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一文字も書かずに二ヵ月が過ぎたその後

夫婦のことを書いてみよう。
14年目の結婚記念日に、そんな決意をしてから、一文字も書かずに二ヵ月が経過した。
記録しておこうといいながら、日々があまりに忙しくて――家事と育児とネトフリと食べ歩きと、卒業と入学とドライブとフォートナイトと、授業参観とPTAと読書と猫まみれで――、気づけばもうゴールデンウィークも直前。時間の使い方を本気で考えた方がいいかもしれない。

だからほとんど駆け足でこれまでを書くことになるのだけど、結婚記念日はなにかを買ってきてくれた。なにか……もうすっかり忘れてしまったけれど、結局思い出せないくらいギリギリ心温まるような、それでいて決して大それたものではないものを。私もなにかを用意したはずだけど、忘れたということはその時に思いついた、これまた胃袋程度がほんの少し温まるような「これ好きだよな」という程度で購入したものだったに違いない(いつもの自身の傾向から)。

それから誕生日があった。誕生日の直前にホワイトデーもあったがこれは割愛された(誕生日と近すぎるせいだ。わかっているのにいつも忘れたふりをする)。
誕生日プレゼントに「ロゴの入ったノベルティ的なグッズは絶対に要らない」と伝えたら、「なにをあげたらいいかわからない」と言われた。

一昨年の誕生日は大手コーヒーショップのミニトートを貰った。
シアトル界隈から世界中に旋風を巻き起こした、あの威風堂々としたマークを大きく前面にあしらった黒字のトートバッグ。Yahoo!フリマで購入し、出品者とトラブルになっていたトートバッグ。
苦労して手に入れたのだとどや顔で言われたが、齢50を超えてどのタイミングで使ったらいいのか私にはわからなかった。

その前の年はDEAN & DELUCAのキャンバス地のミニトートで、私が知り得る限り流行りから5年は経過している。その前はよくわからないブランドの水玉模様のミニトートで、今クローゼットにはミニトートバッグばかりが並んでいる。
おんなじようなバッグばかり、本気でいらない。そういえば自分の母親にも毎年毎年ミニサボテンを贈っていて、「お願いだからもう要らない」と言われていたエピソードを思い出す。

一度こうと決めたらそれがいいと思い込む質なのだろう。ちゃんとノーと言わないと伝わらないのだ、この男には。
それでとにかくトートのノベルティ的なものもいらないと告げたら、何を贈ったらいいかわからなくなったらしい。
それは、自分の買い物のためには何時間もZOZOTOWNのサイトをスクロールし続ける気力があるっていうのに、妻の誕生日のためにはその気力がわかないということを暗に示唆しているってことだ。

だがしかし、気の利かない相手に「私のことを想う気持ちを試したい(※言わなくてもちゃんとして欲しい)」と期待する時期はとうに過ぎた。かろうじて「でも贈り物はして欲しい」という感情があるのがややこしいが、とにかく欲しいものをピックアップしてそのURLを連携することにした。

今年は美容に力を入れることにしたので美容液を買ってもらうことにした。とはいえ高価な美容液を買うほどの額の小遣いは与えていない。手ごろと思えるいくつかをAmazonでピックアップしてLINEで伝えると、THE FIRST SLAM DUNKのスタンプでOKと送られてきた。

そして誕生日当日、Amazonの箱のままほいっと手渡してきたので、「プレゼントってそういうものじゃないよね」と言ってやり直しさせたらクリスマス仕様のラッピングバッグ(※使い古し)に包んで渡してくれた。なんでもいいという気持ちが一番いけないんだよ、とこれまでにも繰り返し伝えてきたつもりだが、残念ながらなんにも伝わっていない。

とにかく、そんな風にして自分で選んだ美容液を贈ってもらった。

それから1ヵ月ほど使い続けて、顔のトーンが明かるくなるとかシミが薄くなるとかあるだろうかと夫と息子に問いかけたら、
「変わったわ! あきらかに肌が明るくなった!」
と言われた。

あきらかに明るくなったのであれば、問われる前に言うもんじゃないのかいと思ったが、水を差すようなのでやめた。
「きれいになったよ」というそのひと言が嬉しかったからだ。
実際は水のようになんの効果も感じられはしなかったけれど、魔法のひと言があれば気分が良くなる。
それに彼らは嘘がつけない。
屈託のない笑みを浮かべて「白くなった」とか「前よりきれいになった」とか言葉を重ねる。
韓国産の若者が好むような、そしてプレゼンした中で最安値だった美容液。そもそも大した期待をしていたわけではない。でも、やらないよりはきっとマシなはず。

春のうららかな陽射しの中、私の肌は男たちに褒められて喜んでいる。それがたとえ昼食時で、妻(母)を怒らせない方がいいと思っての言葉だったとしても、ただ純粋に、

私は嬉しい。

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