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北欧 #アイスランド 旅行記(9日目)〜スナイフェルネス半島〜

いよいよ旅も終盤に差し掛かってきた。

自然の脅威は留まる事を知らない。元旦まで出ていた爆弾低気圧による警報が、朝起きた時点で何とか解除されたが、道路状況を見ると、まだまだ危険な運転リスクがあるようだった。

しかし、そのリスクを犯してでも、この日予定されていたスケジュールを遂行したい事があった。

アイスランドと言えば、アイダーダック(ケワタガモ属のカモ)の羽毛(ダウン)布団も世界的に超高級羽毛ふとんの原料として愛好家に人気を博している。

私たちが興味を持ったのが、その製造過程とそれを守ってきた先住民の方たちだ。対立を犯してばかりいる人間が、自然界と共存共栄するためのヒントが、地元の農家でもあるネイティブの方たちに直接お会いする事で、私たちの今後の生き方の糧になるのではないかと考えた。

アイダーダウン農家の方がいらしたのは、スナイフェルネス半島の北部。パワースポットとして有名なキルキュフェトル山 から車で30分位の所。アイダーダウンについて学べる小さな教育研究所も併設されていた。

辿り着くのは容易ではなかった。国から出されていたステータスは、Difficult to drive。封鎖される一歩手前の状況だ。爆弾低気圧の警報は解除されたとは言え、その影響はまだ色濃く残っていた。

1時間も予定に遅れたのにも関わらず、施設の代表であるエルラさんが、私たちを優しく出迎えてくれて、アイダーダウンについて、映像と共にレクチャーしてくれた。

アイダーは、北極海近郊の海上に生息する野鳥で、毎年5~6月の繁殖期になると、アイスランド北部の湾に戻って来る。繁殖時には、ホルモン分泌の影響で、メス鳥の腹部のダウンが抜け落ち、抜け落ちたダウンを敷き詰めて巣を作ることで、強い風の侵入を防ぎ、親鳥の体温を直接「卵」に伝える形で25日間の抱卵を行う。

メス鳥はこの期間中、殆どの時間を卵の上で過ごすが、キツネやイタチ、カモメといった天敵に襲われることもしばしばで、そんな天敵から、アイダーを守っているのが、地元の農家の人達で、場合によっては24時間見張りに立つこともある。

無事ヒナの巣立ちが終わる頃、巣の周りに残っているダウンを農家の人達が採取して利用するという、まさにアイダーと人間の間の共生・互恵関係が千年以上も続いており、アイダーも人間が天敵から守ってくれることを理解しているだけでなく、農家の方を信頼しているというから驚きである。

アイダーは特別保護対象の野鳥である為、一般的なグースやダックの羽毛の様に、鳥の身体から直接羽毛を採取する事は禁止されて居り、繁殖時に巣に敷き詰められたものを後で採取する方法が唯一。

不純物を取り除く工程にとてつもない労力と時間がかかり、また長年口伝で伝わってきた技術は、地元の農家にしかできないと言われている。

1キロの羽毛を採取するのに、80個程度の巣が必要で、その希少性から高額な値段がつけられている。

そのダウンは、先端が鍵状になっている為、ダウン同士が良く絡みあい、大きな空気層が形成されることで、他に類をみない保温性が得られる。

両手で抱えるほどのダウンを手の平に載せて貰った際、重さは全く感じないまま、ただ手の平が温かくなって来た。

最も驚いた事が、この高価な羽毛布団を、地元の部落で、赤ちゃんが生まれた際には、誕生の儀式をする際に、農家の方達がその家族に贈る風習があるとの事。

儀式で贈られるとの事、アイダー羽毛が持つ霊的な意味をエルラさんに尋ねると、2、3秒間があり、「温もりを保つ」と意味深けにシンプルな回答だったが、きっとそこは先住民ならではの感性があるのだろう。

私たちの手技の世界でも、手の気を養うため、鳥の卵を手の中に収め、孵化するまで生活を共にするという修行がある。

「温もり」をどのように定義表現するか、言語化がとても難しいが、ここまでの施術家経験を通して、ひとつは慈悲慈愛の力と言い切って良いだろう。

アイダーダウンは、まぎれなく慈悲慈愛、人間との共存を願う相思相愛の象徴だと確信した。

管理の仕方を間違えなければ、親子三世代まで使えるという。

恐る恐る値段を聞いてみた。

シングルベッド用の羽毛布団が1キロ近く入っていて税抜で約50万位。日本で200万円で流通されている事を考えると、破格の値段だ。

私たちの健康そして、自然やネイティブを保護できる投資と置き換えて考えてみる事にした。

迷わずその場で2枚オーダーした。ひとつは、私たちのドームハウス(リトリート施設)で利用するゲスト用。もうひとつは、三月に迎える妻への結婚20周年用のプレゼント。

毛布は、婚約指輪の値段にも及ばないが、これまで20年間支えてくれた妻への日頃の感謝を表すのに足りない事はないだろう。そして、この毛布が、娘、そして孫へと引き継がれるとすれば、これは決して高い投資ではないと即決した。

先住民が霊山として崇めているキルキュフェトル山に立ち寄った。爆弾低気圧で辺りが真っ白で視界がほとんどなかったが、到着して子ども達が「ヤッホー」と呼びかけると、一瞬顔を出してくれた。

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