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【法改正後】15歳殺人罪逆送事件三例

2020年8月に福岡市の大型商業施設にて発生した女性が15歳の少年に刺殺されるというショッキングな事件は記憶に新しいが、2001年に法改正があり逆送致可能な年齢がそれまでの16歳以上から14歳以上に引き下げられた。
この福岡の事件は殺人罪で15歳が逆送されて裁判になるのは3例目となるそうだ【RKBオンライン22.7.8より】
今回は3例を簡単にまとめることにした。

福岡商業施設女性刺殺事件

2020年8月28日午後7時半頃、福岡市中央区の商業施設内において「刃物を持った男がいる」「倒れてる女性がいる」と110番が相次いであった。
複数箇所刺し傷があった21歳女性は市内の病院に搬送されたが死亡が確認された。
刃物を持った男を取り押さえたのは施設の警備員で中央署に身柄を引き渡し男は銃刀法違反の疑いで逮捕された。
逮捕された男は15歳の少年で性的な目的で被害者女性の後をつけ、自首を促されて逆上し施設1F女子トイレで首など複数回刺し殺害、その後に通りかかった子供を人質にしようとその母親も刃物で脅していた。犯行に使用した包丁は同施設内で盗んだものだった。
2022年7月25日福岡地裁の裁判員裁判で10年以上15年以下の不定期刑が言い渡された(求刑通り)
少年の生い立ちは小学3年生の頃から他の児童や教師に暴力をふるうようになり、小学5年生で精神科病院への入院、児童自立支援施設などへの入所を繰り返したがそこでの粗暴な行為などで第一種、第三種少年院にも入院し事件の二日前に退院したばかりだった。母親が身元引受を拒んだため更生保護施設に入ったがそこから脱走し事件を起こした。
母親からの家庭内暴力や育児放棄などが人格を形成したことも認められたが、「保護処分とするのは社会的に許容し難い。刑務所内で社会のルールや人間関係を構築し事件や被害者に向き合う事で更生することは不可能ではない」と被害者の処罰感情や社会的な影響力などが反映された形だが、被害者参加制度を利用し審理に参加した被害者の父親は肩を落とし「成人ならもっと重かった…これが限界なんだよ娘に言うしかない…」
2001年の法改正後に犯行時16歳未満の少年が殺人罪で実刑となるのは二例目だった。双方控訴せず確定
2023年3月被害者遺族側が「事件の直前に仮退院させた少年院が受け入れ先に十分な情報共有をしていなかったために起きた事件」と国を相手に訴訟を起こした【産経ニュース】
【読売西部22.7.26】【読売西部20.8.29朝夕】

板橋両親殺害事件

「親を殺してやりたい」
少年は中学時代にクラスでの何気ない会話で唐突に脈略もなくこうつぶやき友人をびっくりさせる事もあった。休み時間に自殺本や過激な内容の本を好んで読んでいたという。R15指定された人気の映画が好きだった。中学校での評価は服装の乱れなどもなく粗暴な一面も見られず『真面目な生徒』という評価だった。
2005年6月20日板橋区の建設会社の寮でガス爆発があり管理人夫婦が死亡しているのが発見された。
刺傷や殴打された跡がある状況から他殺と断定され捜査が開始され、2日後に逮捕されたのが都立高校1年生(15)で管理人夫婦の息子だった。
事件後に「温泉に行きたい」と電車で軽井沢に行き一泊し「テレビで見た」という草津の温泉旅館にチェックイン。
年齢も名前も偽ったが住所は板橋区と記載。不審に思った旅館従業員からの通報で駆けつけた警察官によってあっさりと身柄を確保された。
名前を確認した際も「僕です」と素直に認めて旅館では敬語で礼儀正しい印象だったという。
リュックにはゲーム機や犯行に使われた包丁、現金3万円が入っていた。
「父がバカにしたので殺してやろうと思った」「母は仕事がハードでいつ見てもかわいそうで死にたいと言っていたので殺した」と供述した。
父親を鉄アレイで撲殺、母親は包丁で刺殺しその後に室内をガス爆発させるという少年とは思えない派手な事件であった。
2006年12月1日東京地裁で少年に懲役14年(求刑は懲役15年)の実刑判決が言い渡された。
2001年の法改正後に殺人罪で16歳未満に実刑判決は初のケースとなった。
裁判長「犯行は計画的で冷酷かつ残忍。社会に与えた影響は大きい。いまだに被告の内省は深まっておらず、自己の犯した行為の重大性を認識させ責任を自覚させるために刑罰を与える事が必要」
弁護人の「実刑になっちゃったね…」に「……でしたね…」と淡々とした様子だった。
2007年12月17日に東京高裁で判決公判が開かれ懲役12年に軽減する判決が言い渡された。
父親が口答えする被告のゲーム機を壊したり「お前はバカだ」と罵倒した件は一審では「虐待はなかった。少年の身勝手」との見解だったが高裁では「少年の誇りに傷をつけた。虐待や不適切な教育にあたるという見方も出来る。」と弁護側の主張が一部認められる形となった。
被告の少年は事件後から日記を書いている。
「あの狂気は己のくだらないプライドで起きてしまった。自分が憎い」「罪と罰に押しつぶされるのではなく自分の人生に組み込んで生きていくべきと思っている」などが記されていたが多くを語らなかった少年が一審判決の3ヶ月前に記したことが印象深い
「夢に母親が出てきて優しくしてくれた…」
【読売05.6.22夕】【読売05.6.23】【読売06.12.2】
【読売07.12.18】

横浜戸塚母祖母殺害事件

冒頭で記した通り、2001年以降15歳が殺人罪で逆送され裁判になったケースは記事を書いている2024年3月の時点では3例あるが、結論から言うと3つ目のケースは家裁送致となった。
前2例と何が違うのか?裁判所がどのような判断をしたのかを簡単にまとめる。
2015年5月18日午後0時50分頃、戸塚署管轄の交番に「自宅で家族を殺した」と少年が出頭してきた。
戸塚区内の高校1年生(15)の自宅に署員が駆けつけると女性が二人倒れていて刺し傷が10箇所くらいあり死亡が確認された。
亡くなったのはこの少年の母(50)と祖母(81)だったが、少年が「生活態度や勉強の事を注意され腹が立ち台所の包丁で刺した」などと話をしカバンの中にある犯行に使用した包丁を署員に見せため同日夜にこの少年を逮捕。
学校の制服で犯行に及び、私服に着替えてから「大変なことをしてしまったと思った」と自ら出頭してきた。
少年は中学時代は柔道部の主将をつとめ本を読むのが好き、妹が一人いて父親は単身赴任中だった。
どこにでもいそうな少年が何故このような罪を犯してしまったのか…
2016年6月23日横浜地裁
「話すものが存在しない」「興味がない」「特別な感情はない」「動機もわからない」と少年が証言した事から検察側は「くわしい動機が解明されない限り突発的な衝動が再び他者に向く可能性がある」と10年以上15年以下の不定期刑を求刑したが、決定は家庭裁判所に移送となった。
決定理由
精神鑑定では思考、感情、行動様式全てが未成熟、未発達で自分の感情を理解していない。他者とコミュニケーションを取るのが困難。生来的な要素、情緒的な関わりの少ない家庭環境が影響を与えたと考えられる
計画性がなく突発的
③家族間の事件で祖母のきょうだいは厳罰を望んでいるが、少年の父や妹は厳罰を望んでいない
過去に非行歴や保護処分歴がない
などから全ての責任を少年一人に負わせる事が正しいとはいえない。一人では自らの罪に向き合えない。当公判廷では時折各本件犯行に関連して感情を高ぶらせる様子を見せたことから可塑性があると認められる。
少年院で少年の特性に配慮した適切な援助によって改善更生は可能と精神鑑定の結果が採用された決定だった。
決定時の読売新聞によると『一般市民である裁判員の意見を取り入れた前例のない決定』とある。
【読売15.5.19~20】【読売16.6.24】
【判例時報2342号118項】
※尚、改正前にも犯行時15歳の少年事件を当サイトでいくつか紹介しているが処分決定時の年齢が16歳のために逆送致されたことを付け加えておく。












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