼らが皿洗いしながら、最初は大人の話をずっと聞いているんですが、そのうち大人が若者の話を聴くようになって、気がついたら大人の方が元気になって帰っていくんです。僕は何人もそういう人たちを見てきました。
 
 今国の借金が膨れ上がっているという話をよく聞きますが、僕ら世代はなんとか生き抜けるけど、彼らが社会人、高齢者になる頃はどうなっているかわからない。富の偏在がなくならない中で、僕らの役割はどんどん若い世代に富も知恵も引き渡していくことだと思っています。こういった大人たちが集まる場を開いている人間として、僕にはそれを伝えていく使命があるように感じているんです。
 
 このすなbarでもギフト活動をしようと、北海道の無肥料無農薬栽培をしている佐々木ファームというところがあるのですが、そこの野菜をインターンの子たちの働いた分の一部としてその子たちの親に送っています。それは親御さん方に本当に喜んでもらっているようで。子どもが働いた分で、野菜が届いたらそれは、子どもが何か社会にいいことをしているんだな、ととても嬉しく感じるんでしょうね。

つながりと分かち合いだけで生きていける

今は売り上げの大体半分がeumoですが、100%にすることを目標にしています。アプリ入れるぐらいなんでもないですからね!この場からもっと共感資本社会のカルチャーが広がっていけばいいと思っています。先ほども越境大忘年会の話で、「越境」をキーワードとして話しましたが、そんな風に開かれた場として人と人がどんどんつながっていく。そしてお互いの喜びや強み、いろんなものを分かち合って、助け合って生きていく。究極のところ、僕は人は「つながり」と「分かち合い」だけで生きていけると思うんです。この考え方に変わったのは、これまで出会ってきた仲間、特にたけちゃんの存在は大きいです。お金をいくら持っていても、友達が多い方が幸せなんだって、みんなが教えてくれました。それに若者の考え方もどう考えてもギフトや社会貢献にシフトしている。時代は変わりつつあるんです。

実は、最近痛みをもって、自分の生き方を振り切ることに背中を押すような出来事がありました。僕がすなbarが楽しすぎてTTCに心あらずな様子を見て、役員からこれから会社に対してどういう立場で関わろうと思っているのか話してほしい、と切り出されたことがあったんです。自分が生きたい世界にシフトしてきていることも実感しつつ、その時会社=自分というアイデンティティを手放すのが怖く、会社でフルに期待に応えられない自分を責めてしまったんです。あらゆる期待に応えられる「かっこいい自分」でなければだめだ、と思い込んでいたんですね。でも直近、手放す経営ラボラトリーが運営している由左美加子さんのセッション「今日斬り」に出演して、由左さんにバッサリと切られまして(笑)(その動画はコチラ:https://youtu.be/CKtx89g_t1c)過去の自分、社長である自分を手放して、今自分が信じる世界に真正面から向き合っていくフェーズに入っているんだと思います。

共感資本社会って知らない人からすると怪しく聞こえることもあるんですよね。腐るお金?どういうこと?という。実際に使ってみないと、体験してみないとわからないことばかりです。でも僕はeumoの先にある世界を信じて行動すれば、富の偏在のない、みんなが幸せな社会をつくっていけるのではないかと思っています。

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