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オリジナルアニメ『地球外少年少女』ヒストリートークショーに行ってきた

イントロダクション

「電脳コイル」から15年。
当時誰もが想像しえなかった「ARがある暮らし」を予見した、監督・磯光雄。
彼が次に見通すビジョンは――「AIがある宇宙での暮らし」だった。

舞台は、インターネットも、コンビニもある「2045年の宇宙」。
日本の商業ステーション「あんしん」で、少年少女たちは大きな災害に見舞われる。

大人とはぐれ、ネットや酸素供給が途絶した「あんしん」から、自力での脱出を目指す子供たち。
ときに仲間の、ときにAIの力を借り、生きるための行動を採る彼らは、史上最高知能AIが語った恐るべき予言の「真意」にたどり着く。
絶体絶命の状況下で、子どもたちは何に触れ、何に悩み、何を選択するのか――。

キャラクターデザインに吉田健一、メインアニメーターに井上俊之を迎え、最高のアニメーター陣で送る、オリジナルアニメ「地球外少年少女」。
全6話シリーズを3話ずつ前後編として劇場公開。

これは磯光雄がキミたちに贈る「未来予測」。

未来からは逃れられない。(公式サイトより引用)

①創作期

ゼロ稿


『電脳コイル』終了後こそ燃え尽きのようになっていた磯監督だったが、15年の間ただ雌伏の時を過ごしていたわけではなかった。『地球外少年少女』以外にもいくつも企画書を上げて、ボツになり、と試行錯誤を繰り返していた。その中で上がってきた企画の一つが『地球外少年少女』だった。
だがすぐに企画が通ったわけではない。ゆとり世代からは「宇宙に行きたいと思わない」と言われたそうだ。
そんな中で上がったゼロ稿。当初は50人規模の修学旅行で宇宙に行き、次々と命を落としていく…というかなりハードめの内容だった。そこから100稿に至るまでシナリオを磨き上げ、「宇宙への入り口」と感じてもらえるような内容に仕上げていった。

JAXAの少年


シナリオ打ちのなかでJAXA宇宙少年団への取材も行われた。さぞ目を輝かせて宇宙について語ってくれるのかと思いきや、「人が宇宙に行く必要はない。無人機で撮影して、モニターで見れるし」と言われたそうだ。ちょうど中学2年生くらいの子たちだったようで「厨二病だったのだろう」と磯監督は苦笑いしていた。

シンギュラリティ

シナリオ執筆時は「技術的特異点=シンギュラリティ」という言葉やいわゆる「2045年問題」が大流行していたため、磯監督は逆に作品が公開される頃には死語になっているだろうと予測し「ルナティック」という言葉に置き換えた。

米と日本の違い

ハリウッド映画だとAIはいつも人間相手に戦おうとしてくる。日本だとなんでも美少女になる。国民性が現れているんだろう。
ちなみに最初に作られた予告編も最後に「あんしんくんだよ」とよくあるラストに一息つかせる日本的なものだったので、作り直させた。

新しい宇宙観

ガンダムやヤマトで作られてきた宇宙観を一度リセットしようという試みがあった。その一つとして、宇宙ステーション「あんしん」は布で出来ている。宇宙は鋼鉄で軍人が行くものというイメージを変えたかった。
ちなみに、折りたたみの水筒など、出てくる折り紙はできそうでできないものになっているとのこと。
質問で、登矢が「よくそんなもん食えるな」と言っているところを挙げて、「実際何を食べていたの?」と質問があり、監督は「足が六本ある生き物…蚕やコオロギが実際研究されているらしいですよ。」と。また初期段階では居住区の「あんしん」とは別に実験棟「あんぜん」もあり、そこでは遺伝子操作された動物等が描かれる予定だった。

トークショーの行われたなんばパークスシネマにて、磯監督サイン入りスタンディ。

②制作期

キャラクターデザイン:吉田健一氏について

「おもひでぽろぽろ」の頃からジブリに在籍し、磯監督から見るとよく宮崎駿監督に怒られていたイメージがあった。でもあまりへこたれている様子はなかった。ちなみにノンクレジットだが「新世紀エヴァンゲリオン」の1話、使徒がミサイルを掴むあたりのシーンも描いている。
ジブリ退社後、しばらく後(2004年)に磯監督は「電脳コイル」の企画書を持って行ったが、逆に「エウレカセブン」の膨大な紙の束を見せられ仕事を頼めなくなってしまった。
磯監督がデザインしたのは登矢・相模市長・那沙でほかは吉田氏がデザインした。美衣奈(初期は"シイナ"だった)は当初地下ドルという設定だったが、アイドルという発注を吉田氏は山口百恵と解釈した絵があがってきた。
磯監督の描くキャラは"ダサかっこいい"傾向だが、吉田氏の絵は全部かっこいい。そのぶん、うじうじ悩むキャラは苦労するとのこと。
デザインについて「ガンダム・ヤマト・エウレカ・エヴァは禁止!」と言い渡したところ、「(それらの影響が強い・または代表作であるだけに)…じゃあ何を描けば??」と最初は困惑していたそうだ。

メインアニメーター:井上俊之氏について

「日本アニメ界の宝」と呼ばれる人。磯監督も尊敬しており、井上氏が携わったアニメをコマ送りのビデオに録画し、「俊之スペシャル」という自作ビデオを作っていたほどマニア。磯監督が初めて磯監督に会った時のリアクションが、「地球外少年少女」劇中で博士くんが登矢に会った時にリアクションそのままだそう。
「地球外少年少女」と同時期公開となった「鹿の王」でも相当な仕事量をこなしており、「井上さんが3人いれば映画が成り立つ」。早くて上手いので、制作が仕事を振るのが逆に間に合わないという奇妙な状況が発生するようだ。

シナリオ・コンテについて

とにかく時間(と予算)が足りず、カットしたシーンがたくさんある。磯監督渾身の歴史に残るだろうと思って書いたギャグも切らざるをえなかった。
円盤特典になっている6話の絵コンテはケネディ暗殺文書か??ってくらい真っ黒になっている。
もともとは一本の映画でやりたいと思っていたが3時間位になったため6話を半分ずつ前後編で公開する形に変わった。
カットしたのがよほど悔しいのか、端々で「長尺版をいつか…」ともらす姿が印象的でした。
・スマートのアイデア
 電脳メガネをもう一度出すのは芸がないので新しくガジェットを考えた。マイクロマシンを手にはわせて駆動する仕組み。コンビニで一回3,000円でプリントできるが、手を洗うと少しずつ剥がれていき、少しなら大丈夫だが一定落ちると使えなくなってしまう。そして再度プリントに行かせるというビジネスモデル。ちなみにトイレにスマホを落とした時に考えたそうだ。

所感


「電脳コイル」も26話にこれでもかとアイデアが積み込まれていただけに本作に対して創られたアイデアでカットされた部分が多いことはファンの私としても悔しい。いつか完全版が制作できるよう、応援していきたい所存である。


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