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ショートショート『洗脳』 

部長『な、なんだこの騒動はっ!』

放送協会は極度の混乱に陥りつつあった。

部長『一体どうすればいいんだ――』


混乱の正体はある実験データがネット上に記載されたことから始まった。――


爆売れの裏側!!放送界の秘技!?

『CMの中に1/3000秒の早さで”すぐ買いに行け!!”というメッセージを数秒間隔で注入したところ、売り上げが以前よりも80%伸びた。』
というデータが○○氏らの調査によって判明しました。
○○氏によれば、どんな動画でも同じような効果が期待できるとのことです――

後にサブリミナル効果と呼ばれるこの現象はすぐに世間に広まった。

市民『こんなのデタラメだ!!実験データもより綿密な検証が必要だ!!』

そういった疑いの目を向ける者も多かったが、この画期的かつ簡単な利益向上方法は各テレビ局が火種となり拡散。続いて動画配信者、さらには学校教育にも使われるようになったという噂まで出てきた。

使用した会社は瞬く間に業績を上げていった。そのせいもあってか徐々にデータも集まりだし、信憑性は日に日に増していった。それと反比例するように、サブリミナル効果を疑う者は少なくなっていった。


こうしてサブリミナル効果は揺るぎない地位にまで登り詰めた。


日に日に影響力を増すこの悪魔的な方法は、良い効果が得られると支持する人が増える一方、洗脳されるのではないかという不安を抱く人も出始めた。

不安はサブリミナル効果がその地位を確立するにつれ、各々の心に徐々にのしかかっていった。


――その不安を抱く人々がついに耐えられなくなり、今こうして伝播の元凶であるテレビ局にデモを起こしている。

デモA『今すぐ止めろぉぉぉ!!!』
デモB『みんな洗脳されてしまうわ!!!!』


”ガッシャーン!!”


部長『窓ガラスが割られたぞ!!』

デモ隊の一人が怒りに我を忘れて石を投げ始めた。

部長『もう終わりだ・・・こんなことはじめからしなければ良かったんだ。』

部長『今すぐ謝ろう。”本当にすみませんでした。今日以降サブリミナル効果の使用を禁止します。”正直にそう言って許してもらおう。そうだ、それがいい。』

部長『――でも、もし許してもらえなくて攻撃されたら・・・』

常務『そんなに悩んでどうしたんだい?』

部長『常務っ!!あの、デモの人たちに対して謝ろうと思っているんですけど、中々勇気が出なくて・・・』

常務『はっはっは!そんなことか!大丈夫だ安心しろ、私が行ってくる。』

部長『常務が!?そんな、本当に大丈夫ですか!?非常に危険だと――』

常務『私には秘策があるんだ。ふっふっふ、この秘策は凄いぞ!誰の怒りも鎮められる。参考になるだろうから君も見に来たまえ。』

部長『秘策・・・?は、はい!分かりました。』


デモ隊の前にて――


常務『皆さん!!聞いて下さい!!私たちは本当に取り返しのつかないことをしてしまいました。この場を借りて我が社一同お詫びを申し上げます。』

常務『もうこんな悲惨な事態を起こさないために、今後の方針をまとめた動画をこちらに用意しました。これからの清らかな社会作りのため、是非ご視聴下さい!!――』












デモ隊『・・・』


無言で帰って行くデモ隊を尻目に

常務『どうだったかね?とても素晴らしい秘策だっただろう?』

部長『はい!!とても素晴らしいものでした!これからも社会のために積極的にサブリミナル効果を取り入れていこうと思います!!』

常務『威勢が良くて結構!!これからも頑張ってくれたまえ。期待しているよ。』

部長『はい!では、仕事に戻ります!』





常務『――ふふふ、サブリミナルで抱いた不安なぞ、サブリミナルで消してしまえば良いのだ。』

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