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似非科学と戦う(グルコサミンの例)

先日書いた酵素に関する記事は、思ったより多くの方に読んでいただいたようだ。その中で「酵素ジュースは詐欺だからやめましょう」的なことを書いたが、今回は他の題材とともに、「似非(えせ)科学」について掘り下げてみたい。

グルコサミンも詐欺

同類の、ヒアルロン酸やコンドロイチン(ここでは、まとめてグルコサミン類とする)も同じく詐欺。
まずは、「グルコサミン類がひざの関節痛などを軽減、治療する効果があるとは言えない」とする根拠と考察を述べている、信用できそうなリンクを見ていきたい。

生物学的見地から

このサイトは医療法人が運営している。つまり、医学、生物学のプロとしての見解と見て良いだろう。重要な部分を抜粋してみる。

コンドロイチンもヒアルロン酸も、酸性ムコ多糖という高分子化合物であるため、口から摂取してもそのままの形では体内に吸収されません
どちらも、アミラーゼという分解酵素によって切断され、糖が2つつながっただけの低分子物質となり、小腸粘膜の上皮細胞に取り込まれます。そして、小腸上皮細胞の中でさらに別の分解酵素によって単糖にまで分解され吸収されるのです。
つまり、コンドロイチンを飲んでもそれが軟骨へ移行してくれる訳ではなく、ヒアルロン酸を飲んでも、それが皮膚や関節へ移行してくれる訳ではないのです。

つまり、僕の書いた「酵素ジュースの酵素は、バラバラのアミノ酸になって吸収されるから意味がない」という話とほぼ同じ構造。「単糖」とは、糖質が最も小さく分割された形で、いちばん有名なのはグルコース(ブドウ糖)だろう。吸収される時に単糖であるなら、ゴハンやケーキを食べても同じということになる。

実験方法の妥当性と統計学的見地から

この記事を書いたのは、東大名誉教授の唐木氏。

多くの臨床試験の結果が総合的に検証され、2010年に「グルコサミンは効かない」という結論が出された
・・・
「患者全体を見ると効果がないことは認めるが、一部の患者には効果があるのではないか」という反論が出て、これに答えるための研究結果が2017年に発表された。
・・・
提供された合計1663人のデータについて、グルコサミンの効果を統計学的に検証した結果、グルコサミンを3カ月あるいは24カ月飲み続けた患者に対する効果はプラセボと変わらず、グルコサミンは効かないことが再び証明された。また、年齢・性別・肥満度・膝と腰の痛み・痛みの程度・動きの程度・炎症の有無などで患者を分けたが、どのグループにも全く効果はなかった。つまりグルコサミンはどんな患者にも効果がないことが証明された。

この記事では、生物学的根拠はひとまず置いても、「グルコサミンは効果がある」ことを示した根拠が、そもそも最初から不適切な実験とデータに基づくものであった、としている。

実は治療薬の効果を調べることはとても難しい。そこで「二重盲検プラセボ対照無作為化試験」という複雑な方法を使う。

この舌を噛みそうな試験方法について、真剣に知りたい方は上記サイトを見ていただくとして、重要なのは、「効果がある」と科学的に主張するためには、適切な実験方法、統計処理が必須である、ということだ。グルコサミン類の実験は、企業の利益に沿う形で、恣意的なデータ処理をしたものである、と言えそうだ。

メーカーサイトは何を主張しているか

グルコサミン商品のメーカーも、比較対象として見てみたい。

そもそもグルコサミンとは、カニの甲羅やエビの殻などに含まれている成分のこと。そのほか、動物の軟骨や皮膚にも含まれています。このグルコサミンは私たちの体にとっても、なくてはならない大事なもの。「いつまでもイキイキとアクティブに過ごしたい!」「安心して、元気な毎日を送りたい!」という方には、不可欠な成分なのです。

どうだろうか・・・感情に訴える以外、全く根拠がない、と思うのだが。
(1)カニの甲羅にグルコサミンが含まれること、(2)人間の体にグルコサミンが必要であること、この2つは事実。
だが、「(3)アクティブに過ごしたい人には不可欠」という結論の根拠に全くなっていない。さらによく見ると、2では、人間の体内でグルコサミンが合成されて健康維持に役立っている、と解釈できるが、3では明らかに、外部から摂取することを想定している。

似非科学と対峙するにあたって

これほどまでに「効果なし」を証明されても、グルコサミン類は売れ続けると思う(売上はいくらか落ちるだろうが)。実際、「グルコサミン」でググってみると、ヒットするのは大半がメーカーや通販のサイトであり、効果を科学的に検証したデータや文章は、すぐには出てこない。
なぜ人々はそんなに騙され続けるのか。僕が思うのは、「似非科学を似非科学と見抜くのは科学の仕事だが、似非科学に騙されないために必要なのは、心理学的解釈である」ということ。

つまり、かなり多くの人々が、騙されることに抵抗がないのだ。誰でも、大金を騙し取られたり、友人関係を破壊されたりするような詐欺には、嫌悪感があるだろうし、騙されてはならないと思っているはずだ。だが、酵素とかグルコサミンとかは、ちょっと余分にオカネがかかるだけ、少なくとも健康に悪いとは言えない、それで効果があればラッキー、という、被害の小さな詐欺である。周囲には、グルコサミンの愛用者がたくさんいて、その話題で盛り上がったりする。多くの場合、グルコサミンを飲むには小銭が必要なだけだが、グルコサミンを否定するためには、根拠、裏付け、勇気と覚悟(愛用者を敵に回す可能性が高い)が必要だ。これは非常にめんどくさい。

ゆるやかに騙される絆

個人よりも集団主義的傾向の強い日本のような国では、「いいじゃないか、実害はたいしたことないんだから、空気に合わせれば」ということだろう。

最も大切なのは、絶対に騙されないという意思

これだけだと思う。科学的分析力とか、メディアリテラシーの前に、意思である。「楽しく過ごせるなら、ちょっとくらい騙されたっていいや」という心理、「真実よりも空気が大事だよね」という事なかれ主義が、似非科学の食い物ではないだろうか。

最後に、似非科学の最悪事例のひとつを紹介しておきたい。20世紀初頭のアメリカで、「健康によい」として爆発的に売れたという「リバイゲーター」(飲料水タンク)の話。

調査の結果、タンクの内側を覆うウラン鉱石から、ヒ素や鉛といった毒性物質が驚くほど大量に飲み水の中に放出されていたことが判明した。ヒ素も発癌性があり、鉛は神経系や泌尿器系、生殖器系に対して深刻な被害をもたらす物質である。

みんな、とは言わない、何人かでもいいから、「騙されない意思」を持つ人が増えたらいいな、と思う。

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