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三浦靖冬展に行って来たのこと(弐)

【前回のあらすじ】
佐々宮が心酔する漫画家、三浦靖冬先生の久しぶりの
原画展が開かれると知って、ウキウキ気分で数年ぶりの
銀座に繰り出すのだが……。


はい、続きですよ、ぼっちゃま。

会場のヴァニラ画廊さんは銀座の外れ、八丁目の雑居ビルの
地下二階にひっそりたたずむアートスペース。
(東京ラーメンマニアなら名店「はしご」銀座八丁目店の
隣というとおおよその位置がわかるかも)
最寄り駅のJR新橋までは東京上野ライン直通で1時間ちょっと。
銀座口を出て、いざ歩き始めて五分で気付く



──ここ、どこ?(涙)



HPに用意されている地図が大雑……いや、シンプルで
どこを目指して歩いていいのか無類の方向音痴は解らない。
まず、警察でランドマークと思しき博品館トイパークの
場所を聞く。まっすぐ行って二つ目の信号を曲がって
くださいと教えられたが、そこには博品館はなかった。
(曲がる信号を間違えたらしい)
住所は銀座八丁目とわかっているので八丁目、八丁目と
呟きながら(この時点で疲労度MAX)歩き回るのだが、
もはやただの危ないヒト。
銀座の和光が見えるところまで出てきた時点で、
これは絶対違うぞと気付いて、もう一回Uターン。

ジリジリと照りつける夏の名残の太陽。
刻々と迫る入場時間。
(今回のチケットは入場時間指定なので、13時までに
会場に到着しないと無効になってしまうのであった!)
無論、私とて闇雲に歩いていたわけではない。
スマホのGoogleマップとにらめっこしながら
郵便局局員さん、エスニック料理屋さん、花屋の兄さんと
銀座八丁目はどこですかと訊ね訊ねて、最後はコンビニの
レジのお姉ちゃんの「あ、それならこの2本先の路地ですね」 
という至ってシンプルな案内でようやく展示会々場の
ヴァニラ画廊さんの入っている雑居ビルを発見。
エレベーターはないのでフラフラになりながら、階段で
地下二階に下りていったのであります。

新橋駅銀座口を出てからここまで約90分。
ヴァニラ画廊さんのHPには「銀座口より徒歩6分」と……。
もしかしたらわたしは「銀座」じゃない別の「銀座」を
遭難しかかっていたのでしょうか。
ドンキとか肉のハナマサとか観ましたし(実在します)

余談ですが、初日の時点で同じように遭難しかかった
お客さんが多かったらしく、その後何度か会場への行き方が
詳しく紹介されておりました。逆に何事もなくたどり着けた
脳内GPSの高い性能の方々に本気で嫉妬しますわ。ムキー。

会場へ下りていく階段は薄暗くてなかなか良い雰囲気。
踊り場には今回のメインビジュアルがでかでかと。
さあ、いよいよ展示会会場ですぞ。
(今回展示物は撮影禁止だったので、拙文で雰囲気を
味わって下さいませ)

会場はA、B二部屋に分かれており、一部屋10畳くらいの
真っ白な壁の小部屋。
その壁面、天井から床ギリギリまでにずらららっっと
「薄花少女」の原画が連なって展示されていました。
なんというか、部屋の白さとあいまって、死ぬ前に観る
「記憶の走馬灯」ってこんな感じじゃないかってくらいの
数の原画に圧倒されました。
間近で観る原画は本当に緻密で、でも初期作品に比べると
空間の余白を上手く使うようになったな、なんてエラそうに
思ったり、何気ない風景に電柱とか電線をこれでもかっ、と
描き込む姿勢は相変わらずだなと唸ったり。

そして改めて生原稿に囲まれて思うのは、この作品の
根底にはどこかしら「死」が漂うこと。
ハッカは既に死んでるかも(あるいは死に近い状態)
しれない。だとしたらこれはハッカばあや最後の願いの
「夢」なのか。
逆に史が同じような状況にあって、もう一度ハッカばあやに
会いたかったという想いが幻影として見えるだけなのか。
そう考えると、これは単なるほのぼのとしたファンタジィ
ではなく、デビュウ初期に観られた「死」と「生」の境界を
丹念な筆致で描いた作品の延長線上にあるという読み方も
できるだろう。

そうそう、「薄花少女」展示の部屋の中央にはミニ畳が
一畳敷かれていて、ミニ卓袱台に湯飲みと、ちょっとだけ
史とばぁやの生活的風景を垣間見ることが出来ます。
本当は四畳半くらいの広さで再現して欲しかったけど、
さすがにそれは難しいか。

「薄花少女」の他には「月刊少年チャンピオンRED
いちご」で連載されていた「えんじがかり」の生原稿。
こちらは初の一般誌への本格的連載作品となった。
聞くところによればこの作品からインクを替えた
とのことで、カラー原画などにその一端を垣間
見ることができる。
作品としてもこれまでのワニマガジン時代とは
一線を画している。何せ設定が「ネコ(ミミ付き
眼鏡幼女型ロボット)が小学校のクラスにいて、
朝な夕なにお世話する係がいる」というもの。
作者自身「もしドラえもんが幼女型だったら」が
着想の原点と記しているが、主人公の少年との
共同生活によって次第に表情豊かになり、
ヒトに近づくヒロインえんじの変化や
「えんじがかり」にされてしまった主人公の
少年の微妙なオトコゴコロみたいなものも
丁寧に描かれ、単なるパロディを超えて
ファンタジィに昇華している。
掲載誌の休刊によって単行本1巻で終わっている
のが実に残念な作品集である。

また珍しいところでは作者の商業誌デビュウの
連載作品「トラブルチョコレート」イラストが数点。
「トラチョコ」はオリジナルのTVアニメ(筆者は
丹下桜がやたら『ハイですの♪』と叫んでいたという
印象しかないのだが)とはまた違った世界観で、
三浦靖冬ファンとしてはこれもぜひまとまった形で
読みたいと願っているのだが残念ながらその機会が
無いまま今日に至っている。

図録は四千円以上するだけあっても図版も大きく
「薄花少女」以外に取り上げている作品も多い。
ただ図版にがんばった分、著者本人の作品コメントや
別紙の初出一覧にいくつか誤字があったのは残念。
今後の研究のベースになる重要な資料となるはずなので
しっかりして校正して欲しかった。
(いや、でも、大人が二人がかりでチェックしても誤字
脱字はナゼか出て来るんですよ、ハッカばあや)
さらに労作である作品論は小さな文字でぎっちり
詰まって読み応えがあるので、ハッカばあやほど
ではなくとも年寄りにはちょいとしんどかった。

会場ではジーグレイ(デジタル・リトグラフ)が
数種類販売されており、記念に一枚くらいいいかなと
一瞬思いつつ、今の拙宅には絵を飾るスペースも
ないので、ダンチョーの想いで諦める。
それでも、もし一番好きな「おつきさまのかえりみち」
表紙絵があったらまず間違いなく買っていただろう。
日本銀行に借金してでも買ってただろう。
旦那を質屋に(それはもういいって)

こうして約1時間ほどAB展示室を行ったり来たり
しながら数多の原画を間近で観られるという眼福を
堪能し、図録と私家版「薄花少女」第五巻会場を
あとにしたのであった。

平日昼間という事もあってか、客層は若い男性が
多かったように思う。女性ファンはやはり近作
「えんじがかり」「薄花少女」で注目するように
なった方が多いのではないだろうか。
そりゃ初期単行本は絶版状態で入手困難な上、
内容がアンアンだから(苦笑)
でも、単なるヤるだけエロじゃないからね、
「とおくしづかなうみのいろ」なんて泣くからね、
唯一無二の作家、三浦靖冬をあなたにできる
スタイルでこれからもひっそり(笑)応援しよう!


#ちなみにその後地下鉄で秋葉原に行って
コミックス買って、毎夏コミケ後に食べていた
田中そばの冷やしかけを食べて、FGO/ACを
遊んで、東京駅で夕飯を買って帰りました。

おしまい。
またそのうち何か思い出したら、余篇を書きます

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