Jalan Sriwijaya 98902 コードバンシューズ
幻の革と呼ばれる革がある。
それは帝政ロシア時代に作られていて今は失伝しているというロシアンカーフ、そしてもう一つは農耕馬の臀部から採れるというコードバンだ。
ただ、もう入手がほぼ不可能なロシアンカーフに対して、少量ながらも今も生産されているコードバンは、幻とは言い難いと思う。
どんな地方都市でも探せば必ずコードバンを使用したレザーグッズは目にすることができるが、ロシアンカーフはそう簡単にはいかない。
噂には、尾ヒレが付きものだ。
とは言え、コードバンの靴も決して安価ではない。
革は食肉の副産物であるので、農耕馬を食べる地域の馬肉の需要が減っている関係で生産量は減る一方と言われる。
革そのものの価格は一足あたり1万円台と言われるが、作成時にも気を使う革だし、安定供給できるかといえばそうではないため、高価になりやすい。
高価と書いたものの、このJalan Sriwijayaのコードバンの靴も実は定価で買っている。
子供が生まれた次の日に、嬉しくなって買った。
6.9万円だったが貯まったスタンプカードと引き換えに10%引きの6.2万円、更にシューツリーも付いてきた。
クーポン使用とはいえ、僕はJalan Sriwijayaの靴は定価で買いがちのようだ。
そしてコードバンの靴を買ってまずやることは何か?と聞かれると、多くの靴マニアはこう答えるだろう。
「シワ入れの儀だ」と。
靴マニアたちは、理想のシワを手に入れるためにシワを人工的に「入れる」のだ。
というのも、コードバンは一度入ったシワが癖付いて取れなくなる。
また、コードバンの靴は波打つシワを楽しむのが魅力の一つとなっている為に、多くの人は変なシワになって欲しくないと考えるのだ。
僕もやった。
ペンをシワのガイドとして、靴に押し付けて踵を上げるのだ。
その姿を横から見たら間違いなくアホらしく見えるだろうが、恋をして盲目になっているかの如く夢中で「儀」を執り行った。
成功したのか失敗したのか判断できないが、少なくとも変なシワにはならなかった。
後日購入した店舗に行くと、買った時の店員さんが「綺麗にシワが入りましたね!」と喜んでくれた。
ちなみにコードバンといえば米ホーウィン社や日本の新喜皮革が有名だ。
この靴はイタリアン・コードバンと書いてあったので、多分コミペル社のものだと思う。
ホーウィン程のツヤにはならないと言われるが、乳化性クリームでケアしただけでもそれなりに光る。
当たり前だが、僕が気に入っている千葉スペシャルで磨いてもらうと、とんでもなくピカピカに光ることになる。
こんな事を書くと「偉そうに書いたくせに、本質と違う事を言っているではないか」とお叱りを受けそうではあるが、実際に千葉スペシャルの職人も「うちはコードバンで有名になったんですよ」と嬉しそうに言っていたので、多分コードバンに関してはピカピカに光ることを喜んでもセーフなのだと思う。
革が柔らかくなる効果も、コードバンに関しては元が固いのでより実感しやすい。
コードバンはカーフと異なり銀面がなく、雑に言ってしまえば「スエードと同じ」構造だ。
その起毛が非常に細かく、起毛を寝かせることにより独自の光沢が出る。
裏を返せば、スエードと同じようにコードバンはクリームが浸透しにくく、市販のクリームを塗ってもまるでガラスレザーのように「クリームが乗っているだけ」という感覚が強い。
そう言った部分において、千葉スペシャルはそんな事は何も知らないかの如くクリームを浸透させてしまうので、本来は苦手なはずの補色も難なくこなしてしまう。
話が脱線してしまった。
この靴の素晴らしいところは、立体的なTimoという木型である。
本当によくできていて、散々履いたが履き下ろしから靴擦れを起こした事が全くない。
その上、ドレスにもカジュアルにも使えるトゥの丸みはいい塩梅だ。
イマイチな点は、Aldenを意識しすぎな点である。
僕はプアマンズ・オールデンが欲しいのではなく、本気のJalan Sriwijayaが欲しいのだ。
Jalan Sriwijayaの一番の強みはハンドソーンウェルテッド製法によるソールの返りの良さであるが、この靴はAlden 9901を意識したのかダブルレザーソールだ。
タダでさえ固いコードバンのアッパーに固いダブルソール、そして謎のインソックのスポンジにより履き心地が変で、長く歩くと疲れてしまう。
おそらくこの靴の問題の解決手段は、オールソール交換だ。
シングルレザーソールに交換することで、履き心地が改善する。
また、ストームウェルトである事を考えると、ソールの厚みがあったほうが見た目のバランスは取りやすい。
よって、ハーフコマンドソールなどのカスタムをする事で前半分のソールを厚くし、バランスを取るのが良いだろうと思う。
と色々と考えてはいるものの、とりあえずはこのまま履いて過ごしてみようと思う。
僕にとって幻の革たるコードバンははじめてだし、価格的におそらくこれが最後にもなるだろう。
その唯一のコードバンの経験を、無理に急ぐ必要もないのではないだろうか。
この靴同様に僕も決して完璧な人間なのではないのだから、何かのタイミングを見つけて共に成長してゆこうではないか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?