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「Quiet corner2」を片手に

「Quiet corner2」が発売されました。

「Quiet corner」を手にしたのは何年前だったか、そのきっかけが
何だったのか(lampの染谷さんと山本勇樹さんが友人にある、
ということをどこかの記事で見たのがきっかけだったような
気もしますが)、正確には思い出すことはできませんが、しかし、
この本は僕にとってとても大切な本になりました。

NICK DRAKEなどもともと大好きだった作品がありつつも、
この本で紹介されている殆どの作品を僕は聞いたことがなく、
紹介文を読みながら気になる音源をYouTubeでチェックし、
良かったものをディスクユニオンのオンラインで購入する
という日々が続きました(この本に出会っていなかったら、
僕はジョルジョ・トゥマを知ることなく、死んでいったでしょう)。
そこには、僕が知らなった宝物みたいな音楽が、
本当にたくさんありました。

Quiet cornerに紹介されている音楽は、自分の魂の正しい場所を
教えてくれたり、もしくはそこまで連れて行ってくれるような
音楽であると思います。とてもフラットであり、あまりヒロイックに
なりすぎずに自分の等身大が投影される、鏡にも近い音楽でもあります。

「Quiet Corner」から「Quiet Corner2」の間で、僕には劇的な変化が
訪れていました。AMAZON MUSICというサブスクリプションサービスを
利用し始めていたことです。

「Quiet Corner2」を読み、気になる作品に付箋を貼りながら、
纏めてAMAZON MUSICで検索をかけていくと、何とほぼ100%
音源があるという状況でした。恐るべしAMAZON MUSIC。
勿論年会費を払ってサービスを利用しているので、「タダ」という
わけではないのですが、それでもどこかで「こんなに素晴らしい音楽を
タダで聞いていいのだろうか」と不安になってしまいました。

ということで、僕は「Quiet Corner2」というプレイリストを作り、
気になった作品をそこに入れ、デジタルオーディオプレイヤーで
ダウンロードして今聞いています。

サブスクリプションサービスによって、何でも聞ける状況になったことで、逆に自分が何を聞きたいのかわからない、という方が多いのではないでしょうか。僕はそうです。自分で音楽を探すのがめんどくさくて、ついつい
適当なプレイリストを流してしまいます。

その様な方に対し、少しでも良い音楽にたどり着ける近道が作れたならば、と思い「Quiet Corner2」の力を借りて、いくつかの作品を
紹介してきたいと思います。

総じて、美味しい水みたいな音楽。

(この曲は「此の街のおいしい水」)

聴きながら思ったこと、思い浮かんだ情景を書いてみました。

faye webster/jonny

自分の音楽遍歴のなかで、ソフィーセルマーニの1stが大きく影響を及ぼしていることに最近気が付きました。高校1年生のときに、そのアルバムを買って聞いたことで、アコースティックな音楽を楽しめるベースが作られたような気がします。この曲もどことなく、ソフィーセルマーニっぽい。

アンニュイで気だるくて、失われる恋に縋るような音色が印象的なホーン。小品の恋愛映画を見たような感覚。こういう音楽は、曇った雨の日に、起き上がれない布団の中で聞くのが予め決められた情景として脳裏に浮かんできます。

Kate Bollinger/a couple things

イントロがなった瞬間から、「これは好きなやつだ!」って直感する音楽。まるで自分のために書かれたのではないかと勝手に思い込んでしまう音楽。雑食の自分にとってのアコースティックの「調度よさ」っていうのは結構見つけにくい。

Natalie evans/Better at night

これも聞いた瞬間に、「これは好きなやつだ!」ってわかる音楽。空気が美味しくなるというか、目に見えるように空気が澄んでいくことが分かる。この音楽のような朝を迎えるために、自分は毎晩寝につくのではないか、と思う。でも少し雰囲気が強すぎるので、飽きてしまう気もするけど。

The boats/Information For Employers

歳を重ねると、耳を澄ますことが難しくなる。耳を澄ますことは、そこで聞こえている音楽に自分を対峙させることで、それを通じてむしろそこに流れている音楽ではなく、自分を観ることだと思う。音楽に身を任せることは簡単だけど、音楽を通じて自分と対峙することはなかなかできにくくなる。それは恐らく、とても贅沢で疲れることだからだと思う。この音楽に耳を澄ましていると、音楽よりもむしろ自分の存在に意識が集まっていく。

Gaussian curve/dancing rain

最も幸せな時間とは何か。それは、何か、が始まる予感に包まれ続けていることなのではないかとこの音楽を聴いていて直感する。

Frank domingez/mi Corazon lloro

フィーリンというキューバの音楽について詳しくはありませんが、VAのCDを聞く限り、その雰囲気は何ともシネマティックで、マジカル。ここまで映画的に、自分に浸れる音楽というのはなかなかないのではないかと思います。このフランクドミンゲスというアーティストのことは初めて知りましたが、やっぱり、フィーリンって最高!と声に出して口ずさみたくなる。

Bruno major/wouldn’t mean a thing

なんでこんな素晴らしい音楽を自分はもっと早く出会っていなかったのだろう、と少し後悔しました。このアーティストの音楽をどの様に形容すればよいのか、ボン・イヴェールよりも個人的で、ソウル色が強いというか、よりスロウなトムミッシュような貧困な言葉しか思い浮かびません。目を瞑ってこのアーティストの音楽を聴いていると、自分の正しい位置に魂が還っていく情景が瞼の裏に浮かんできます。

Rachael&vilray/without a thought for my heart

この音楽を聴いていると、quiet cornerで見つける音楽の要素が詰まっている気がします。そのキーワードになるのは、「calm down」と「気怠さ」なのかな、とふと思いました。「気怠さ」とは何なのか、それはあまり言語化されていない気がします。「気怠さ」とは、意志しない、ニュートラルな、中動態みたいな状態だとすれば、「気怠い」とは魂の置き場としてとても優れた状態なのではないか、とふと思いました。

Jennah barry/roller disco

40歳ともなると、自分の人生において、過剰にドラマティックなことは起きないし、かといって日常を過剰に演出することもないのだとやっとわかってきました。起きていることを肯定すること、そしてできる限り楽しもうとすること。何より、何も大したことが起きないってことも十分ドラマティックになりえること。そんなことをこの音楽を聴きながら考えていました。

Caoimhin o raghallaigh/zona rosa

弦楽器は僕にとっては格調高く、誇り高い気がして、なかなか近付けません。勝手に分かり合えない気がしています。だけど、こういう音楽をきっかけに聞き始めたいなと思いました。

Thomas bartlet/rubrifolia


この音楽を聴いたとき、岩井俊二や石川寛の映画のシーンを幾つも思い出していました。Jennah barryの音楽を聴いていて感じたことと近しいですが(この音楽を聴いているときの方がより直線的に感じたことですが)、人生において何かを欲するときに、せめて欲するにしても自分の手に納まるもので良い、ということを気付かされます。これはサブスクリプションではなくて、フィジカルで持たなくてはならない作品。

Sam wilkes/today

ファラオサンダースの編集版で「meditation」というものがあり、僕はそれを愛聴していました。このsam wilkesを聴いたとき、「ファラオサンダース」「meditation」という言葉が思い浮かんできました。昔、で春から社会人になる後輩から「大学生のうちにやっておくべきことってなんですか?」と12月位に聞かれて「社会人になると時間的にも精神的にも自分に深く潜ることがあまりできなくなるから、今のうちに潜っておいた方がいいかもね」と伝えたことがありました。そんなことをふと思い出しました。僕はまだ、出来うるならば今でも深く自分に潜りたいと思っています。

Ryan driver/they call this everything

せめて、自分自身こそは自分だけの役割をしっかり務めたいと思いつつ、
その役割を見出すということが何と難しいのだろう、と思春期以降ずっと
思っています。自分の固有性やオリジナリティ、特筆した才能、そういう
ものがないと自分の役割を見つけることは難しいのではないか、そんなことをうっすらと感じながら生きていた気がします。ようやく最近、特別なことではなくできることをすればよい、という心持にかわり、肩の荷が下りたというか、ほっとしています。UNKLEのジェームスラベルが、「自分のことを見限るのも才能」と言っていましたが、それがやっと分かるようになってきました。それでも、このryan driverを聴くと、自分だけのドラマティックなことは起きないかもしれない日々を、感傷的に後押してくれる気がします。映画のエンディングロールみたいな音楽。

Paulinho Tapajos/clara

原初的な切なさ、というのがブラジルの音楽にはある気がしています。この音楽を聴いて、僕は何を思い出しているのか、思い出そうとしているのか、はっきりとした情景は思い浮かばないのですが、それでも切なくて胸がいっぱいになります。人生の終わりに、夕日のなかで誰かに抱きしめられているような、そんな感覚に襲われました。

今後も、quiet cornerで素晴らしい音楽を見つけたら、纏めて記事を更新
しようと思います。

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