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三浦靖冬展に行って来たのこと(余録)


三浦靖冬先生の展示会についてつらつらと感想を書いたところ

存外に多くの方々に読んでいただいたようで幸甚の極みです。

展覧会の中の人にはすっかり重箱の隅を突くイヤミなおばちゃんに

思われてしまったけれど(笑:そんなことないですからね~(m_m))。

さて、自分にとって三浦先生とはどういう存在なのか余録として

書こうかなと思っていましたが、「おつきさまのかえりみち」

発売当初にmixiレビュウに投稿した文章が見つかったので

これを一連の三浦靖冬展に関する感想文の締めにしたいと思います。

なにせ18年前(あれ? 計算が合わないと思った人は「17歳教」で

検索したまえ)に書いた文章なので今更人目にさらすのも

恥ずかしいが、あのとき単行本を読んで感じたものと今、

改めて展示会で生原稿を観終えて感じる何かはちょっと

違っているように思う。

まあ、「若気の至り」のひとつの形として読んでいただければ

幸いである。


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不思議な作品集である。

この単行本に蔵められた一連の作品が掲載されて
いるのはいわゆる「成年向け」漫画雑誌であり、
当然少女たちのあられもない姿が全編に亘って
描かれている。
だがそれよりも眼を引くのはその「絵」と「線」だ。
スクリーントーンをほぼ使用しない、モノトーンの
世界と、細かなタッチを加えられた描線。
どこかレトロで懐かしく不思議な雰囲気を醸す
背景や小道具、服装などの意匠。
そして日本画の顔料絵の具で色彩られた、独特の
深みを持つカラーイラスト。
(作者は大学で日本画を専攻していたそうだ)

こうした舞台の上で描かれる様々な恋愛。
その多くは悲恋であったり残酷な結末を迎える
こととなる。
収録作のひとつ「とおくしづかなうみのいろ」は、
或る特殊な体質のため、世俗から隔離されて育って
きた子供たちの物語である。
子供たちを待ち受けているのは絶望的な「死」。
或る者はそれを受け入れ、或る者はそれを抵む。
隔離施設を飛び出した少年と少女は、逃避行の末、
まだ実物を見たことのなかった海へとたどり着く。
そして迎えるラストシーンは、あまりに残酷で、
心震えるほどに美しい。

その懐古的な作風と相俟ってなのか、そこかしこに
かつての日本ATG映画や、寺山修司の世界を彷彿と
させる部分も見受けられる。
きわめて日本人的な精神論、死生観、そして世界観に
よって、若者の希望と挫折を痛々しいまでのタッチで
描いた、あの世界である。
果たして作者が、そういったかつての文化に影響を
受けたかどうかはわからないが、登場人物たちの
苦悩や感情の微妙な揺れ動きなどを丹念にかつ
叙情的に描いたこの作品は、まさにそういった
「心優しく、弱きもの」たちの後継者かもしれない。
そう思わせるほどに、これは不思議な作品集なのである。

(了)


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