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大人になってから長く続いている作品を観るのってすごく楽しい。

ガンダム作品はほぼ未履修なので全後の文脈がほとんどわからないまま閃光のハサウェイを観に行ったら想像以上に楽しんでしまい「なんで今までガンダムを観なかったんだろう?」とまで思ったのが面白かったので文章に残そうかな〜と思い、これを書いています。

自分のガンダム偏差値の低さを理由にガンダムから逃げ続けたわたしへの鎮魂歌が、誰かの勇気になったらいいなともほんの少し思っています。

知らない固有名詞が飛び交う映画をどう楽しむべきか問題

ガンダムは長い作品なので前提となる作品やその知識が膨大にあります。それを履修しないで行ったさいに観客ができることは「詳しくはわからないけど、なんとなくそういう感じね」と受け流すことです。見えるもの、語られるものに最大限の意識を傾けて、エンタメとして割り切って楽しむかんじです。グレッグ・イーガンの小説に書いてあることのすべてを理解することは無理なので、ある程度流しながら読むのと似ています。TENETだってみんな初見だったのに小難しいことたくさん言われてもあんなに楽しめたじゃないですか。


詳しくなくても楽しめるもの

ストーリーは楽しめても、そのバックボーンにあるハイコンテクストな部分には気づく術がないので「多分、これがハサウェイの根幹なんだろうな」と思いながらあのとき伸ばした手で捕まえられなかった女の子を見守っていました(家に帰ったあとで逆襲のシャアを見てひどく驚いたのは別の機会に話したい)。
じゃあ何をどう楽しでいるのか?とガンダムファンは疑問になると思うのですが、閃光のハサウェイは純粋に演出と脚本と画が良かったのでそれを楽しんでいました。そもそもトレーラーでも画が綺麗で迫力がありそうだったのが映画館に行きたくなった理由だったので純粋な画力って大事ですよね。IMAXレーザーGTテクノロジーの暴力でぶん殴ってきたTENETとか(こいつすぐTENETの話出すじゃん)。

わたしは台詞まわしに魂が宿っている脚本というやつが好みなんですが、そうした意味では閃光のハサウェイはあまりにも生すぎる台詞というか、ヨーロッパの映画みたいな役者の演技で隙間を埋めていくような作り方と、キャラクターの細部までこだわり尽くされた演出とが相まって、もはやアニメーションの域を超えている感じを楽しめました。

ちなみに一番お気に入りの演出は、オープニングシークエンスのスタッフクレジットのQ数が極小なところです。バックにモビルスーツがドーン!と表示されているのと対照的にかなり控えめなクレジット表記が出てくるので、物語における“名前”の扱いが、名前よりも大きな何かとか、名前を出したくない気持ちのようなものを感じて、物語を観ていてまさにハサウェイの身の上を表すようだなと思ってグッときました。

ガンダムを避けていた今までのわたし

さて、ガンダムは言うまでもなく日本を代表するシリーズ作品なので、簡単に観てはいけないという強迫観念のようなものがありました。ちょっと年上の人が折に触れて「白い方が勝つ」とか「こいつ、動くぞ」などの言葉を発するたびに、まるでシェイクスピアを読んだことがないことを自嘲する労働階級出身の若者のように「すみませんガンダムは未履修で」と言い続ける人生を送ってきました。時折そんな人生を変えようと思って、再放送されるガンダム作品を見かけては履修するぞ~!という意気込みで録画したりしたのですが、わたしは「観たいから」以外の動機でエンタメ作品を観られませんでした。唯一、鉄血のオルフェンズは「ガンダムって書いてあるし、観てみよう」と思って観始めたらグイグイハマって最後まで手に汗握って楽しめたので、シリーズを通して観た初めてのガンダム作品となりました。しかし、面白いなあと感じたオルフェンズがガンダムシリーズのファンに受け入れられていない様子を散見して、そうか〜これはガンダムの面白さではないのか〜と少しがっかりしました。そのまま他のガンダム作品を観るに至らずに数年がすぎたある日、目に飛び込んできたのが閃光のハサウェイでした。

(完全な余談なんですけど、オルフェンズで不人気な2期は、正義を掲げることの危うさや、学がない人たちが大人に転がされる恐ろしさが表現されているのと、死が劇的なものではなくただの現象として訪れる不条理さが良いなあと思っていました)


重い腰をあげた理由

わたしは映画が好きなので、ポスターやトレーラーがちょっとでも琴線にかかったら映画館に行っています。もちろん原作が面白いから・好きだから観に行くケースもありますが、だいたいどんなストーリーなのかとかも調べずに観ます。それで楽しめなかったとしたら、それは自分が努力を怠ったからだというプレッシャーも課しています。しかしちょっと面白そうだなと思った作品が実はガンダムだと気づいて「ああこれ、ガンダムなのかあ〜」と上げかけた腰がずしんと沈みました。ガンダムはわたしにとってはシェイクスピアであり旧約聖書であり三国志のような存在で基礎教養の一貫だと考えていたにもかかわらず、なぜか10代で素通りしてしまった分野なのです。だから、丸腰で行くのはあまりにも危険だちゃんと履修してからにしろと本能が言っています。
はい、ずっとガンダムを避けていた理由は「ガンダムを観るにはガンダムを観る必要があるが、今はガンダムを観たいと魂が求めていないから」だったのです。

しかし、トレーラーの映像があまりにも良いのと、Twitterに流れてくる感想がめちゃくちゃ良さそうだったのが決め手となって、散々悩んでいたのに「まあひとつの映画として行くならいっか」と観にいくことにしました。この人ちょろいですね。

また、4D映えしそうだなあと思ったのでMX4Dで観ることにしました。MX4Dにしたのには理由があって、4DXは派手ですが結構サスペンションがうるさいのでストーリー重視の映画には向かないかなと思ったのと、動きが繊細なのでロボットの複雑な動きに向いているかもしれないと思ったからです。これが大勝利だったと思います。


ここから怒涛のハサウェイの良かったとこラッシュです


4D最高〜〜〜〜!!

あのですね、乗ってるんですよ、ガンダムに!!!
HMDもつけていないのに、完全にガンダムに乗っていました!!本当です!!!!!
ちょいちょいパイロットの一人称視点の映像で計器類がリアルに作り込まれていたと思うんですが、あのハイクオリティな映像にあわせて座席がいい感じに動くのです!!!それから、いい感じのMX4Dの振動感が合わさって、完全に“乗っていました” ね!!ガンダムVRです!!

ただし、ハサウェイのシャワー中に水しぶきは飛んできませんでした。おかしいな?4DXだったら水しぶきガンガンくるとかあるのかな?

(ちなみに続編では濡れ場があるよと聞いて、4DXの方が揺れそうだなと思って心が揺らいでいます。あなたならどうする?)


キャラクターが生きてる〜〜!!

さりげない所作が作り込まれているので、モブを含むキャラクターたちが作品の中で生きていてびっくりしました。
冒頭のセレブ船のシーンでまず驚いたのが、船内内部の上のあたりにぐるっと手すりがついていて、重力制御が甘くなった(甘いっていうのかわからんけど)ときにケネスがその手すりを一瞬掴んでから床に着地するシーンです。完全に宇宙仕草だなあって見惚れてしまいました(このときは閃光のハサウェイのこの演出すごいなで済んでいたのですが、逆襲のシャアを観た時には「この時代からここまで宇宙しぐさ完成してたの?」ってびっくりしました。ガンダムのすごいところの一つだと思う)。
あと、食事シーンで大食いキャラが大盛になってるでもなく、別の食事メニューをとってるのすごいリアルでいいですよね。ギギちゃん、高たんぱくな食生活だね、美意識高いね。


ペーネロペーかっこよ〜〜〜〜!!

え〜〜っガンダムってこんなに複雑な形して変形しちゃっていいの???ってなりました。しかも光る。4D効果でシアターも光るからもうビカビカのビカ。やっぱり光るのは最高なのよね!!
帰りの物販でペーネロペーが売ってたら買ってた(売り場を探した)。


宇宙の静寂!!

冒頭もですが、とくに宇宙でガンダム取りに行く瞬間の静寂、引き込まれますよね。空気のない宇宙には何もふるえるものもなく、ハサウェイの心も凪ぐように静かに、狂っていくような……宇宙に重なる、ハサウェイの人格みたいな……はぁ、いいっすね。


若い時にしか感じられないものは確かにあるけども

と、こんな感じで身構えていたはずのガンダム作品を大いに楽しみました。
とはいえ、青春時代に接種しないと得られない神聖な領域というものはあります。
わたしは中学二年生のときにエヴァンゲリオンに出会ったのですが、ざっくり20年くらいかけてシン・エヴァンゲリオンまで到達したことで受けた感銘というものは、何物にも代えがたいです。そしてそれはガンダムにも、プリキュアにも、あまねく全ての長く続いている名作にはあるので、そうした年代に得たもので大人は存在しているんだなあと常に思います。
ですが、大人の感性や知識のアーカイブを以って出会ったからこそ楽しめるものもあります。聖書の引用やセックスのメタファーに気づいて、言葉で直接語られない余白を感じ取って「うわ~この映画、罪が深い~」などとニヤニヤできるのです。これは、純真無垢な子供のころには難しい楽しみ方です。
なので、時系列的に中途半端なところから観たけれど、大人になった今、ガンダムに出会うことができてよかったと思っています。

ずっとファーストから観なきゃいけないし…とかまごまごしていましたが、琴線に引っかかったやつから観てもよかったんだなあって気付きました。

余談ですが、ハサウェイの手が届かなかったあの女の子は逆襲のシャアに出てくるよと聞いてすぐに観ました。そしてクェス・パラヤという人間があまりにも脳裏に焼き付いて翌日もう一度観ました。ものすごく面白かったので、ちょいちょいガンダム作品を観ていきたいなと思っています。次は、ララァさんが出てくるシリーズを観たいなと思っています。

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